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第34話 ヴァルゼクト・ドルベール

 「こいつが……!」

「ええ」


 目を見開いたシオスに、ユユミが引きつった顔で答える。

 対峙(たいじ)した男を(にら)みながら。

 

 「ヴァルゼクト・ドルベール。ドルベール家の当主よ」

 

 長身に劣らない大きな体格。

 重く静かな声。

 それらを含め、年相応に老けた顔すら威厳を感じさせる。


 ラオニルの件、ゼインの件、その他にしても。

 その全ての元凶たる男だ。


 シオス達が目を向けると、ヴァルゼクトは軽い拍手をし始めた。


「まずは褒めてやろうか。よく辿り着いた」

「ああ、僕たちはお前を倒しに来たんだ!」

「そうか。それは(はかな)い夢だな」

「……!」

 

 その手をすっと左右に広げる。

 すると現れたのは、ドルベール家に付く多くの刺客たち。

 先程のノノミの姿も見られる。


「ノノミっ!」

「……」


 ユユミが呼びかけるが、彼女は答えない。

 すでに人数が不利な上、ヴァルゼクトの口は止まらない。


「これだけではないがな」

「なっ……!?」


 続けて次々と姿を見せるのは、魔物たちだ。

 赤く目を光らせ、自我を失っているように見える。

 まさかと思ったユユミは声を上げた。


「完全洗脳デバイス!? 完成していたの!?」

「ああ、ユユミ(お前)には教えていなかったな。怪しき者に情報は渡さない。基本中の基本だろう?」

「……っ!」


 ヴァルゼクトが使ったのは、今までのデバイスとは一線を画す。

 既存のそれは、操るよりは混乱(・・)させることに近かった。

 しかし、これは完全なる洗脳。


「まったく、かわいい“()(れい)”たちだよ」

「「「グルルルゥ……」」」

「くっ……!」


 ユユミの計画では、これの完成前に仕掛けたつもりだった。

 この時点で、想定戦力を大幅に上回っている。


「誘い込んだネズミを殺すためのな」


 ヴァルゼクトは、ユユミがすでに寝返っていると気づいていた。

 その上で、あえて泳がせたのだ。

 この場にシオス達という反乱分子を招き、根絶やしにするために。


 だが──


「関係ない」

「……ッ!?」


 シオスは一切(ひる)まない。


 全く(おく)さない表情で、カンッと剣を地面にぶっ刺した。

 その瞬間、周囲の何本もの豪炎の柱が立つ。


「「「グオオオッ!」」」


 炎柱はまとめて魔物を吹き飛ばす。

 ただ、闇雲に殺したわけではない。

 衝撃で洗脳が解けたのか、大半は山に帰って行った。

 

「魔物を無下に扱うな」

「ふはは! そうこはなくてはな!」


 対して、ヴァルゼクトの魔力が急激に上昇する。


 シオスとヴァルゼクト。

 激しい開戦の合図だ。

 両陣営は一斉に魔法を放ち始めた。


「いくわよ!」

「はい!」


 周囲の刺客は、レティア達が引き受ける。

 その間、シオスは真っ直ぐ進む。

 ヴァルゼクトと剣を交えるために。


「うおおおおッ!」

「ほう、噂通りだ!」


 戦場の中央で、ドゴォッと轟音(ごうおん)が鳴り(ひび)く。

 シオスの剣と、ヴァルゼクトの魔法障壁だ。

 大将同士の直接対決である。


 シオス陣営は信頼していた。

 一対一ならば、シオスは必ず勝つと。

 そのために何が何でも周りを抑える。


「させない!」

「……!」


 ノノミが投げようと構えたナイフを、ユユミが止めた。

 暗殺者同士であり、元相棒同士。

 両者の思いもここでぶつかる。


「見てて。私が託したシオス君を」

「……」


 そして、シオスとヴァルゼクトの戦いはすぐに激化する。


「ドラン!」

「きゅい!」

「うおおお──【疾風(しっぷう)()ぎ】!」


 ドランから風の力を借り、シオスが剣技を放つ。

 対するヴァルゼクトは、ニッとしながら手を前方に向けた。


「ぬるすぎる」

「!」

 

 浮かび上がった紫色の空間に、シオスの風魔法は吸収された。

 これは見覚えがある。


「ゼインと同じ“吸収”の特性か!」

「授けたのは私だからな。それよりも──残念だよ」

「ぐっ……!?」


 魔法を吸収された分、ヴァルゼクトの速度が上がる。

 シオスの反応が遅れ、再び交差する形となった。


「君とは分かり合えると思っていたのに」

「何の話だ!」

「ほら。君も魔物を操って戦っているじゃないか」


 しかし、シオスは強く反発する。


「それは違う!」

「ほう?」

「ドランは一緒に戦う相棒だ! 奴隷なんかじゃない!」

「む」

「お前と同じにするな!」


 自らの信念と共に、ヴァルゼクトを弾き返した。

 だが、宙で態勢で整えたヴァルゼクトは、未だ首を傾げる。


「何が違う? 所詮(しょせん)、“(ちく)(しょう)”を利用しているのは同じだろう」

「それ以上、()(じょく)するな!」


 ならばと、再びシオスから攻勢に出る。

 ヴァルゼクトが闇の障壁で受ける形だ。


「違うのは意思(・・)だ。僕たちテイマーは、あくまで自分たちの意思で手を取り合ってる! 意思まで奪うのは傲慢(ごうまん)が過ぎる!」

「それは興味深いな。ならば、あの者もそうだと」

「……!」


 その中で、ヴァルゼクトはドランに目を向けた。


「初めてテイムした時も、その後も。お前とは自由意思で付き合い、一時も離れようと思わなかったのだな?」

「そ、それは……」

「原始種ともあろう存在が、わざわざ(わい)(しょう)少年(ガキ)にテイムされ、お互いに求め合ったのだな?」


 思わず言葉に詰まるシオス。

 テイムした時もと聞かれると、素直に頷けない。

 だが、ドランは小さなおててを上下に振り、必死に伝えた。


「きゅい、きゅいぃっ!」

「ドラン……! ああ、そうだ!」

 

 当人に直接言われれば、自信を持って言える。


「僕たちは、出会った時から好きで一緒にいる!」

「なっ、この力は!?」


 想いの強さに比例して、シオスの力が高まる。

 すると、ヴァルゼクトの闇の障壁から魔力が(あふ)れてくる。

 シオスの力を受け止めきれなくなったのだ。


「今までもこれからも、僕たちはずっと相棒だ!!」

「ぐおわぁっ……!!」


 そのままシオスが押し切った。

 思わぬ勢いにヴァルゼクトはぶっ飛ばされ、地面に強く叩きつけられる。

 その戦況には、周囲のメインヒロインも目を向けた。


「シオス君!」

「シオスさん……!」

「さすがテイマーの希望です!」


 中でも、レティアは感動で号泣していた。


(永遠の相棒宣言!? 一生見守る……!)


 もちろん真面目に戦ってはいるが。

 それから、暗殺者のノノミにも衝撃が走っている。


「なっ!」

「言ったでしょ。シオス君は勝つって!」

「……っ」


 ユユミも声をかけ続けるが、ノノミは寝返る一歩が踏み出せめない。

 その原因を明らかにするよう、ヴァルゼクトが立ち上がった。


「当然だろうな。ノノミ(お前)にも守るものがある」

「!」

「私に逆らえばどうなる? 貴様の家、両親、そして妹は!」

「……ッ!」


 ノノミは家族を人質に、暗殺業を()いられていた。

 さらに、ユユミにも言及する。

 

ユユミ(お前)もよく堂々としていられるものだ。私の息子ラオニルを殺しておいて」

「そ、それはあなたが!」

「手にかけたのはお前じゃないか」

「くっ……!」


 ユユミとノノミは、ラオニルを暗殺した。

 ()の指示というのは、ヴァルゼクトだったのだ。

 ニヤアっとしたヴァルゼクトは、再びシオスに向き直る。


「どうだ? お前の味方に人殺しがいる気分は」

「……」

「仲良しこよしのところ悪いが、ユユミ(あいつ)は救えん」

 

 直接対決では分が悪い。

 そう見込んだヴァルゼクトは、口でシオスを揺さぶる。

 しかし、すでにシオスの意思は固かった。


「たしかに、人を殺すのは良くない」

「ああ、そうだろう。だから──」

「でも関係ない」


 シオスの怒りは最高潮に達した。

 次々と明るみになるヴァルゼクトの傲慢さに、もう意思は揺るぎない。


「僕はお前による支配をぶっ壊す。それだけだ!」

「……! そうか、ならば仕方ない」


 対して、ヴァルゼクトは新たなデバイスを起動させた。


「最後の手段だったのだがな」

「……!?」

 

 ゴゴゴゴと地中から何かが溢れ出てくる。

 やがて(あら)わになったのは、巨大な魔物。

 起き上がった魔物は、怒り狂ったように咆哮(ほうこう)を上げた。


「ヴオオオオオオオオッ!!」

「「「……!」」」


 博識のクーリアは、目を疑いながら口にする。


「そ、そんな、『エクリプスウルフ』を呼び覚ますなんて!」

「え?」

「これはやっちゃいけない、業が深すぎる……!」


 エクリプスウルフ。

 古来では、日食を起こすとまで呼ばれた巨大なオオカミの魔物だ。

 長い眠りにつき、二度と目覚めないと言われていたはず。


 その脅威はSランク。

 調査することすら許されない“(きん)()級”の魔物だ。


「ふはは、さあ再開といこうか!」

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