第39話 戦いを終えて
<シオス視点>
「じゃじゃ~ん!」
とある場所に着くと、レティアは両手を大きく広げた。
「ここが『レティア邸』よ!」
「す、すっげ~!」
「キュイ~!」
週末の学校帰り。
一度、寮で準備をした後、僕はレティアに案内されていた。
中止になった合宿について嘆いていると、今からやろうと提案してくれたんだ。
そうして、着いたのがこの屋敷。
縦にも横にも広く、まさに貴族の豪邸だ。
ネームプレートには『レティア 〇 〇』と、不自然に二つが空いているけど……うん、きっとご両親か誰かだろうな。
なんでも、出来上がったばかりの別荘らしい。
「こ、これってレティアがもらったの?」
「そうよ! あと二人──いえ、一人と一匹が入居する予定だけどね」
「ん?」
レティアはチラチラとこちらを見てくるけど、意図は読めない。
僕は話を続けた。
「土地も広いし、本当にすごいよ。何かのご褒美とか?」
「まあそうね。“破壊と創造”の結果かしら」
「……!?」
すごく恐ろしいことを言ってる。
やっぱり公爵家には色々あるみたいだ。
深く聞くのはやめておこう。
「とにかく入りましょ!」
「う、うん!」
こうして、僕たちはレティア邸におじゃまする。
「どうかしら。中々のものでしょ」
内部を見て回る中、レティアはこちらを振り返った。
もちろん僕は大興奮で答える。
「うん! どれも見たことないものばかりだよ!」
「キュイー!」
大きな客間、リビングなど。
あちこちを案内してもらい、僕とドランは目を輝かせている。
なぜか執拗に寝室を見せたがってきたけど、女の子のそれはさすがに遠慮しておいた。
あとは時々、不可解な言動も。
「将来の検討しておいてね」
「だからそれ、どういう意味なの?」
「もーわたしから言わせないでよ、この意地悪っ!」
「……?」
今日のレティアは様子がどこかおかしい。
なんというか暴走気味だ。
いや、案外いつも通りかも。
すると、屋敷の奥に進んだレティアは、とある扉に手をかける。
「あとは、こんなのもあるの」
「え……!」
「キュイ……!」
その先の景色に、僕とドランは一層目を見開く。
思わず驚いたからだ。
「修練用の中庭よ」
「すごーい!」
「きゅいー!」
屋敷の奥には、中庭が広がっていた。
ただ広いだけではなく、周囲には魔法結界も張ってある。
大規模魔法は危ないかもしれないけど、十分な強度だ。
あとは、気になることが一つ。
僕が毎朝の日課で行く広場に、すごく似ている。
まあ、広場なんていくらでもあるし偶然か。
とにもかくにも、僕は足を踏み出してしまう。
「ちょっと体を動かしていい!?」
「ふふっ、もちろん。そう言うと思ったわ」
「やったね!」
今日は放課後にここへ直行したので、運動していなかった。
それもあって僕はドランと駆け出す。
準備が良いのか、レティアは木剣を持ってきてくれる。
「もう、結局シオスは運動なのね」
「あはは。ごめんごめん」
「ううん、らしくて良いわよ!」
すると、レティアも中庭に飛び出してきた。
「わたしもやるわ。最近は放課後に顔を出せてなかったし!」
「うん!」
「キュイ!」
レティアも混じり、みんなで軽~く剣を打ち合う。
僕はやっぱり体を動かすのは一番楽しい。
そんな中で、レティアが口を開いた。
「思えば、入学から半年も経つのね」
「そうだね。短かったような長かったような、いや短かったかな!」
出来事が無かったわけじゃない。
むしろ色々と初めての体験があったのに、短く感じた。
その明確な理由を声に出してみる。
「レティアとも一緒だったし!」
「……! ったく……」
レティアがふっと口元を緩めた。
頬が若干赤くなって見えるのは、夕日のせいなのかな。
そうして思い出を振り返ると、いつもレティアが隣にいた気がする。
日常でも、学園外でも、大きなイベントでも。
たまに「どこから出てきた!?」ってびっくりする時もあるけど。
それも全部含めて、改めて思う。
「レティアと友達になれて良かったよ」
「……っ!」
友達に順位を付けるわけじゃない。
でも、最初に友達になれたのがレティアだったから、僕の学園生活はうまく進んだと思っている。
入学式の朝、偶然(?)出会えたことには感謝してるんだ。
「ありがとう」
「……ふふっ。ずるいわ、あなたはいつも」
「え?」
「ううん、今のは気にしないで」
素直に思いを伝えると、レティアは優しく笑った。
それから、そっと胸に手を当てて、木剣を下ろす。
「そろそろ暗くなるわ。家の中に入りましょ」
「あ、うん、そうだね」
その笑顔に、僕は少しドキっとしたものを感じた。
★
「「ごちそうさまでした」」
レティア邸で夕食をいただき、僕とレティアは手を合わせる。
専属料理人さんもいて、すごく豪勢なものをいただいてしまった。
「未だに感動してるよ……」
「うふふっ。気に入ってもらえたら結構!」
また、ドランも大満足のようで。
「キュイィ……」
お腹をぷっくらとさせて、小さな椅子で上を向いている。
それにしても、従魔専用の料理人まで用意してるなんて。
レティアは準備が良いなあ。
「えと、この後は──」
「「……!」」
そんな時、入口からチリーンと音が聞こえる。
魔法の呼び鈴だ。
「誰かしら。客人は呼んでないのに。ちょっと待っててね」
「う、うん」
それから少し。
レティアは再びリビングに姿を見せた。
「あ、レティア──って、……!?」
「えと……とりあえず紹介するわね」
大きくて恐ろしい顔をした、男の人を連れて。
「わたしの父──グラヴェンよ」
「よろしく」
「……ッ!」
お、お父さん!?




