第28話 背負うもの
「勝負はここからだ」
ゼインの大魔法を食らうも、シオスは晴れた煙の中から姿を現す。
その形態には変化が見られた。
「貴様、なんだその姿は……!」
【竜装】と大きくは変わらない。
だが、所々に黒い縦の模様が入ってる。
放つ雰囲気、存在感もまるで違う。
その形態の名は──。
「【暴竜装】」
【竜装】の進化形だ。
今のゼインの魔法を相殺したとすれば、相当な力を持っているだろう。
その力を発揮するように、シオスは再び攻撃の態勢に入る。
「いくぞ」
「……!」
フッとシオスの姿が消え、ゼインは左右に首を振る。
しかし、実は動きを認識している。
最初の攻防と同じく、あえて反対に顔を向けているのだ。
タイミングを計り、ゼインは剣を抜いた。
「ハッ、何も変わらんではないか!」
「!」
再びシオスの剣を受け止めたのだ。
やはり動きが読まれている。
だが、今度はシオスが上手だ。
「受けられるように速度を調整しただけだ」
「……!」
「違いを分かりやすくするためにな!」
シオスの緑の左目が光る。
剣を交差させたまま、後方に風魔法を放出した。
すると、ゼインの体はみるみる押される。
「ぐうっ……!?」
やっている事は先程と変わらない。
だが、魔法の威力が格段に上がっている。
(なんだ、この段違いの火力は……!?)
あまりの違いに、ゼインは思考を巡らせる。
賢いがゆえの考える癖だ。
しかし、今のシオスにその一瞬は命取り。
「──【暴竜火拳】!」
「……ッ!」
ほぼ一瞬。
瞬時に放たれた拳の風圧に、ゼインはとっさに魔方陣を浮かばせる。
闇の魔力で吸収しようとしたのだ。
しかし──吸収しきれない。
「ぐあああっ……!!」
魔方陣から魔力があふれ、衝撃の一部がゼインに伝わる。
それだけで、ゼインは後方に大きく吹き飛ばされた。
「「「うおおおおっ!?」」」
急な快進撃に、観客は声を上げ続ける。
大魔法で決まったかと思われたが、一転してシオスが反撃をしたのだ。
その姿には、仲間たちも沸いていた。
「すごい! やっぱりシオス君はすごいよ!」
「やっぱり勝つのはシオスさんでしたね」
顔を晴らしたのは、フィノとクーリア。
呼び方でやけに正妻感を出すクーリアだが、盛り上がっていることには違いない。
しかし、近くに一人だけ静かな者がいた。
「シ、シオス……っ」
レティアだ。
いつもなら一番に声を上げるはずの彼女。
その様子に、フィノはレティアを揺らす。
「レティア、どうしたの! シオスが逆転してるんだよ!」
「……ええ」
レティアは剣にも学にも優れる。
それゆえに、興奮よりも心配が勝ってしまったようだ。
「でも、このままじゃまずいかもしれない」
「え?」
再び、闘技場ステージ。
「無駄なあがきを……!」
起き上がったゼインは、歯を食いしばる。
この決闘で、自分の『マイナー職の禁止』という方針を正当なものとするはずだった。
大勢の前で“役に立たない”と証明すれば、理解させられると考えたのだ。
しかし、そのマイナー職の筆頭“テイマー”に押されている。
傲慢なゼインには、許されない事態だ。
「まだまだいくぞ!」
「ぐっ……!」
とはいえ、今のシオスを止める術が無い。
攻撃を読んでも、防御の上から超威力でゴリ押しされる。
もはやスペックの暴力だ。
「うおおお──【暴竜火砲】!」
「がはあっ……!!」
複数回の攻防の後、ゼインは追い詰められていた。
しかし、ふとシオスの異変に気づく。
「次こそは決める! ……ハァ、ハァ」
「……!」
シオスの息が異常に上がっている。
研究してきたデータからも、シオスはむしろ体力がある方のはず。
すると、頭がキレるゼインは確信した。
(代償は時間制限か……!)
【竜装】は、普段の幼体のドランとシオスが融合した形態。
対して【暴竜装】は、原始種としての本来のドランと、シオスが融合した形態なのだ。
恩恵は、時間制限付きの超パワーアップ。
“リミット解除"とも言える。
ただし、原始種ドラゴンの本来の力を、人体が受け止め続けられるはずもなく。
この形態は、もっておよそ“二分”。
(やっぱり長くは保ちそうにない……!)
ならば、ゼインが取る選択肢は見えてくる。
「どうした? さっさと攻めてこい」
「言われなくても!」
「しばらくは取り合わないがな」
「……!」
ゼインは回避を重視して立ち回り始めた。
さすがの速さで攻撃はもらおうとも、クリーンヒットは避ける形で。
急な方向転換に、シオスも理解する。
(制限に気づかれた!)
できれば、気づかれる前に決着をつけたかった。
少し焦り気味の攻勢は、この理由のためだ。
それでも、やるべきことは変わらない。
(最初から簡単に勝てるとは思ってない! だったら──)
「勝負だ、ゼイン……!」
「面白い!」
シオスには時間制限がある。
ゼインもすべて避けきれるわけではない。
言うならば──時間制限VS肉体限界。
最後は意地のぶつかり合いだ。
「うおおおおおお!」
「そんな大振りの攻撃など、もらわぬわ!」
力と知略がぶつかり合う、熾烈な攻防。
観客中が呼吸を忘れるような、激しい剣と魔法の合戦が繰り広げられていた。
──しかし、やがて一方に限界が訪れる。
「うぐっ……!」
「!」
シオスの足がガクンと下がった。
負荷に耐えられなくなったのだ。
それをゼインは見逃さない。
(ちょうど二分! 俺の勝ちだ!)
制限時間も予測していたのだろう。
あとはシオスが勝手に倒れるだけ。
その後でとどめをさせばいい。
──そうなるはずだった。
「う、うおおおおおおお!」
「……ッ!」
下がったはずのシオスの足が、再び上がる。
時間制限は過ぎたはずだ。
だが、制限があるなら超えればいいと言わんばかりに。
(僕は……!)
シオスの頭に想いが巡る。
今世が自由に生きれば良いと思っていた。
それは今も変わらない。
だが、その中で変わったことが一つ。
シオスには、“背負うもの"ができた。
テイマーパークへ行き、自分がテイマーの希望になっていると知った。
リセルと出会い、自分が活躍することの影響を知った。
自由に生きることは、好き勝手をすることではない。
自由に生きるほど責任が伴うからだ。
その責任が今、シオスの誇りとなる。
その誇りが今、シオスに限界を超えさせる。
「僕は、テイマーシオスだ!!」
「バカな……!?」
一瞬油断したゼイン。
その緩みのせいで、防御が間に合わない。
──そこに、シオスの誇りをかけた一撃が直撃する。
「【暴竜黒炎拳】……!!」




