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第35話 仲間と共に

 「ふはは、さあ再開といこうか!」


 ヴァルゼクトは高笑いを上げる。

 その後方では、巨大なオオカミの魔物が咆哮(ほうこう)を放った。


「ヴオオオオオオオオッ……!!」


 エクリプスウルフだ。

 古来では逸話(いつわ)まで残る魔物であり、脅威度はSランク。

 シオスに追い詰められたヴァルゼクトが、最終手段として呼び覚ましたのだ。


 その恐ろしき獣は、すぐに牙を向く。


「ヴオオオオ!」

「……! みんな離れて!」


 振り下ろされたエクリプスウルフの巨腕に、シオスは声を上げる。

 

「ぐぁっ……!」

「きゃあ……!」


 シオス達は退避が間に合うも、大きな衝撃が伝わってくる。

 地面が震えたのだ。

 今まで対峙(たいじ)した魔物たちとは、まるで比較にならない。


「ふはははは! これが絶対的な力だぁ!」


 ヴァルゼクトの口が、途端に流暢(りゅうちょう)になる。

 後方に退避したユユミは声を上げた。


「まさか、デバイスがここまで進化してたなんて……!」


 すでに寝返っているとバレていたユユミは、情報を渡されていなかった。

 見誤った戦力が大きすぎることに、悔しさを浮かばせる。

 それでも、シオスは決して退かない。


「苦しんでる……っ」

「きゅい……っ」


 ドランの相棒として(つちか)った、シオスの感性。

 それがエクリプスウルフの感情を訴えていた。

 『支配から解放してくれ』と。


 エクリプスウルフは、本来は獰猛(どうもう)な種族ではない。

 強大な力を持つが、それを(ふる)うのは仲間を傷つけられた時のみ。

 その優しき拳を、ヴァルゼクトは(おの)(ため)に利用している。


「魔物をこんな風に扱って……許せない!」


 (ごう)を重ね続けるヴァルゼクトに、シオスは怒りを向ける。

 またそれは、ドランも同じだ。


「きゅい! きゅいきゅい!」

「ドラン……! わかった」


 ドランのアピールに、シオスは了承する。

 ぐぐぐっと手足に力を込めたドランは、体を伸ばして一気に解放した。


「きゅいぃぃ──ギャオオオオオオオ!!」 

 

 ドランの体がみるみるうちに大きくなっていく。

 本来の姿である原始種の制限(リミッター)を解除した。

 巨体に対抗するのは、巨体だ。


「頼んだぞ、ドラン!」


 エクリプスウルフをなんとかしなければ、勝負にならない。

 その役目をドランが引き受けた。

 強くうなずいたドランは、大きな翼を広げてエクリプスウルフへ向かう。


 ──ボクが止めてあげるんだと言わんばかりに。


「ギャオオオ!」

「ヴオオオオ!」


 原始種ドラゴンと、エクリプスウルフ。

 前に突き出したお互いの両腕が、上空でぶつかり合う。

 古来に行われていたような種族間の戦いを、時を超えて再現するように。


 しかし、成体のエクリプスウルフに対して、ドランはまだ幼体。


「ヴオオオオオ!」

「ギャ、ギャウゥ……!」


 正面からのぶつかり合いでは、どうしても押し負けてしまう。

 体格も力も、向こうが数段上だ。

 それでも、二つの巨体の下方でシオスは直進した。


「デバイスを破壊すれば僕たちの勝ちだ!」

「「「……!」」」

「ドランは必ず踏ん張る! その間に決着をつけよう!」

「「「ええ!」」」


 先頭を切るシオスに、仲間が続いた。

 ドランの頑張りを無駄にしないためにも。

 それぞれが持つ最大限の力を託して。


「シオス行って! ──【蒼龍の波(ダイダル・ウェーブ)】」

「フィノ……!」

 

 シオスが突き進む両サイドを、フィノの強大な波が過ぎ去った。

 それは多くの相手陣営を呑み込み、刺客を近づけさせない。

 フィノは残りの魔力を全てぶっ放した形だ。


 すると、テイマーリセルと従魔のメルも続いた。


「私たちの魔力も使ってください!」

「ぴぃぃっ!」

「リセル、メルちゃん……!」


 二人が放った魔力がシオスを包み込む。

 自分たちに出来る事をやろうと、残り魔力を(じょう)()した。


 魔導競争の時のラオニルとは違い、これはリセル達自身の意思。

 シオスに救われたからこその行動だ。


「真っ直ぐ行って。シオス」

「うん……!」


 そして、突っ走るシオスの隣にレティアが並ぶ。

 信頼できる彼女言葉に、シオスは即答する。

 たとえ、前から刺客がやってきたとしても。


「「「死にやがれええ!」」」

「──隙だらけよ」


 前方から迫った刺客に対して、レティアは霧のように消えた。

 地面スレスレに低く沈んだのだ。

 そこから放つのは、まとめて撃退する横払い。


「【雲散(うんさん)()(しょう)】」

「「「ぐああああっ……!」」」


 レティアは強い。

 ただのギャグ担当ではない様をここぞの場面で()せた。

 これには、後方のサポートも入っている。


「さすがね」

「あなたこそ」


 サポートをしたのは、クーリアだ。

 レティアが飛び込む直前、氷の矢で刺客の足元を凍り付かせていた。

 普段は言い合う二人も、シオスのためなら力を合わせる。


 そうして、道は開けた。


「ヴァルゼクト……!」

「チィッ!」


 真っ直ぐ前方──残るはヴァルゼクトのみ。

 だが、ヴァルゼクトはふと笑みを浮かべた。


「惜しかったな」

「……!」


 すると、ふっとシオスの視界が暗くなる。

 上から降り注ぐものに、夜の明かりを(さえぎ)られたのだ。

 エクリプスウルフの腕だ。


「ヴオオオオオオ!」

「……っ!」


 ドランを押し退()けたのか、シオスが進む道に巨腕が迫る。

 全速力を付けて直進したため、急ブレーキをかけることができない。

 ──(もっと)も、はじめからかける気もないが。


「信じていたよ、相棒」

「ギャオオオオオオ!」

「ヴオオオ……!?」


 シオスを潰されるギリギリで、ドランがエクリプスウルフに突進した。

 巨腕は軌道をずらされ、シオスの横に()れる。

 今度こそ阻むものは何も無い。


「うおおおおおっ!」

「ぐぅあっ……!」


 ヴァルゼクトが張る闇の結界に、シオスは真っ向から飛びかかった。

 剣と結界が交差し、辺りに激しい魔力の電流が走る。

 歯を食いしばるヴァルゼクトは、シオスに声を上げた。


「なぜだ! お前達だって毎日魔物を斬っているだろう! 何が違う!」

「その魔物だって、自らの意思で向かってきている! 僕たち人間も自然の一部だ!」


 最後の攻防に両者一歩も譲らず。


「黙れ偽善者! 所詮はお子ちゃまの発想ごときが!」

「お前のような傲慢に言われる筋合いは無い!」

 

 しかし、シオスが押し始める。


「僕たちは神じゃなければ、魔物たちも操り人形じゃない!」

「……!」

「人も魔物も好きに操って! 生きる証である意思まで奪わせてたまるか!」


 力、絆、想い、その全てを乗せて。

 培ってきたものの差が、最後は勝負を決定づけた。


「これで終わりだ……!」

「ぐああああああああ!」


 そして、シオスが闇の結界を打ち破る。

 ヴァルゼクトの防御を押し切った。


「ハァ、ハァッ……!」

「ぐっ、がはっ……」


 ヴァルゼクトは仰向けに倒れて動かない。

 今度こそ勝利──となるはずだった。


「ヴ、ヴオオオオオオオ……!」

「なっ!」


 突然、エクリプスウルフが激しく頭を抑え始める。

 すると、倒れたままのヴァルゼクトが笑いを上げた。


「ふ、ふはは!」

「お前……!」

「ぐぁっ!」


 シオスは風の太刀でヴァルゼクトを縛る。

 だが、ヴァルゼクトは調子に乗ったままだ。


「もう止まらんよ」

「なに!?」

「最後に仕込んであったのさ。俺の内部にな」

「……!」


 非道なヴァルゼクトは、負けた時用にデバイスを体内に埋めていた。

 それが作用し、デバイスが発動する。

 強力な電波を放ったのか、エクリプスウルフが暴走(・・)し始めた。


「グヴオオオオオオオオ……!」

「なんてことを……!」


 自身は負けたが、シオスが焦ったことにヴァルゼクトは高笑いを続けている。

 

「ふはは! こうなればとことんやれぇ! これで私は──ゴバッ」

「ヴオオオ!」

「「「……っ!」」」


 しかし、ヴァルゼクトの言葉を最後まで聞くことはできない。

 暴走したエクリプスウルフが、体を一瞬で引きちぎったのだ。

 彼の体はそのまま、巨体に飲み込まれる。


 すると、何が起きるか。


「グヴオオオオオオオ!!」

「ま、まさか……!」


 ヴァルゼクトの多大な闇の魔力が、エクリプスウルフに宿った。

 ただでさえ止められなかった巨体だ。

 束になっても勝てる見込みのない脅威が、さらに力を増してしまった。 


 加えて、シオス達は満身(まんしん)(そう)()だ。


「シ、シオス君……!」

「シオスさん……!」

「あんただけでも、逃げて……!」


 だとしても、シオスは退かない。

 

「ドラン」

「ギャ、ギャウ……!」


 シオスとドラン。

 どちらも体力は尽きかけている。

 それでも──否、だからこそ完成する技があった。


「いくぞ」

「ギャウ!」


 シオスとドランの体が優しい黄緑色に包まれる。


「──【人竜共鳴(レゾナンス)】」

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