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第33話 守られてばかりでは

 「そっち行ったよ!」


 森を駆けながら、シオスが声を上げる。

 行動で応えてみせたのは、ユユミだ。


「りょーかいっ! はッ!」

「グオオッ!」


 ユユミは二本のクナイを巧みに操り、魔物の意識を()り取る。

 暗殺術を身に付けた攻撃は、さすがの一言だ。

 シオスとドランの速さに付いて来られるのも、それゆえだろう。


 だが、表情は(くも)らせていた。


「やっぱりそうね……」

「ん?」

「日中より魔物が凶暴化してるわ」

「言われてみれば……」


 今のところ、それほど苦戦する魔物はいない。

 だが、ユユミの言う通りだった。

 その原因を彼女は推察する。


「多分、すでにデバイスの影響を受けてるわね」

「……!」

「急がないとまずいかも。早く戻りましょう」

「分かった!」


 二人が向かっているのは、生徒達がいる本部。

 まずは生徒達が安全かを確認し、その後で大元を叩くつもりだ。

 しかし、一つ見落としていた。


 群れる特性を持っていない魔物が、結集し始めていたのだ。


「グルルッ!」

「……!」


 茂みから飛び出したオオカミの魔物を、シオスは剣で受ける。

 しかし、すぐにもう一匹の気配に気づく。

 それが背後からドランへ迫った。


「グルオッ!」

「きゅいっ!?」

「しまった!」


 普段は一匹(おおかみ)として知られる魔物だ。

 シオスの意識外だったのだろう。

 連携がうまく取れず、道案内に集中しているドランにまで到達させてしまった。


 ──だが、それを許さない者がいる。


「ドランちゃんに手出すんじゃねえぞゴラア!」

「……!?」


 突如、田舎のヤンキーみたいな声が上がった。

 同時に、茂みから剣閃(けんせん)が飛び出す。


「──【秋雨(あきさめ)(さん)()】」

「グオオッ……」


 声とは似ても似つかぬ美しい剣技だ。

 魔物は宙で力尽き、当人が着地する。

 同じく魔物を払ったシオスは、大きく目を見開いた。


「レ、レティア!?」

「きゅいっ!」

「間に合ったわね」


 今の()(れい)な剣技は、レティアにしか出来ない。

 そうなると、余計に気になることがある。


「あの、さっきの声は?」

「な、なんのことかしら? おほほほほ」

「今さら令嬢感出されても……」


 聞かなかったことにしてあげた。

 これもシオスの優しさだ。

 すると、すぐに茂みから追いつく者たちがいる。


「おーい、シオス君!」

「みんな!?」


 フィノやクーリア、リセルといったメインヒロイン達だ。

 彼女達は避難誘導を気に留めず駆けつけた。

 すると、クーリアが口を開く。


「テント付近は無事です。生徒の被害もありません」

「……! よかった」


 その報告にシオスは安堵(あんど)する。


「だから私たちも──」

「ダメだ」

「え?」


 だが、次の言葉には首を横に振った。


「報告は本当に助かった。ありがとう。でも今すぐに避難して」

「ど、どういうことですか!」

「僕たちはもう行くから」

ユユミ(その人)はいるのに!」

「……」


 クーリアが声を上げるも、シオスは背を向ける。

 覚悟が決まった後ろ姿だ。

 しかし、それは彼女達も同じ。


「シオス君、私たちは力になりたいだけだよ!」

「リセル……だったら、なおさらここから逃げるんだ」

「そんな、私もメルちゃんも戦える!」

「ぴぃ!」


 それはよく知っている。

 ここ一か月で、みんなは目覚ましい成長を()げた。

 

 だが、シオスは首を縦に振らない。

 その一か月でシオスはみんなをより大事に思った。

 大切に想うからこそ、この危険な戦いには巻き込みたくない。


 それでも、レティア達は引かなかった。


「シオス。じゃあ、ただ見てて」

「え? ……!」


 ふと大きな気配がする。

 彼女達の後方から、五メートルもの熊の魔物がやってきた。

 しかし、レティアがシオスを制止するよう手を向けている。


「わたしたちはもう守られるばかりじゃない! ──みんな!」

「「「うん!」」」


 レティアがタンっと高く跳び立つ。

 それに合わせて、クーリアとリセル・メルは魔法を放った。


「【氷の千矢グレイシャル・ミリアッド】」

「【風羽竜巻(メル・パワー)】!」

「ぴぃぃっ!」


 無数の氷の矢と、メルちゃんの竜巻だ。

 だが、これは単純な攻撃ではない。

 その二つを操るように、フィノが魔法を追加する。


「【蒼流の波(アクア・ウェーブ)】!」


 蒼い波はクーリア達の魔法を巻き込み、レティアを後押しする。

 氷・風を(まと)い、波乗りするかのようだ。

 その大きく増した勢いのまま、レティアは最大の剣技を放つ。


「【薔薇の舞(ローゼン・タンツ)】・協奏(シンフォニア)……!」

「ギャオオオッ!!」


 四人の合わせ技は、魔物を一撃で沈める。

 初めて見る(・・・・・)技に、シオスは驚きを隠せない。

 すると、着地したレティアは振り返った。


「四人で内緒で開発した技だよ。シオスを驚かせようと思って」

「……!」

「シオスとドランちゃんを見てて、私たちもって考えたの」


 いつも目にしている相棒の二人。

 シオス達から着想を得たようだ。


 これもシオスの役に立ちたいから。

 守られてばかりではないと証明したいからだ。


 言葉だけでなく実力で()せた四人を代表して、レティアがシオスに告げる。


「逃げろと言われても勝手に付いていくから」

「……わかった」

「!」


 すると、シオスは初めて素直になる。


「僕たちに力を貸してほしい」

「……! もちろんよ! ふふっ」


 シオスは人を頼ることを覚えた。

 これもまた一歩成長と言えるだろう。

 対するレティアも、頼られたのが嬉しくて微笑んでしまった。


 そうとなれば、やるべきことは一つ。


「みんなごめん。ありがとう」


 時間は少し使ったが、その分戦力は増えた。

 シオスは方向を変え、今度こそ大元へ踏み込む。

 頼りになる仲間と共に。


「敵を倒しに行こう!」

「「「うん!」」」


 そうして、計六人で駆け出した。





「出てくるがいい」


 森の開けた場所で、重く静かな声が(ひび)いた。

 近くの気配を感じたのだろう。

 すると、木陰から姿を見せるのはシオス達。


 男に向き直ったシオスは、確信したように口を開いた。


「こいつが……!」

「ええ」


 それにはユユミが答える。


「ヴァルゼクト・ドルベール。ドルベール家の当主よ」

 

 シオス達は、全ての元凶と対峙(たいじ)した──。

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