第37話 守りきった笑顔
「うおおおおおおおお!」
「ギャウウウウウウウ!」
わずかな隙を突き、シオス達は上空で力を溜めた。
そこから放たれるのは、【人竜共鳴】の前身となった超魔法だ。
「【竜焔嵐共鳴】……!!」
シオスは突き出した両腕から、特大の魔力をぶっ放す。
火と風の属性が入り混じった鮮やかなコントラストだ。
ドランと魔力を同期しているからだろう。
それを後ろから巨体のドランが支える。
「ギャウウウウウウ!」
前にただ放つのみでは、シオスは後ろに飛んで行ってしまう。
シオスに魔力と属性を与えると共に、ドランが勢いを受け止めているのだ。
しかし、これはただの超威力ではない。
「グヴオオオッ……!」
エクリプスウルフが動揺した声を上げた。
ド派手な技の前に臆してしまったのだろう。
それでも、心配することはなかった。
「君はヴァルゼクトの被害者だ」
「グヴオ……!?」
「吸収した魔物ごと、僕が救ってみせる!」
ドガアアアアアと轟音を立て、巨大な魔法がエクリプスウルフを襲った。
だが、不思議と痛みは無い。
むしろ、暴走した心が落ち着き、吸収した魔物が離れていくように体が浄化されていく。
これはシオスの魔法制御による作用だ。
以前、ユユミとの対峙で見せた【浄化の炎】。
属性や状態異常を無効にする炎が、この集大成の魔法には含まれている。
「グ、ヴオ……?」
火・風の特性を全て持ち合わせた大魔法。
その火によって、闇の魔力を浄化する。
その風によって、傷つけることなく吸収した魔物がそぎ落とされていく。
ドランの支えと魔力。
シオスの操作と制御。
それらが高次元で相互に作用し合い、初めて完成する奥義。
これが【竜焔嵐共鳴】だ。
もちろん操作と制御を変えれば、威力に振り切ることもできる。
「ごめんな。僕たち人間の戦いに巻き込んで」
「グヴオオ……!」
「ゆっくりおやすみ」
「グ、ヴオ……」
やがて浄化が終わり、吸収した魔物も無事に離れる。
大魔法が消えゆくと共に、暴走したエクリプスウルフも眠りにつくのだった。
シオスとドランの完全勝利だ。
「シオス君……!」
「シオス君、本当に……!」
「信じてました。シオスさん」
満身創痍だったヒロイン達の顔にも、安堵が浮かぶ。
そして、力を使い果たした二人は──
「ハァ、ハァッ……」
「ギャゥ、ギャゥ……」
最後に、お互いの手を横で合わせあった。
「ありがとう相棒」
「ギャウ」
この絆があってこその大技、そして勝利だ。
すでに体力は残っておらず、瞬く間にドランの体は縮んでいく。
本来の姿を維持できなくなったようだ。
お疲れのドランを労おうとするシオスだが、すぐにハッとした。
「ん? これまずくない?」
「キュ、キュイ……」
そう思ったのも束の間。
「うわあああああ!」
「キュイイイイイ!」
シオスはドランの浮遊力を共有して、空を飛んでいたのだ。
その接続が切れ、シオスは下に真っ逆さま。
ドランも羽を動かす気力が残っておらず、同じく落ちていく。
「はあ、良い人生だった──」
「勝手に死ぬんじゃなーい!」
「……!」
しかし、落下地点にレティアがスライディングしてくる。
二人を受け止める気のようだ。
声を上げて喜ばなかったのは、これを予期していたから。
すると、周りも咄嗟にサポートしてくれる。
「シオス君!」
「シオスさん!」
「メルちゃん!」
「ぴぃ!」
水、氷、風。
それぞれヒロインが魔法を放ち、落下速度を限りなく軽減する。
シオスとドランの勢いがなくなり、レティアにぽすんと受け止められた。
「もう、びっくりしたじゃない」
「ご、ごめん……」
「キュイ……」
心配するレティアの表情も、やがてふっと微笑んだ。
「でも、ありがとう」
「……!」
「シオス達を信じてた」
「うわわっ!」
抱きかかえたシオスを、レティアはそのまま身に寄せる。
「あ、ずるーい!」
「シオスさんは私のものなのに!」
「み、みんな積極的……」
他のヒロイン達も慌ててやってくる。
シオスも抵抗しようにも、すでに力が残っていなかった。
そんな空気を読み、ドランはこそっと抜け出す。
「キュイ~……キュイッ!?」
「ぴぃっ」
しかし、ドランもメルちゃんに見つかる。
シオス達と同じく抱きよせられるのだった。
こうして、エクリプスウルフの危機は去った。
元凶だったヴァルゼクトも喰われ、刺客も全員気絶している。
その後、すぐさま駆けつけた教師陣によって、事態は収拾へと向かっていくのだった──。
★
戦いの後、しばらく。
「これで、終わったんだね」
合宿本部の病室で、起き上がったシオスはつぶやく。
傍にいるのはヒロイン達だ。
中でもレティアが答えた。
「ええ、そうね」
レティアとは、最初のダンジョンアタックの授業から一緒だった。
結局あの時のイレギュラーも、ドルベール家の次男ラオニルが起こしたもの。
レティアだけでは防げなかった犠牲は、シオスとドランが解決した。
続けてフィノが口にする。
「シオス君には助けられてばっかりだよ」
イレギュラー騒動の後、ラオニルはフィノに迫り、シオスにも因縁をつける。
そこから魔導競争の対決に発展したのだ。
全校生徒にシオスが力を見せつけ、ラオニルは最後は父の命令で暗殺されている。
またクーリアもうなずいた。
「それから、私と出会ったんですね」
その後、シオスはクーリアとも関わりを持つ。
その時のユユミは刺客だったが、シオスの想いを伝えることで、両者を宥めた。
今では、クーリアはシオスの家庭教師みたいなものである。
「いっぱい活躍して、私も気にかけてくれたんだね」
「ぴぃっ!」
テイマーパークでは、リセルと出会った。
彼女との修行中、マイナー職の廃止を謳うゼインと因縁が生まれ、誇りを賭けた決闘を行う。
レジェンド卒業生を相手に、シオスはついに勝利した。
ついでに、ドランにも春が訪れた。
「ぴぃ……」
「きゅ、きゅい……」
メルちゃんはドランに「大丈夫ですか、あなた」と勝手に看病している。
ドランも拒否しようにも体が動かない。
メルちゃんに好き放題されているみたいだ。
そして、今回の一件。
「あんな形にはなったけど、僕たちは勝ったんだよね」
今までの全ての元凶とも言える、ドルベール家の当主ヴァルゼクト。
彼との直接対決で、シオスは打ち勝った。
最後は自滅とも言える死に様だったが、おそらくこれで良かったのだろう。
優しいシオスは人を殺すことはできない。
今後また暴れる可能性があるなら、最も良い結果と言えた。
「みんなのおかげだよ」
「「「……っ!」」」
仲間と共に戦ったから。
学園で紡いだ絆があったから。
シオス達は最後に勝利し、エクリプスウルフの脅威も収めることができた。
そんな想いを胸に、シオスは感謝を伝える。
「「「うんっ!」」」
一番貢献したのはシオスとドラン。
そう思ってはいながらも、ヒロイン達はうなずいた。
感謝を素直に受け取ったのだ。
また、病室の外で聞いていた暗殺者二人も。
ドルベール家の使い駒だった、ユユミとノノミだ。
「本当にやってのけたとはね。じゃあ火の後始末は任せてもらうわ。行こ、ノノミ」
「……ええ」
自由を縛る体制をぶっ壊す。
約束を守ってくれたシオスに感謝をしながら、闇の中に姿を消した。
そうして、再びシオスは思う。
(この笑顔を守れたんだな)
今回の出来事をきっかけに改めて気づいた。
このみんなの笑顔をずっと守りたいと。
だからこそ最後に言葉がこぼれた。
「みんな、ありがとう」




