表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/40

第8話 新入生の洗礼

 「本日はダンジョンアタックの授業を行う!」


 生徒達に対して、代表の先生が声を上げた。

 目の前の大きな入口を前に、シオスは思わず息を呑む。


(ダンジョンってこんなに大きいんだ……)


 ここは『グランフィールダンジョン』。

 学園が所有する大きなダンジョンである。


 ダンジョンとは、別名“迷宮”とも呼ばれる場所。

 洞窟のような入口を抜けると、中は迷路のようになっており、一定の周期で構造までも変化するという。


 財宝や、ダンジョンでしか手に入らない鉱石なども存在し、多くの者は資源獲得のために突入(アタック)する。


(頑張ろう!)

(きゅい!)


 入学から、約一週間。

 このイベントは、毎年一年生がすぐに行う恒例授業である。

 ここでの成果は、前期の成績に大きく影響するそうだ。


「安全が確保されているとはいえ、立派なダンジョンだ! 気を抜くなよ!」

「「はい!」」」


 今回探索をするのは、上層。

 ダンジョン内で最も難易度が低い層だ。

 その中で、決められた資源を確保するのが目標である。


(すごいなあ、こんな物まであるなんて)


 生徒達には、いざという時の物資が支給されている。

 シールド付与ができる緊急デバイスなどだ。

 それを以て「安全が確保されている」という言葉だろうが、探索をするのはあくまで生徒自身。


 心身共に、グランフィール学園の洗礼のような授業と言える。


「それでは、各々のパーティーで突入開始!」

「「「はい!」」」


 先生が手を伸ばすと、生徒は一斉に走り出す。

 そんな中で、シオスも隣に顔を向けた。


「僕たちも行こうか!」

「……! え、ええ!」


 声をかけられ、レティアもハッとしながら体を動かす。


 パーティーの条件は二人以上、五人以下。

 シオスのパーティーは、レティアのみだ。

 人員を増やすことも考えたが、レティアを思ってこの決断をしたようだ。


(他の人は入れたくなさそうだったからなあ。レティアの強さなら大丈夫だと思うけど……)


 パーティーに関して心配は無い。

 だが、一つだけ。

 今のどこかぼーっとしていた様子が気になった。


「あの、大丈夫? もしかして体調とか悪い?」

「……!」


 対して、レティアは目を見開く。


(何をしてるのよ、わたしは……!)


 緊張感が足りなかったこと。

 パーティーメンバーに心配をかけたこと。

 それらが自分で許せなかったようだ。


 すると、レティアは自分の頬をぱんっと叩く。


「もう大丈夫よ」

「……! 了解!」


 レティアの表情が入れ替わった。

 それに信頼を置いて、シオスも共に走り出す。

 だが、ぼーっとしていた理由は分からなかった。


(何か考え事をしてたのかな……?)


 シオスは思考を巡らす。

 対して、レティアは決して顔を合わせなかった。


(ドランちゃんに見惚れてたなんて言えない……!) 


 やましい気持ちを隠しておくためだ。

 そんなこんながありつつ、初のイベントが始まる。


「きゅい?」





「はああああッ!」


 ザシュっと快音が響き、小さな魔物が倒れる。

 魔物の血を払い、剣をしまったのはレティアだ。

 すっかり集中できている様子である。


「一旦こんなところね」

「おおお~」

「きゅい~」


 その姿を、シオスとドランは後ろから眺めていた。

 拍手しているのはお世辞でもなんでもない。

 シオスは素直に驚いていたのだ。


(すごく洗練された剣だ……)


 まず目を見張るのは、所作(しょさ)の美しさ。

 教科書通りの動きには無駄がなく、正確かつ迅速。

 入学試験首席の名は伊達ではないようだ。


 だが、剣をしまえばまだ思春期の少女である。


「綺麗だね」

「は、はあ!? 急に何言ってんのよ!」


 シオスの言葉に、レティアはかあっと顔を赤くする。

 容姿を褒められたと思ったようだ。


(なんなのよ、もう……!)


 その言葉がやけに心に引っかかる。

 散々言われてきたはずだが、今回ばかりは何か違ったようだ。

 対して、シオスとドランは斜めに顔を傾けている。


「ん?」

「きゅい?」 


 シオスは剣を称えたつもりだったようだ。

 ゆえに一人で盛り上がるレティアに首を傾げる。

 だが、やがてレティアはハッとした。


「て、ていうか、アンタも戦いなさいよ!」

「え」

「さっきから、戦ってるのはわたしばっかりじゃない!」

「……う、うん」


 声を上げるレティアに、シオスは少しばかり戸惑う。


 それもそのはず、レティアは先程「任せなさい!」と一人で先行した。

 シオスとドランに良い所を見せたいがためだ。

 そのため、戦闘に参加していなかっただけに過ぎない。


(一人で前に行ったのはレティアなんだけどな……)


 若干理不尽だと思いつつも、シオスはドランと前に出た。


「じゃあ僕たちもやろっか」

「きゅいっ!」


 授業が開始されてから、約三十分。

 度々レティアが戦闘を行いながら、目標はほとんど達成できている。

 もう少し進んでいけば、達成もできる頃だろう。


 すると、少し遠くに一匹の魔物の姿が見える。


「キィィィィ!」

「あれは……『デカメ』ね」


 大きな目玉から、両側に羽が伸びている。

 名前のまんまの魔物である。

 下級の魔物だが、博識のレティアは注意した。


「あの目玉からは、魔法が放たれるわ。気を付けて」

「……!」


 岩陰に身を隠すと、レティアの言葉通りの光景が映る。

 

「キィッ!」


 デカメがまばたきを行うと、魔法の球が発射された。

 魔法のサイズは小さく、手に握る球のようだ。


 すると、シオスは何かを思いついたよう。


「──なるほど」

「……! 行くのね」

「うん」


 相手の情報を取り、シオスがデカメに向かっていく。


「こっちだよ」

「キィィ!」


 剣を抜いたシオスに、向こうも気づいたようだ。

 しかし、岩陰に潜むレティアはすぐに違和感を抱く。

 

「……!?」


 注目したのは、シオスの態勢。


(あの構えは……!)


 レティアが目を見開く中、シオスが徐々に魔物に接近する。

 そのまま対峙しようとしたのも、束の間。


「うおお──」

「「「きゃあああああああああ!」」」

「「……!?」」


 どこからか悲鳴が聞こえてくる。

 シオスはピタっと剣を止め、レティアと共に振り返った。


「今のって!」

「ええ、同級生の声よ!」


 どう考えても普通の事態じゃない。

 二人とドランは顔を見合わせ、こくっとうなずく。

 考えていることは同じのようだ。


「助けに行こう!」

「ええ!」


 シオス達はすぐに(きびす)を返した──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ