カーテンの裏側
今回のテーマは「カーテン」です
私はカーテンの裏側に立っていた。
まだ私が幼い頃、私がよくお世話になっている人から指導を受けていた。この頃の私は辛く感じるこの指導に嫌気がさして、街に繰り出していた。
見ず知らずの子供の私に街の住民は優しくしてくれた、私は気を良くして歩いていた。
そうして夕方に差し掛かるまで楽しんでいた時だった、いきなり影がかかったと思った瞬間周りのみんなが苦しみ出したのだ。
私も当然苦しみの中で指導を受けなかった天罰だと後悔していたところだったのだが、周りの大人達が私に覆い被さることで苦しみが軽減されたのだ。
後からこの出来事の正体がカーテンの表側が実行した生物兵器による毒の雨だったことを私は今でも許すことはできないだろう。
そうして救助された私は周りの大人達からガミガミわやわやと小言を言われて、奥にある1人用の反省部屋に叩き込まれてしまった。
それからというもの変な大人達から面白くもない話を延々と聞かされ続けるようになってしまった。初めはこれは○○のために必要なことなんだと正当化するような声、それに続く言葉は君はそっちに立つことができる逸材なんだという心のこもってない賛辞、その話の果てには神だの導きだとまるで大いなる存在まで醸し出してくる始末だった。
聡い私にそんな話をしたところで信じると思っている表の人間には辟易するばかりだ…そもそも神がいるのなら私の両親はあんな目に合って死ぬことなんて…
そうして1人で反省部屋で過ごして数ヶ月たった頃に隣の部屋に白髪の美麗な子が押し込められていた、私は怪訝に思いつつもその子に声をかけてみることにしたのだ。
その子は何やら不思議な子で声に力があると豪語して憚らなかった、実際その子の声は聞く人を震撼させるのかもしれないと私も思うようになった。
それからその子とは仲良くお喋りや、たまに歌の稽古をつけてもらうようになった。昔の指導に比べて自分を出せるような気がしてかなり気持ちが良かった、その子も私のことを褒めてくれていつか2人で公演しようだなんて言ってくれたものだ。
その子は時々咳をするのが目立つようになった、奥の部屋なこともあって換気は良くない。今度きた大人達に一度掃除するように頼み込んでみようか、ご機嫌取りも兼ねて。
そうしてその子から歌を学び、親睦を深め、いつか2人で人生の幕を盛大にあげようと思うようになった。
でも、そんな日々は長く続かなかった。
ある日、私が居る孤児院におかしな大人達が押しかけてきたのだ、私達を育ててくれていた大人達は無惨に惨殺され、子供達もどうなったのかわからなくなった。
そして2人奥にいた私達は流石に異常を感じ、ここから逃げ出そうとした。
そして遠くの森の入り口に差し掛かったときだった、始末をつけた大人達が生き残りを探しにここまできてしまったのだ。
どうしたものか思案していた私を尻目にあの子はその方向に向かってしまった、何をしているのかと声をかけようとしたのだがその子はこう言ったのだ。
「わたし、実はもう長くないの」
私は絶句した、なぜそのことを教えてくれなかったのかと。何故自分のことで手一杯だろうに私なんかを気にかけてくれたのか。
その子は最後に
「これからは貴方のために、そしてみんなのために歌って。雨でも晴れでもどんなときでも、私はいつでも見守ってるから…」
そうして私は森の中を懸命に走った。
その後疲れ果て気絶していた私は優しそうな老夫婦に拾われた。
あの事件の顛末を恐る恐る聞いてみると、どうやらカーテンの表の世界の軍隊が裏を潰すための一環の行動にすぎなかったらしい
私がそのことを聞いても老夫婦は私を捨てたりしなかった。
そうして数年が過ぎることになった…
私は全てを失った、初めて繰り出した街で許しの心を。孤児院を過ごす中での世の中の常識を。そして逃避行の果てでの最も親愛な友達を。
私はこの世界を許すことはできない、きっと思い立つ時には全て破壊してしまうのだろう。
でもその自分の心は深く、深くに沈み込ませる。そんなことをきっと友は望んでいないだろうから。
そのために友は私に力をくれた、歌唱という力を
私は表の世界で一躍スターとなって今は歌姫と持て囃されている、私は心底都合のいい民衆にまた辟易している。
だがそれでいいのだ、かつて友が最初で最後に語った夢。いつか表と裏の差別がなくなることを…
そのために私はカーテンを開くをいつか実現してみせる。
その頃にはきっと自分の心をカーテンにしまうことができるだろうから…