表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/40

第5話 新たなテイマーの形

 「君がバカにしたテイマーの力、見せてあげるよ」


 ようやく剣を構えたシオスは、堂々と宣言した。

 対して、有名な受験生ゴルスは顔をしかめ、怒りを(あら)わにする。


「テイマーごときが、俺様に(たて)()くだと?」

「うん」

「ハッ、面白え……!」


 ここまでの攻撃を全てあしらわれたこと。

 テイマーという不遇職で大口を叩くこと。

 それらが、よりゴルスの頭に血を昇らせる。

 

 ギロリとシオスを睨むと、ゴルスはその場を強く踏み込んだ。


「その自信、へし折ってやるよ!」

「「「速い……!」」」


 ここにきて一番の速さだ。

 思わず周囲も声を上げる。

 さすがは戦士家系出身の者といったところだ。


 しかし──


「んなっ……!?」


 シオスには簡単に受け止められる。 

 

「手加減はいらないよ」

「ふ、ふざけやがって! たまたまだろうが……!」


 シオスは思いのままに言葉にしているだけ。

 それが短気のゴルスには挑発に聞こえる。


 すると、怒りのままに大斧を振るい始めた。


「ぐ、ぐおおおおおおっ!」

「はあッ!」


 両者の激しい攻防が繰り広げられる。

 ゴルスの猛攻に、シオスは受けの構えだ。

 しかし、内心押されているのはゴルスの方だ。


(く、崩せねえ……!?)


 ゴルスも騎士家系としてある程度の実力を持つ。

 だからこそ、より理解することが出来た。

 シオスの底の見えなさが。


 すると、観客席の“とある少女”はつぶやく。


「……ふーん」

 

 シオスの戦い方に興味を()かれたようだ。

 

 大斧を持つゴルスに対して、シオスは剣。

 その上、両者には体格の差もある。

 それでも拮抗(きっこう)するには、何か工夫が必要だ。


(やるわね、あの子)


 その工夫とは、力を加える方向(ベクトル)


 シオスは、ゴルスに対して真正面から受けているわけではない。

 時には下から、時には横から。

 身長差を逆に利用して、ゴルスが力を込めにくい方向から受け流すように対処している。


 だが、かなり激しい攻防の中だ。

 頭では理解できても、実践できるかどうかは別問題。

 それをシオスは幾度となく成功させていた。


天性(センス)か、努力(トレーニング)か。──もしくはその両方か)


 シオスの原作知識には(かたよ)りがある。

 ゆえに、どこまでの実力があれば強者であるかを自覚していない。

 

 体を自由に動かせるだけでも楽しく、強くなる実感が幸せだった。

 その気持ちは、“努力を努力と思わない”。

 そんな過程で身に付けた実力は、受験生レベルをとうの昔に超えていた。


 つまり、シオスは努力し過ぎたのだ。


「……ふっ」


 そんなシオスの光るものに、少女と同じく気づいた者が複数いる。

 彼らも少女と同じことを思っただろう。


「勝負あったわね」


 その言葉通り、シオスとゴルスの戦いは局面を迎える。

 審判役が声を上げたのだ。


『残り時間一分です!』

「「……!」」


 入試にはたくさんの受験生がいるため、制限時間が設けられている。

 定められた時間の中で勝ちきるかどうかも、試験内容に含まれるということだ。

 すると、シオスは反撃の姿勢に入る。


「まだ本気を出してくれないなら──」

「!」

「こっちからいくよ」

「……!?」


 ゴルスはぞっと背筋を凍らせる。

 シオスが無自覚に放つ威圧感に気圧(けお)されたのだろう。


(なにをする気だ!?)


 シオスの剣が黄緑色の光を帯びている。

 その元を辿(たど)れば、相棒のドランと(つな)がっていた。

 ドランから力を借りている証だ。


(そ、そんなことが……!?)


 こんなのは見た事も聞いた事もない。

 不遇職テイマーは、自ら戦うことはしないのだ。

 それでも、目の前のシオスはそれを行おうとしていた。


「はッ!」

「消え──!?」


 シオスが一歩を踏み出した瞬間、ゴルスはその姿を見失う。

 ただし、瞬間移動ではない。

 低く速く、ゴルスの懐に潜り込んだのだ。


 そして、シオスが剣を横に振るった。


「──【疾風()ぎ】」

「ぐああああああっ!?」


 水平な剣筋だ。

 それだけでゴルスの装甲を貫いたのも、束の間。

 直後に、複数の“風の(やいば)”がゴルスを襲った。


 おそらくドランから借りた力だろう。

 風属性を操るドラゴン種の力を、剣に宿したようだ。

 

「がはあっ……!」

「あれ」


 シオスもそこまで本気ではない。

 いつもの修行で言えば、序盤に行うメニューの技だ。

 有名なゴルスならば防御してくると踏んでいた。


 そのはずが、勝負を決定づけるには十分すぎる威力だったようだ。

 倒れて動かないゴルスに、審判は手を挙げる。


「勝者──受験番号547番シオス!」

「「「うおおおおおおおおっ!?」」」


 その瞬間、会場は歓声に包まれた。

 九割九分ゴルスだと思っていたが、勝者は誰も知らない田舎の少年だったからだ。

 この番狂わせには、声を上げずにはいられない。


 そんな中、先程の少女は目を見開いていた。


(あのスタイル……)


 その深い洞察力を以て、シオスを分析していたようだ。


 本来のテイマーは、従魔を主体に戦う(・・・・・・・・)

 後方から指示を出し、人間の味方になるよう飼育した魔物の力で戦うのだ。

 しかし、シオスの戦い方は違った。


(既存のテイマーには無い。“新しいテイマーの形”ね)


 シオスは自ら(・・)前に出て戦っていた。

 その上、戦士志望のゴルスを圧倒したのだ。

 これまでのテイマーでは考えられないだろう。


 シオスとドランに、少女は鋭い視線を向ける。


(これは面白くなりそう……)


 ふっと微笑みながら、少女は背中を向ける。

 彼女もまた受験生だ。


 ──と、そんな少女を、シオスはたまたま闘技場から見つける。


「ん? あれってたしか……」


 その姿には見覚えがあった。

 記憶によれば、このゲーム世界『アルカディア』のパッケージに映っていた。

 それはすなわち、メインヒロイン。


「まあ、いっか」

「きゅいっ!」


 こうして、シオスの入学試験は勝利で終えたのだった。





 一週間後。


「ドランはこれをつけるんだよ」

「きゅう?」


 シオスはドランの尻尾に、赤いハチマキをつける。

 これは従魔の証。

 そして、学園内に従魔を連れて行くための証だ。


「これで一緒に行けるからね」

「きゅい~!」


 つまり、シオスは無事に合格することができた。

 今日からは相棒のドランと共に、新一年生である。


「よし、行こう!」

「きゅいーっ!」


 シオスの掛け声に、ドランも小さな手を精一杯に上げる。


 かつては、学校という存在すら嫌だったシオス。

 そのはずが、今ではこんなにワクワクした顔を浮かべるほど、この世界で心身共に成長した姿があった。


 ただし、シオスはまだ知らない。

 これがただの始まりであり、さらに様々な事態に巻き込まれることになることを。


 こうして、モブに転生したシオスと、その相棒ドランの学園生活(メインシナリオ)が幕を開ける──。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ