第25話 テイマーパークへ
「テイマーパーク?」
朝一番、学園でシオスが聞き返した。
話しかけたレティアは続ける。
「そう! テイマーがたくさん集まる場所で、学園の近くにあるらしいの」
「へえ~!」
「きゅい~!」
そこは文字通り、テイマーの公園。
テイマーが集まり、交流や情報交換などをするという。
噂を聞きつけたレティアは、早速シオスに声をかけたようだ。
「きょ、今日の放課後でもどうかしら?」
「行く行く!」
「きゅいきゅい!」
「ほんと……!」
シオスとドランは同時にうなずき、笑顔を浮かべる。
聞いただけでも楽しみのようだ。
すると、レティアはもじもじしながら切り出した。
「こ、これって一応、デート──」
「あ」
そんな時、学園のチャイムが鳴る。
真面目なシオスは、すぐさま席に着こうと背を向けた。
「誘ってくれてありがと! じゃあ放課後ね!」
「きゅい!」
「あぁっ……!」
去って行くシオスに、レティアは手を伸ばす。
演劇の舞台上で、置いて行かれる女性のように。
とにもかくにも、放課後の予定(デート?)が決まった。
★
放課後。
「おお~!」
「きゅい~!」
噂のテイマーパークに着き、シオスとドランは声を上げる。
想像以上の光景に感動を覚えたようだ。
「すごいっ!」
入口を抜けた先は、一面の大自然。
広大で綺麗な土地に、いくつもお花畑が並んでいた。
もちろん、犬やハリネズミなど従魔を連れた人がたくさんいる。
「おーよしよし」
「くぅ~ん」
「針をお掃除しましょうね~」
「きゅっ!」
「いいぞー、ポセイドンジュニア三号!」
「ブオッ!」
中には独特な名前もいるが、総じて従魔と戯れている。
その光景に、シオスとドランは目を輝かせた。
「みんなテイマーなのかな!」
「きゅいー!」
テイマーは存在自体が珍しく、強さ至上主義の学園ではまず見かけない。
貴重な同業者がたくさんいて嬉しいのだろう。
また、近くには激しくトキめく者も。
「はわわわあっ!」
レティアだ。
目にはハートを浮かばせ、両手をぎゅっと組んでいる。
大のもふもふ好きな彼女には、ここはまさに天国だ。
「わたしもテイマーに転向しようかしら!」
「レティア!?」
「きゅい!?」
感激具合は、今まで磨いてきた剣を捨てるほど。
それはさすがに冗談だが、ふと冷静になって周りを見つめる。
あまりに情緒不安定ながら、確信した。
(でも、やっぱりうちのドランちゃんが一番かわいい!)
推しは変わらなかったようだ。
好き過ぎて勝手に自分のものにしていた。
すると、目立つレティアは声をかけられる。
「これはこれは。ローゼリッド家のレティア様ではありませんか」
「はじめまして」
「もしかして、レティア様も従魔を?」
「いえ、わたしは付き添いというか、二人を従魔にしたいというか」
「はい?」
二人とはシオスとドランの事だろう。
テンションが高すぎたレティアは、思わず口を滑らせていた。
そうして、レティアが失態をおかす一方、シオスはドキドキしている。
(これは公園デビューというやつでは!?)
(きゅい!?)
小声で話したのは、“公園デビュー”。
本来は、親と幼児が初めて公園コミュニティに参加するという意味だが、ここはテイマーの公園だ。
ほとんど同じ意味だろう。
胸を高鳴らせたシオスは、早速ドランの両脇を抱える。
ドランを前に向けて話しかけたのは、近くにいたテイマーのおばさんだ。
「こ、こんにちは!」
「あらこんにちは。って、珍しい、ドラゴンちゃんじゃない!」
「そうなんです!」
「種族は? ミニドラゴンかしら!」
「そ、そんなとこですかね、あはは……」
(原始種とは言えないなあ……)
なんとなく誤魔化しながら、シオスは相手に話を振る。
「そちらのうさぎさん? もかわいいですね!」
「そうなのよ。この子ったら普段はそっぽを向くくせに、ここに来るときだけはご機嫌なのよ」
「へーかわいい!」
おばさんが連れていたのは、グレーの小さなうさぎの従魔。
毛が伸びてきたのか、毛並みはもふっとしている。
その態度は、おばさんの言う通りだ。
「ぷくっ」
うさぎはつーんとしながらも、その辺を嬉しそうに走り回る。
興味が湧いたのか、ドランの方もちらっちらっと見ていた。
シオスもふふふっと笑顔で眺める。
そんな時、横からシオスに声がかかった。
「すみません! もしかして魔法学園のシオスさんですか!?」
「え? あ、はい」
「すげえ本物だ!」
学生服は着ていないが、同年代ぐらいの男だ。
テイマーらしくミニライオンの従魔を連れている。
男子は興奮気味に続けた。
「噂はかねがね聞いてます! あの最高峰の学園でテイマーとして頑張ってらっしゃるとか!」
「ま、まあ。このドランと一緒に学校に行きたかったので」
「それってすごいことですよ!」
学園で名を轟かせるシオス。
その名声は、テイマー界隈でも話題のようだ。
「僕たちはテイマーに誇りを持ってる。ですが、やはり戦闘になると不遇職なのは確かな事実ですから」
「それはー、はい」
「それでも活躍されてるって聞いて、勝手に鼻が高くなってますよ!」
「あはは、ありがとうございます」
シオスは一見クールに返事をする。
だが、内心はめちゃくちゃ喜んでいた。
(えへへ、噂になってるって)
(きゅいぃ)
シオスとドランはニヤニヤしながら目を合わせた。
長年の付き合いから、アイコンタクトでの会話も余裕だ。
そして、先程のおばさんに再び話を振られる。
「あら、すごい子達だったのね」
「いえいえ」
「きゅいきゅい」
「ふふっ。息までぴったり」
同時に謙遜するシオスとドランに、おばさんも笑顔を浮かべる。
「そういえば、魔法学園の子だって言ったわね」
「はい」
すると、何かを思いついたように切り出した。
「だったらね、相談に乗ってあげてほしい子がいるの」
「もちろん!」
「ありがとう。私たちじゃどうしても相談に乗れなくて」
「は、はあ」
シオスは首を傾げながらも、おばさんに案内された。
「こんにちは」
別区画に移り、シオスは学生服の少女に声をかけた。
おばさんに言われた子のようだ。
振り向いた少女は、シオスの姿に目を見開く。
「え、シ、シオスさん!?」
「どうも。同じ一年生って聞いたので、シオスで良いよ」
「そ、そんな! 恐れ多いです!」
少女は両手をぱたぱたと横に振る。
謙遜というよりは、自信がないように見えた。
その態度にシオスは違和感を覚える。
(あれ、僕の印象では……)
何か少女の情報を持っていたのだろう。
確認するようにシオスは続けた。
「あの、リセルだよね?」
「あ、は、はい! そうです! 魔法学園一年のリセルです!」
少女の名は、リセル。
貴族ではないため、名字はない。
茶髪のショートカット。
まとまった髪と小柄な体型で、全体的に小さく見える。
手元には鳥種の従魔を連れていた。
おばさんから少女について聞いたシオスだが、その名前にはピンときていた。
(この子、メインヒロインだ)
リセルは原作メインヒロイン。
全四人いる内、最後の出会いだ。
しかし、ここにシオスの違和感の原因がある。
(元気な子という設定じゃなかったっけ……)
各ヒロインについて、シオスはプロフィールくらいは知っている。
だが、目の前のリセルは違う様相だ。
すると、リセルは切り出した。
「私、学園をやめようと思ってます」




