先輩は…
今回のテーマは「先輩」です
私には冒険者の先輩がいた、誰もが背中を追いかけたくなるようなまるで御伽噺の勇者のような存在だった。
ある日先輩は王都から勅命を受けて魔王討伐に向かうことになってしまった、仲間を集めて向かってもよいはずだが先輩は1人で討伐に向かってしまったのだ。
半年がたってしまったが先輩が戻ってくることはなかった、そこで私は秘密裏に先輩の後を追って魔王城に向かうことにしたのだ。
初めは王都の近くの村によって情報を探すことにした、村人から先輩が村を襲う魔物の一団を成敗したと聞いて、自分のことではないのに鼻が高くなってしまった。
その後、雪が降り積もる国で情報を収集していたのだが、荒ぶる雪の精を名乗る魔物が住人に迷惑をかけていたのを見てしまった。
私は先輩からよく手解きを受けていたので雪の精一体では相手にならなかった、迷惑をかけたケジメとして討伐しようと思っていたが雪の精は元々迷惑をかけるつもりではなく、何やら事情があってのことだった。
事情を聞いた私はなんとか住人と雪の精の間をとりもつことで、事件は解決することになった。これも先輩の教えがあってのものだと思っていたところ何故か雪の精から先輩に繋がる情報が出てきた。
私はその情報を聞き毒の沼地へと足を運んだところ、そこにはあまりにも負傷した兵士たちがいた。
すぐに救護活動を行っている中、兵士の1人がこんなことを言った。
「なァ…あの勇者さまは大丈夫かね?1人で魔王を倒すなんて流石の勇者の御仁でも厳しいんじゃないか?あの幹部ですらこんなエゲつないのに…」
それを聞いて私はつい飛び出してしまった
魔王城までひたすらに走った
「今代の魔王はやばいらしいぜ、幹部ですら国一つ滅ぼすレベルだ」
うるさい
「勇者様もそりゃ大変強いんだろうが1人で行くなんて…正義感の強さも時には仇か」
うるさいうるさい
「アノユウシャ、オワッタナ。シロニハシテンノウモマオウサマモイル、カテルミコミハゼロダゼ」
うるさいうるさいうるさい!
そうして無我夢中に走った私はいつのまにか魔王城の門についていた。
門番A「見ろ、また人間がやってきたぜ」
門番B「ん?待てよあの顔は」
私は剣を構えた、しかし
門番A「ゲッヘッヘ!通してやるよ」
門番B「お前のことは四天王様に仰せつかってるからな!」
私はこの門番の対応に変な感じを覚えつつも城の中を進み大きな広間に出た
魔王軍幹部「ようこそ、魔王様の居城へ。全く彼に似て正義感が強そうなことだ」
私は声を荒げてしまいながらこう言った
「先輩はどこだ!」
魔王軍幹部「あぁ…彼なら既に魔王様のところにいる、まあ今会ったら君は驚きのあまり…クックックッ」
わかってた
今代の魔王は今までと違ってすぐにはいなくならなかった、それほどの力量を持つ相手ということだ。
先輩がいくら強い冒険者だとしても1人で戦い続けることなどできるはずもない、私が止めるべきだったのだ。
そんな最悪の未来を想像してしまい私は膝を折りこの恐怖に屈服してしまう。
魔王軍幹部「ククッ、まあいいここまできたご褒美だ、魔王様の元に向かうといい。まあその後の未来がどうなるかはわかっているな」
この言葉を聞いて何故か私は立ち上がって魔王の元に向かってしまっていた。
そして魔王の間の前まできてしまった
私を突き動かしているものはなんだろう?
怒り?悲しみ?もしかして先輩と相対した魔王に文句の一つでも言いたいのかもしれない。
まあ先輩が勝てなかった相手に私が勝てるはずもないか、そうなった時は潔く…
そうして扉を開いた、そして幹部の言う通り私は驚いてしまった…
魔王(?)と思われる女性と先輩が談話していたのだから………
「はっ?えっ?はぁーーー!!!???」
私は素っ頓狂な声を出してしまった
先輩「!おっ!後輩じゃないか久しぶりだなぁ!剣の腕は上がったのか?」
魔王「勇者様、もしかしてこの御方が?」
先輩「あぁ!昔唯一俺の弟子として色々と教えた後輩ちゃんだ!」
私は先輩にかなり評価されていたようで思わず顔が赤くなる
魔王「立ち話もなんですし、こちらへどうぞ」
そうして私、先輩、魔王というこの世でもっともありえない茶会が開かれることになってしまった。
どうやらそもそも今代の魔王以前から魔族の上澄みの間では既に人間を襲わずとも生活の成り立ちができるようになっていたらしい。
そこに今代の魔王である彼女が思い切って人間との交友を深めようと打診したのである、当然初めは反対する声も多かったが魔王様が勇者である先輩を引っ張ってきてなんとか周りを説得することで反対派閥は思ったより減ったらしい。
「にしても先輩はよく話を聞く気になりましたね、昔は結構話聞かずなことありましたし」
先輩「まあ、まさか身一つで魔王を名乗って僕のところに助けを求める女性のことがほおっておけなかったんだ、昔の君みたいにね」
その話を聞いて、私は昔家から捨てられた時にまだイカつかった頃の先輩に無理をして押しかけて助けてもらったことを思い出した
魔王「勇者様には本当に助けてもらってます。人間界のトップがこの交友関係に立ち入ってくれるおかげで納得してくれる魔族も多いぐらいですし…」
先輩「いやでも昔のままだったら話を聞かずに剣を抜いてしまっただろうな…そうならなかったのはお前のおかげなんだぜ後輩ちゃん」
〜ここから少し過去回想〜
先輩「まったく倒しても倒してもキリがないな」
後輩「にしてもなんだか魔族側にやる気が感じられませんね」
先輩「俺にビビったのか?まあいい他も倒すまでだ」
後輩「もしかしたら魔族も戦いたくないのかもですね」
先輩「あん?」
後輩「もしかしたら魔族の中にも人間と同じように知能があって、互いに歩み寄れるようになることがあったり…まぁ流石にないですよねぇ」
先輩「………まさかな」
〜過去回想終了〜
「自分で言っといてなんですけど本当に実現するんですね」
先輩「あぁ、その気持ちにさせてくれた後輩ちゃんには感謝してるぜ」
魔王「ありがとうございます後輩ちゃんさま」
「まあでも争い合うことが無くなるならいいんじゃないですかね、私が見てた子もたまにそのまま帰ってこなくなったりするのは辛いですもん」
魔王「……そうですね、ところで後輩ちゃんさまはどなたか好きな人がいたりします?」
「どうしたんです急に?」
魔王「実は私平和の架け橋の一旦として勇者様と結婚することになってしまって」
先輩「なんか周りは乗り気だしねー、断るに断れなくなっちゃった」
魔王「それで恋バナ、なるものをちょっとしてみたくなっちゃって」
かわいいなこいつ
「でも残念だけど私たちじゃ恋バナできないよ…」
魔王「どうしてです」
「だって………私が好きなのも先輩だもん」
先輩「えっ」
魔王「えっ!?」
「なんでそんな顔するんですか!人生救ってくれて!危機を何度も助けてくれて!それで惚れない方が無理があるって話ですよ!!」
先輩「あーなんかごめん、君の気持ち蔑ろにしちゃったみたいになっちゃったね」
魔王「すみません…まさか勇者様に惚れていたのに寝取りのようになってしまって」
「うるへー!初恋は結局実らないんだ!こうなったらイケメン魔族と結婚してやるからな」
こうして魔王、先輩、後輩の語らいは次の日の朝まで続いたのだった
その後、数年かけて人間と魔族が協力する土壌を作り上げ、勇者と魔王の結婚を機に反対する意見もほぼ見かけなくなった。
これから魔族と人間の協力し合う営みは何万年と続くであろうことが約束されたのだ。
先輩は歴史を変えることになった偉大なる先駆者、世界の先輩になったのだ。
なお人間と魔族が初めて共存することになった国で顧問相談役をしていた後輩の元に黒騎士の鎧を身に纏うイケメン魔族(貴族なので金持ち)が求婚しにくるのはまた別のお話…