第38話 戦いを終えて
「一年シオス、並びに従魔ドラン。前へ」
名前を呼ばれ、シオスは席からすくっと立ち上がる。
その肩にはドランも一緒だ。
指示に従い、演台に登った二人は学園長と向き合った。
現在は、表彰式の最中である。
「改めて感謝を述べる。ありがとう」
「「「わあああああっ!!」」」
その瞬間、後方からは歓声と拍手が聞こえた。
本来は静かにするべき場だが、今回ばかりは許されたようだ。
(か、感慨深い~~~!)
(きゅい~~~!)
合宿から、約一週間。
件の諸々が片付き、一・二年生は学園に帰ってきていた。
そこで、ヴァルゼクトとの戦いに関わった者は、学園から表彰を受けたのだ。
「シオス。緊張してる?」
「そ、そりゃするよ……」
同じく演台に立つレティアが、こそっと話しかけてくる。
それからシオスが前を向くと、一斉に声が上がった。
「シオスさーん!」
「ドランちゃんこっち向いてー!」
「テイマーの希望だよ!」
「さすが学園の英雄だ!」
表彰された中でも、シオスとドランは一番の功労者と認められた。
古来の逸話まで残るエクリプスウルフの暴走を止め、生徒達を守った二人だ。
結果的に、“学園の英雄”とまで呼ばれるようになった。
(ちょっと大げさじゃないかな……嬉しいけど)
(きゅいきゅい……)
シオスもドランも、褒められるのは好きだ。
少し照れながらも、素直に賛辞を受け取る。
(でも、頑張って良かったな)
(きゅい!)
また、合宿の件は進展があった。
後から調査が入り、いくつか明らかになったことがあったようだ。
まずは、行方不明だったラオニル。
今なお影も形も見当たらないが、正式に死亡と断定された。
その尾を引きずってか、学園での扱いにも変化が表れている。
「あの辺の列、ドルベール派だよな」
「ああ。ラオニルと一緒にイキってた奴らだよ」
「これからどうするのかねえ」
ドルベール派と呼ばれる、ラオニルの子分たちだ。
かつて学園で好き放題した彼らは、魔導競争の後に息を潜める。
その後は特に注目されなかったが、今回の話で再びスポットライトを浴びた。
もちろん悪い意味でだが。
「「「くそっ……」」」
脚光を浴びるシオス達とは、真反対の扱いである。
こうしてシオス達は、学園における最も権威のある賞を授与されたのだった。
その日の放課後。
「あれ、レティアは?」
「なんか用事があるって。真剣な顔をしてたけど」
「ふーん?」
てっきり今日も修行をするかと思ったが、どこかへ行ったようだ。
大切な用事のために。
★
その頃、ドルベール邸。
「貴様、自分が何をしているか分かっているのか!?」
立派な屋敷の前で、ゼインが大声を上げている。
ドルベール家嫡男として、とても見逃せないことが起きているようだ。
ゼインが訴えかけているのは、レティアだ。
「ええ。この無駄にデカい家をぶっ壊しているところよ──はあッ!」
「んなあっ……!?」
レティアはドゴオォンと音を立て、またも屋敷の一部を破壊する。
冷徹な目をした彼女に、もはや容赦はない。
しかし、これは正当な勅令だ。
レティアは懐から、ある証書を取り出す。
「王族より承った印よ。ドルベール家の公爵位を剥奪し、シンボルである屋敷を速やかに破壊せよとのこと」
「バ、バカな! なぜ──」
「わたし達が知らないとでも?」
「……ッ!」
反抗するゼインに、レティアは刃を向ける。
魔導競争の直前、ドルベール家次男ラオニルは自ら白状した。
デバイスを使い、魔物を意図的に操っていると。
当時は証拠不十分だったが、実はレティアはずっと裏で動いていた。
そして先日、ようやく数々の証拠を集め終える。
それらを王族に提出し、ドルベール家の悪事を暴いたのだ。
そのまま勅令を拝命し、手柄として本件はローゼリッド公爵家に一任された。
シオス達の前ではギャグキャラと化しているレティア。
しかし、やる時はとことんやる。
貴族令嬢として、厳格な一面も持ち合わせているのだ。
「あなたにも牢獄に入ってもらうわよ。ゼイン・ドルベール」
「き、貴様ぁ!」
「あら」
「……!」
魔法を構えようとするゼインだが、その手は縛り上げられる。
「あなたはもう罪人。ここでわたしに手を上げようものなら、即刻死刑よ?」
「……ッ!」
「むしろ縛られて感謝してほしいものね」
「ぐ、ぐぅぅっ……!」
ゼインは歯を食いしばるも、手を動かせない。
レティアに加え、周りはすでにローゼリッド家に囲まれている。
次に反抗すれば、即座に魔法で撃ち抜かれるだろう。
「分かったら、おとなしく見てなさい。あなたの家がぶっ壊されるのをね!」
「ク、クソがーーーーーー!!」
レティアはダンっと飛び立ち、ド派手に剣技を放った。
凄まじい破壊力に、ドルベール邸は次々と崩壊していく。
だが、周りからはひそひそとローゼリッド派の声が聞こえてきた。
「レ、レティア様は随分と張り切られてないか……?」
「あ、ああ……もっと躊躇なされるかと思ったんだが」
鬼気迫る様子に、若干怖くなったようだ。
実はこれには理由がある。
(この土地をわたしとシオス、ドランちゃんとの愛の巣に……!)
レティアは完全なる邪念を持っていた。
ゆえにウッキウキで屋敷を壊していく。
もはや必殺技まで繰り出す始末だ。
「【秋雨の散華】♪」
声はうわずり、邪な妄想を隠せていない。
恐ろしい笑顔のレティアにより、屋敷は隅々まで破壊されていった。
こうして、王国内最大の家系──ドルベール公爵家は解体。
それを吸収したことにより、レティアのローゼリッド公爵家は、トップに躍り出る結果となった。
この展開は原作シナリオに存在無い。
シオスとドラン、そして二人が紡いだ絆により物語が大きく変化していたのだ。
これが吉と出るか凶と出るか。
それはまだ定かではない。
しかし、一つだけ言えることがある。
シオスとドラン、その仲間達は、どんな困難も乗り越えていけるだろうと──。
★
とある日の放課後。
「うーん……」
表彰からも月日が経ち、学園はすっかり日常に戻っていた。
しかし、シオスが渋い顔を浮かべている。
「どうしたのよ。辛気臭い顔して」
「あ、レティア」
ナチュラルに隣に並んでくるレティアに、もはやツッコミは無い。
どうせその辺にいたんだろうと思いながらも、シオスは吐露した。
「合宿が一日しか出来なかったから、なんか申し訳ないなって……」
合宿では、一日目にヴァルゼクトの件が起きた。
その後は続行できるはずもなく。
学園側も日程が詰まっており、合宿の代替案はないそうだ。
「シオスが気にすることじゃないわよ」
「それはそうだけど……僕も楽しみにしてたし」
あの時は、全てが終わった達成感で清々していた。
だが、後から考えると、もう少し合宿をしたかった思いも残る。
すると、レティアはハッと提案した。
「だったら、今からしましょ!」
「え?」
「明日から連休じゃない! それに──」
浮かべた笑顔には、少し悪い笑みも含まれて見える。
「ちょうど最近出来上がったばかりの、良い場所があってね」
レティアはすでに妄想を隠せていなかった。




