第31話 遠方合宿開始!
「全員、着いたぞ」
魔力式バスから降車し、先生が口を開いた。
生徒達も続々と高台に降り立つと、目の前の景色に息を呑む。
視界一面に、大自然が広がっていたからだ。
「「「おおーっ!」」」
綺麗な緑に染まった山々。
この高台から眺める光景は、何とも絶景だ。
シオスとゼインの対決から、約三週間。
一・二年生は『遠方合宿』というイベントに来ていた。
学園を離れ、遠くの地で課題をこなす行事である。
しかし、ふと生徒の一人が疑問をたずねた。
「あの、“到着した”とは?」
みんな思っていたことだろう。
目の前には山が見えるばかりで、キャンプ場らしきものは見当たらない。
対して、先生はすっと向こうの方を指した。
「あるではないか。あそこに」
「「「……!」」」
山を越えた先。
何十キロという向こうに、小さく施設が見えた。
あれがキャンプ場なのだという。
そこまで言われれば、生徒たちも勘付く。
「夕方までに着けば早い方だな!」
「「「……!」」」
あそこまで自分たちで行けということだ。
すると、先生は順に説明し始める。
「各自のバッグには簡易食材や、山菜のガイドブックなどもある。それらを駆使し、あそこに辿り付いてもらう」
「「「……!」」」
「探索者や冒険者は、戦闘の強さに目が行きがちだ。しかし、最も重要なのは移動。いかに早く、いかに効率的に目的地に着けるかは、任務の達成を大きく左右する」
学園卒業後は、多くが探索者や冒険者となる。
そのための訓練ということだろう。
だが、当然ここはただの山ではない。
「ちなみに、耳を澄ませば分かると思うが」
先生がしーっと人差し指を立てる。
すぐに遠くから聞こえてきたのは、魔物の声だ。
「グオオッ!」
「ギギャー!」
「魔物にはくれぐれも気を付けるようにな」
「「「……っ!」」」
それをあえて確認させて、危機感を持たせる。
各自、防御シールドを張るデバイスも配布されているが、進むのは自分の足。
合宿は早くも始まっているというわけだ。
そして、先生がバッと手を前に広げた。
「分かったらパーティーごとに進め!」
「「「うわあああっ!」」」
突然の事に、多くは慌てふためく。
武器を確認する者、話し合いから始める者など。
その場に留まるのがほとんどだ。
そんな中、真っ先に森に飛び出す者がいた。
「ほっ!」
「きゅいっ!」
シオスとドランだ。
まるでファーストペンギンのように、魔物がいる山へ臆さず飛び込む。
すると、すぐさま山の中から魔物が顔を見せた。
「グオオオッ!」
「……! これぐらい!」
「きゅい!」
トビウオのような魔物は、山から跳ねてくる。
対して、シオスはすぐさま剣を構えた。
その剣に宿ったのは──火。
「うおおお──【火炎突き】」
「グオォ……っ」
一閃。
剣を前方に突き出し、自ら回転することで螺旋状の炎が生まれる。
自身の貫通力を高めたシオスは、炎の剣閃で魔物を貫いた。
すると、後続が連なった。
「わたしたちも!」
「いこう!」
レティアやフィノ、クーリアにリセルだ。
原作メインヒロインの四人は、迷うことなくシオスについて行く。
勢いのまま繰り出すのは、各々の得意技だ。
「【秋雨の散華】」
「【蒼流の波】!」
「【氷の千矢】」
「【風羽竜巻】!」
「「「グオオオオッ……!」」」
四人それぞれが違う方角に放ち、各個撃破する。
息も合い、連携の取れた最高のパーティーだ。
「みんな、目指すは一番乗りだ!」
「「「うん!」」」
そうして、シオスパーティーは突っ走っていく。
その様子は合宿に来た全生徒の目に届いていた。
「すげえぜ、あのパーティー!」
「そりゃシオス達だからな!」
「一番に出る勇気、すごい」
「ハーレムパーティー……イイナァ」
様々な功績を経て、シオスは多くの賞賛を浴びている。
すでに学園の認識は変わり始め、テイマーを不遇職と呼ぶ者はほとんどいない。
今となっては、最強の筆頭格だ。
「よーし、行くぞー!」
「きゅい~っ!」
こうして、一・二年生合同の遠方合宿が始まった。
★
「ん~うまっ!」
焼いた食材を頬張り、シオスはうんっとうなずく。
時間帯は、すでに夕方。
一早くキャンプ場に到着したシオス一行は、早速夕飯に入っていた。
シオスの隣では、ドランもはむはむとご飯を食べている。
「きゅいっ、きゅいっ!」
「あはは。ドラン、そんなに急がなくても。口にソースが付いてるよ」
「きゅい?」
相棒同士の微笑ましい光景だ。
静かな周りは、ちらっと横目で観察している。
(((かわいい……)))
(ぴぃ……)
しかし、レティアだけはがっっっつり見ていた。
(きゃわあああああああああ!!)
シオスもドランも。
最推しの二人がじゃれ合っているのだ。
瞬きすら惜しいと、血眼になって見守っている。
すると、気がついたシオスから声をかけられる。
「あれ。レティアは食べないの?」
「……! コ、コホン。食べるわよ? それにしても、シオスは意外とキャンプに慣れてるのね」
対して、すんっと表情を隠したレティアは、すぐさま話題を切り替えた。
さすがは貴族の社交場で揉まれているだけではある。
たまにボロが出るだけで、ポーカーフェイスもお手のものだ。
シオスはふっと視線を落として答える。
「そうだね。僕とドランは、ずっとこうしてきたから」
「きゅい」
「え?」
少し儚げな雰囲気だ。
それもそのはず、シオスは記憶を思い出していた。
前世から、シオスとドランはずっと一緒だった。
メインシナリオの学園には行かなかったものの、この世界を冒険していた。
その中で培ったのが、このキャンプやサバイバルで活きるスキルだ。
(あの頃の冒険が役立っていると思うと、感慨深いな)
山の中には、見たことある食材などもあった。
今みんなで食べているのは、シオスの知識で安全だと分かっているものだ。
学園ではないこの地では、原作知識がようやく活きたとも言える。
と、軽く回想したところで、シオスは顔を上げた。
「あ、すごく田舎で育ったっていう、それだけの話だよ!」
「きゅ、きゅいっ!」
前世については、まだ話せない。
シオスはしんみりしそうになった空気を感じ取り、慌てて手を横に振った。
「ふふっ、そっか」
「シオス君の昔の話も聞きたいね」
なんとか誤魔化せたようで、シオスもほっと一息。
だが、ふとシオスの心の中には残った。
(いつか前世の話をする時が来るのかな)
突拍子もない話だ。
今は時じゃないだろうが、少し考えてしまう。
しかし、それ以上に思ったことがあった。
(今はみんなでこうしている時が幸せだ)
このメンバーで一緒にいる空間。
これを守っていきたいと思った。
そうして、合宿の一日目は過ぎようとしていた。
裏で動く大きなものには気づかずに──。
夜、テントの中。
「あの、本当にもう寝るからね?」
寝そべるシオスは、じろりと隣を見る。
そこにはニヤニヤとしたレティアがいた。
「うん。いつでも寝ていいよっ」
「何かする気満々じゃない!?」
各パーティーは、組み立てたテントで一夜を過ごす。
事前に言われていたため、多くは男女でパーティーを組まなかった。
だが、シオスのパーティーは他が全員女子だ。
「せっかくじゃんけんで勝ったんだもん。シオスが寝るまで見てるわ」
「こ、怖いよ!」
「きゅい!」
そこで、シオス達は二人と三人に分かれることに。
レティアが勝利し、シオスと同じテントになった。
とはいえ、レティアも疲れは出ていたようで。
「だから、ずっとこうして……すやすや」
「あ」
すっと瞼が落ち、レティアは寝た。
そんな彼女を改めて見ると、シオスもドキっとしてしまう。
(よく見ると、すごく綺麗だよね……)
レティアは学園内でもトップの容姿を持つご令嬢。
最近はギャグ担当になりつつあったが、顔もすごく整っている。
「すーっ、すーっ」
「……っ!」
ぷるんとしたレティアの唇から、吐息が伝わってくる。
大浴場の後だからか、サラサラの金髪からは良い匂いもした。
初めての至近距離に、シオスの鼓動が早くなっていく。
──そんな時、ドランがシオスをぺしっと叩いた。
「きゅい」
「……! わかった」
あらかじめ決めていた合図なのだろう。
シオスは音もなく立ち上がり、テントを後にする。
(そんな君だからこそ、巻き込みたくない)
最後にレティアを振り返って。
「来たよ」
テントを離れ、森のある場所でシオスを上を向いた。
すると、木影からすっと姿を現す少女がいる。
ユユミだ。
「さすがドランちゃんね。あの範囲でも聞こえるんだ」
「ドランだからね。それで、呼んだってことはやっぱり……」
「ええ」
ドランにしか聞こえない音域で、合図を送ったようだ。
着地したユユミは、シオスに近づきながら答える。
すると、シオスの傍まで来た。
「奴らが来てる。けれど──」
「……!?」
そしてそのまま、持ち武器のクナイをシオスに刺す。
「ごめんなさいね」




