表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/40

第30話 メインヒロイン達から迫られています

<シオス視点>


「う~んっと!」


 朝の日課を軽めに終えて、寮から学園へ向かう。

 一日の始めに運動をすると、体も軽くて気持ちがいい。


「きゅ~いっ! きゅ~いっ!」


 ドランも大好きな朝シャワーを浴びてご機嫌みたいだ。

 翼を左右に振って、僕の肩でるんるんで踊っている。

 でも、それも寮を出るまで。


「きゅいっ!?」

 

 ドランは体をびくんとさせた。

 僕と同じく、男子寮前の張りつめた空気(・・・・・・・)を感じ取ったみたいだ。

 視界に入ったのは、(きら)びやかな金色と水色。


「今日は、わたしの番のはずです!」

「いいえ。昨日も勉強を教えられなかったので、その分です」


 レティアとクーリアだ。

 朝から二人で向かい合い、何やらバチバチしている。


「あの、お二人さん?」

「「……!」」


 僕が声をかけると、二人の顔がぐりんとこちらを向く。


「シオス!」

「シオスさん!」

「うわっ!」


 すると、そのまま僕の方にダイブ。

 もはや男子寮に入ってきているけど、お構いなしだ。


「シオス、今日は大丈夫かしら!」

「うん、もうかなりね。……今ので痛めたかもしれないけど」


「シオスさん。せめて腕を引きますね」

「せめてとは」


 二人は僕の腕を引いて歩き始める。

 ありがたいけど、朝からこれは恥ずかしい。

 一応、僕の体を心配してくれているみたいだけど。


「……」


 ゼインとの対決から、数日。


 あの直後から数日間は、たくさんの人に囲まれた。

 単純に()めてくれたり、意外と多かったゼインのアンチ(?)にすっきりしたと言われたり。

 大変だったけど、それも収まりつつある。


 その時から二人は、人だかりから僕を守ってくれた。

 僕は【暴竜装レイジ・ドラン・アーマー】の反動が(ひび)いていたから。

 制限時間を超えたせいで、体中が筋肉痛になったんだ。


 そして、二人は朝迎えに来るように。

 学園まですぐそこなんだけどね。


 ちなみに、まだ()めてる。


「クーリアさん、ちょっと近くないですか!」

「そんなことありません。これが正妻(せいさい)の距離感です」

「せいさっ!?」


 相変わらず冗談が上手いみたいだ。

 二人もすっかり打ち解けた……のかな?

 まあ、(にぎ)やかなのも楽しいからいっか。


「あはは……」

「きゅいきゅい」(やれやれ)


 こうして、また学園の日常が返ってきたのだった。





「それでね、魔法の授業でさー」


 お昼の時間、テラス。


 茶色のセミロングを揺らすのは、フィノ。

 紙パックのりんごジュースをちゅーと吸いながら、頬杖(ほおづえ)をついて話している。

 

「って、聞いてる? シオス君」

「も、もちろん!」


 じっと見られて、僕も(あわ)てて返事をする。


 でも、ごめん。

 しっかり集中はできていないかも。

 なにしろ、隣の椅子で色々と起きている。


「ぴぃ……///」

「きゅ、きゅい……」


 ドランが鳥の従魔メルちゃんにくっ付かれているんだ。

 (ほお)を寄せられて、ドランも困惑している。

 いや、これは照れているぞ。


「どうしたー、ドラン? 実は嬉しいんじゃない?」

「きゅ、きゅいっ!」(べ、別にっ!)


 やっぱりそうみたいだ。

 僕たちの付き合いなら、ドラゴン語も翻訳(ほんやく)レベルで聞き取れる。

 珍しく冷静さを失っているのもあるけどね。


「ははっ」

 

 それにしても、これが我が子に恋人に出来た気持ちか。

 嬉しいような、寂しいような、やっぱり嬉しいような。


 でも、ちょっぴり思うこともある。

 

「僕も春が来ないかなあ」

「あなた正気!?」

「え?」


 なぜかフィノにツッコまれてしまった。

 本気で困惑した顔だ。

 どういう意味で言っているんだろう。


 そんな中、遠くから声が聞こえてくる。


「ごめんなさーいっ!」

「あ」


 手を振りながら、茶髪ショートの少女がテラスにやってくる。

 メルちゃんの(あるじ)リセルだ。


「やっぱりドラン君の所だった! ご迷惑かけましたっ!」

「ううん。ドランも嬉しがってたし」

「ふふっ、そっか!」


 微笑(ほほえ)ましい光景に、リセルも口元を(ゆる)める。

 対決後から、彼女もすっかり表情が戻った。

 やっぱりリセルには笑顔が似合う。

 

 と、そんな横でドラン達の仲は進行している。


「ぴぃぴぃ」

「きゅ、きゅーい……」(ふ、ふーん……)


 メルちゃんの足元に、ドランが頭を乗せていた。

 人で言えば“膝枕”みたいな形だ。

 ドランも「ふーん悪くないね」みたいなリアクション。


「あははっ、すごいなあドラン」

「メ、メルちゃん!?」

「あら大胆」


 フィノも含め、僕たちは微笑ましく見守る。

 テラスでも大胆なのは、魔物特有かも。

 ちょっと(うらや)ましく思ったり。


 すると、フィノがふと口にする。


「それにしても、どこで膝枕なんか覚えてくるんだろうなあ」

「……!」

「従魔は飼い主に似るって言うしなあ」

「はわわわっ!」


 フィノは口元に手を当てながら、わざとらしくリセルを覗く。

 

「もしかして、部屋でシミュレーションしてたり?」

「し、してないよっ!」


 リセルは顔を真っ赤にして、両手を左右に振る。

 彼女もかわいいところがあるみたいだ。

 僕も思わず口にしてしまう。


「相手は誰なんだろう」

「「だから正気!?」」

「え?」


 またもツッコまれてしまった。

 今度は同時に。

 前世でも今世でも、僕は人との関わりが足りてないみたいだ。


 人の気持ちって難しい。

 改めて、そう思ったお昼休みだった。




<三人称視点>


 放課後、修練場。


「はああッ!」


 高く鋭い声が(ひび)く。

 剣を掲げて踏み出したのは、レティアだ。


「はッ!」

「くううっ!」


 それをフィノが水の壁で受け止める。

 本気ではないとは言え、レティアの攻撃を正面から止めた。

 フィノの成長にも目を見張るものがある。


「やるわね!」

「私だって修行してるのよ!」


 すると、中央で対峙(たいじ)する二人に援護が入る。

 それぞれの後方から技が飛び出したのだ。


【氷の矢】(アイシクル・アロー)!」

「メルちゃん! 【癒しの追い風(メル・セラピー)】」

「ぴぃっ!」


 クーリアとリセルだ。

 四人は二つに分かれ、紅白戦を行っていた。

 それを端からシオスが見守る形だ。


「……っ」


 だが、シオスの体がぴくぴく動く。

 やがて我慢できなくなくなったのか、立ち上がった。

 

「よし、そろそろ僕も──」

「「「ダメ!」」」

「うっ」


 しかし、四人に一斉に止められてしまう。

 

 対決の疲労から、シオスは今日まで安静。

 何も出来ない為、四人の指導をしていた。

 だが、目の前で戦闘をされては体がうずうずして仕方がない。


 休憩に入り、レティアは再度注意した。


「もう、今日までは絶対ダメだから!」

「ごめんなさい。あれ(・・)があるから焦っちゃって」

「だからこそよ。本当は日課もやめさせたいところなんだから」


 シオスには焦る理由がある。

 それを確かめるよう、シオスは学園で配布された紙を取り出す。


「楽しみなんだもん! 遠方合宿!」


 紙には『遠方合宿』と書かれていた。

 今月末に開かれ、学園を離れて合宿を行うイベントだという。

 一・二年が合同となり、課題をこなす行事のようだ。

 

 なお、班は事前に自分達で組むことが(すい)(しょう)されている。

 シオスの班はこの五人。

 シオス、レティア、フィノ、クーリア、リセルだ。


「みんなも気合十分だね!」

「「「うん!」」」


 この事もあり、四人は紅白戦を行っていた。

 シオスも復活すれば、かなり期待を持てる班だろう。

 何しろ、彼女達はこの世界のメインヒロイン達だ。


 ただのモブであるシオス。

 前世の悔しさもあり、今世では(たぐい)(まれ)なる努力を積み、相棒のドランと共に、この世界を謳歌(おうか)してきた。


 シオスだからこそ、メインヒロイン達は集まった。

 “迫られている”と言った方が正しいかもしれない。


「早く当日になると良いね!」

「きゅいっ!」


 しかし、シオスは知らない。


 通常、レベルアップイベントとも言われるこの遠方合宿。

 本来はこの()に大きな事態が起きるが、それが早まる。


 良くも悪くも“イレギュラー”な存在のシオスは、裏で動く者達を触発してしまっていた。






 同時刻、ドルベール(てい)


「照準を定めた」


 ラオニル・ゼインの父であり、ドルベール公爵家の当主──ヴァルゼクト。

 その低く野太い声で、指示を出した。

 

「今月末の遠方合宿だ」


 かつてない脅威が、シオス達に迫る──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ