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第25話 テイマーパークへ

 「テイマー(・・・・)パーク?」


 朝一番、学園でシオスが聞き返した。

 話しかけたレティアは続ける。


「そう! テイマーがたくさん集まる場所で、学園の近くにあるらしいの」

「へえ~!」

「きゅい~!」


 そこは文字通り、テイマーの公園。

 テイマーが集まり、交流や情報交換などをするという。

 噂を聞きつけたレティアは、早速シオスに声をかけたようだ。


「きょ、今日の放課後でもどうかしら?」

「行く行く!」

「きゅいきゅい!」

「ほんと……!」


 シオスとドランは同時にうなずき、笑顔を浮かべる。

 聞いただけでも楽しみのようだ。

 すると、レティアはもじもじしながら切り出した。


「こ、これって一応、デート──」

「あ」


 そんな時、学園のチャイムが鳴る。

 真面目なシオスは、すぐさま席に着こうと背を向けた。


「誘ってくれてありがと! じゃあ放課後ね!」

「きゅい!」

「あぁっ……!」


 去って行くシオスに、レティアは手を伸ばす。

 演劇の舞台上で、置いて行かれる女性のように。


 とにもかくにも、放課後の予定(デート?)が決まった。

 




 放課後。


「おお~!」

「きゅい~!」


 噂のテイマーパークに着き、シオスとドランは声を上げる。

 想像以上の光景に感動を覚えたようだ。


「すごいっ!」


 入口を抜けた先は、一面の大自然。

 広大で綺麗な土地に、いくつもお花畑が並んでいた。

 もちろん、犬やハリネズミなど従魔を連れた人がたくさんいる。


「おーよしよし」

「くぅ~ん」


「針をお掃除しましょうね~」

「きゅっ!」


「いいぞー、ポセイドンジュニア三号!」

「ブオッ!」


 中には独特な名前もいるが、総じて従魔と(たわむ)れている。

 その光景に、シオスとドランは目を輝かせた。


「みんなテイマーなのかな!」

「きゅいー!」


 テイマーは存在自体が珍しく、強さ至上主義の学園ではまず見かけない。

 貴重な同業者がたくさんいて嬉しいのだろう。

 また、近くには激しくトキめく者も。

 

「はわわわあっ!」


 レティアだ。

 目にはハートを浮かばせ、両手をぎゅっと組んでいる。

 大のもふもふ好きな彼女には、ここはまさに天国だ。


「わたしもテイマーに転向しようかしら!」

「レティア!?」

「きゅい!?」

 

 感激具合は、今まで磨いてきた剣を捨てるほど。

 それはさすがに冗談だが、ふと冷静になって周りを見つめる。

 あまりに情緒不安定ながら、確信した。


(でも、やっぱりうちの(・・・)ドランちゃんが一番かわいい!)


 推しは変わらなかったようだ。

 好き過ぎて勝手に自分のものにしていた。


 すると、目立つレティアは声をかけられる。


「これはこれは。ローゼリッド家のレティア様ではありませんか」

「はじめまして」

「もしかして、レティア様も従魔を?」

「いえ、わたしは付き添いというか、二人を従魔にしたいというか」

「はい?」


 二人とはシオスとドランの事だろう。

 テンションが高すぎたレティアは、思わず口を滑らせていた。


 そうして、レティアが失態をおかす一方、シオスはドキドキしている。


(これは公園デビューというやつでは!?)

(きゅい!?)


 小声で話したのは、“公園デビュー”。

 本来は、親と幼児が初めて公園コミュニティに参加するという意味だが、ここはテイマーの公園だ。

 ほとんど同じ意味だろう。

 

 胸を高鳴らせたシオスは、早速ドランの両脇を抱える。

 ドランを前に向けて話しかけたのは、近くにいたテイマーのおばさんだ。


「こ、こんにちは!」

「あらこんにちは。って、珍しい、ドラゴンちゃんじゃない!」

「そうなんです!」

「種族は? ミニドラゴンかしら!」

「そ、そんなとこですかね、あはは……」


(原始種とは言えないなあ……)


 なんとなく誤魔化(ごまか)しながら、シオスは相手に話を振る。


「そちらのうさぎさん? もかわいいですね!」

「そうなのよ。この子ったら普段はそっぽを向くくせに、ここに来るときだけはご機嫌なのよ」

「へーかわいい!」


 おばさんが連れていたのは、グレーの小さなうさぎの従魔。

 毛が伸びてきたのか、毛並みはもふっとしている。

 その態度は、おばさんの言う通りだ。


「ぷくっ」


 うさぎはつーんとしながらも、その辺を嬉しそうに走り回る。

 興味が湧いたのか、ドランの方もちらっちらっと見ていた。

 シオスもふふふっと笑顔で眺める。


 そんな時、横からシオスに声がかかった。

 

「すみません! もしかして魔法学園のシオスさんですか!?」

「え? あ、はい」

「すげえ本物だ!」


 学生服は着ていないが、同年代ぐらいの男だ。

 テイマーらしくミニライオンの従魔を連れている。

 男子は興奮気味に続けた。


「噂はかねがね聞いてます! あの最高峰の学園でテイマーとして頑張ってらっしゃるとか!」

「ま、まあ。このドランと一緒に学校に行きたかったので」

「それってすごいことですよ!」


 学園で名を(とどろ)かせるシオス。

 その名声は、テイマー界隈でも話題のようだ。


「僕たちはテイマーに誇りを持ってる。ですが、やはり戦闘になると不遇職なのは確かな事実ですから」

「それはー、はい」

「それでも活躍されてるって聞いて、勝手に鼻が高くなってますよ!」

「あはは、ありがとうございます」


 シオスは一見クールに返事をする。

 だが、内心はめちゃくちゃ喜んでいた。


(えへへ、噂になってるって)

(きゅいぃ)


 シオスとドランはニヤニヤしながら目を合わせた。

 長年の付き合いから、アイコンタクトでの会話も余裕だ。


 そして、先程のおばさんに再び話を振られる。


「あら、すごい子達だったのね」

「いえいえ」

「きゅいきゅい」

「ふふっ。息までぴったり」


 同時に謙遜(けんそん)するシオスとドランに、おばさんも笑顔を浮かべる。


「そういえば、魔法学園の子だって言ったわね」

「はい」


 すると、何かを思いついたように切り出した。


「だったらね、相談に乗ってあげてほしい子がいるの」

「もちろん!」

「ありがとう。私たちじゃどうしても相談に乗れなくて」

「は、はあ」


 シオスは首を傾げながらも、おばさんに案内された。






「こんにちは」


 別区画に移り、シオスは学生服の少女に声をかけた。

 おばさんに言われた子のようだ。


 振り向いた少女は、シオスの姿に目を見開く。


「え、シ、シオスさん!?」

「どうも。同じ一年生って聞いたので、シオスで良いよ」

「そ、そんな! 恐れ多いです!」


 少女は両手をぱたぱたと横に振る。

 謙遜というよりは、自信がないように見えた。

 その態度にシオスは違和感を覚える。


(あれ、僕の印象では……)


 何か少女の情報を持っていたのだろう。

 確認するようにシオスは続けた。


「あの、リセルだよね?」

「あ、は、はい! そうです! 魔法学園一年のリセルです!」


 少女の名は、リセル。

 貴族ではないため、名字はない。


 茶髪のショートカット。

 まとまった髪と小柄な体型で、全体的に小さく見える。

 手元には鳥種の従魔を連れていた。


 おばさんから少女について聞いたシオスだが、その名前にはピンときていた。


(この子、メインヒロインだ)


 リセルは原作メインヒロイン。

 全四人いる内、最後の出会いだ。

 しかし、ここにシオスの違和感の原因がある。


(元気な子という設定じゃなかったっけ……)

 

 各ヒロインについて、シオスはプロフィールくらいは知っている。

 だが、目の前のリセルは違う様相だ。


 すると、リセルは切り出した。


「私、学園をやめようと思ってます」

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