第22話 合同授業にて
<三人称視点>
『本日は合同授業を行う!』
朝の一限目より、先生が声を上げる。
その前に整列するのは多くの生徒。
一年生と二年生だ。
『二年生からは学べることが多くだろう。一年生は積極的に指南してもらうように!』
「「「はい!」」」
内容は、合同のダンジョン探索。
一年と二年がパーティーを組み、学びを得る授業のようだ。
すると、早速シオスに声をかける者がいる。
「小さな声でハローっ」
「あ、あはは……」
先輩のユユミだ。
ぐっぱっと手を軽やかに動かし、挨拶をしてきた。
シオスに絡む気まんまんのようだ。
だが、それを黙って見過ごせない者たちもいた。
「あん?」
反応を示したのは、レティア。
シオスの後ろに並ぶ彼女は、ユユミの行動も丸見え。
最近やたらとシオスに絡んでくるユユミに、レティアは反感を抱いていたようだ。
「わたしのシオスに何か用ですか」
「ん?」
シオスとレティアは同じパーティーだ。
あくまでその意味の“わたしの”だろうが、何か含みもあるような気がしてならない。
「シオスをたぶらかさないでください」
「レ、レティア?」
レティアはキっとガンを飛ばし、チャらい格好のユユミを睨む。
最近の彼女は暴走気味である。
シオスへの感情の大きさゆえか、段々と令嬢からかけ離れてきているようだ。
しかし、ユユミも中々に手ごわい。
「だって授業だしー? うちが教えてあげないと。手取り足取りねっ」
「だからそういうチャラチャラしたのが──」
『そこ静かに!』
「「はいー!」」
話の途中でヒートアップする二人に、先生から注意が入る。
双方姿勢を正しながらも、またチラっとお互いを向いていた。
「うちが教える」
「いいえ、あなたには教わりません」
そうして、二人はふんっと視線を逸らす。
「一応、僕の話だよね……?」
「きゅい……」
自分の話に入れてもらえないシオスであった。
「ではでは、このパーティーはうちがリーダーです!」
はーいと手を上げながら、ユユミが仕切り始める。
先生の話が終わり、各パーティーが決定した。
人員は一年と二年が二人ずつ。
それに倣い、ユユミの前にも二人が並んでいた。
レティアとシオス(とドラン)だ。
「よりによってこの人!?」
「あはは……」
「きゅい……」
レティア達がうるさくしていたため、「なんかその辺で」と組まされたようだ。
シオスは完全に巻き込まれた形だが。
また、二年生はもう一人いる。
ユユミがちらりと視線を向けて声をかけた。
「あなたも副リーダーでしょ。しっかりしてよね」
「……ええ」
先日出会ったクーリアだ。
スラリとした長身。
ストレートの美しい水色の髪。
大人びた表情をしていて、性格も“クール”そうだ。
数日ぶりに、シオスはその姿を確認する。
(メインヒロインの人だよね)
クーリアは原作のメインヒロインの一人。
今のところ関わりは多くないが、多少情報は得ていた。
二年生で勉学成績一位の秀才だと言う。
(頭良さそうだもんなあ……)
原作知識のないシオスは、子どものような感想しか出てこない。
だが、ユユミは良く思っていないようで。
「今日は本ばっか読んでるんじゃないわよ」
「授業中だもの。持ってきてないわ」
「……ならいいけど」
軽い会話の後、ユユミは再び声を高くした。
「んじゃ、早速ダンジョンにゴー!」
「これでどーだ!」
学園ダンジョンの上層。
ユユミが魔物を討伐し、後ろを振り返る。
成果に満足げな表情を浮かべながら。
「うちは三体倒したよ!」
だが、後方の景色に度肝を抜かれる。
「フン、わたしは十体よ」
「僕は十六体です」
「ええっ!?」
討伐数はレティアは三倍、シオスはさらにその上をいく。
ユユミはがっくりと肩を落とした。
「うち、教えることないじゃん……」
「だから言ってるじゃない」
「まあまあ、レティアもそんな言い方しなくても」
ユユミも成績が悪いわけではない。
シオスとレティアの実力が飛び抜けているだけだ。
一方で、クーリアは横で苦戦していた。
「くっ……!」
「クーリアさん!」
「大丈夫──よ!」
背中から矢を取り出し、再び弓を構える。
氷魔法が付与された矢は、ようやく魔物を仕留めた。
その姿にシオスは感じる。
(実技は得意じゃないのかな……)
クーリアの討伐数は、これで“二体”。
四人の中では最も少ない。
すると、ユユミがうなだれる。
「これじゃ頼りなさすぎー。先輩感ないよぉ」
「……」
「どうしたのよ、クーリア」
「……い、いえ」
だが、クーリアは何かを考えている素振りをしていた。
発言を遠慮するが、シオスが尋ねてみる。
「何か気づいた事でもありましたか?」
「こんな私が言っても……」
「そんなことないです。ぜひお願いします」
「……! そ、そう」
シオスが真っ直ぐ見つめると、クーリアは徐々に話し始めた。
「シオスさんは突っ走る癖があるかもしれない」
「!」
「今は強いからそれでいい。でも、パーティー単位で動く時には気を付けた方が良いかも。前衛が出過ぎると、後衛がバランスを取りづらくなってしまう」
「……た、たしかに」
それにはシオスも納得する。
実際、魔導競争でも何度かあったシーンだ。
シオスが前に出るあまり、左右からの魔物はフィノに任せっきりになっていた。
入学までのシオスは、ほとんど独学だった。
修行相手もドランしかおらず、前世で誰かと密接に関わったこともない。
集団行動という点においては、まだまだ粗削りのようだ。
「それでレティアさんの方は──」
「は、はい!」
続けて、クーリアはレティアにも適切なアドバイスを送っていた。
シオスは素直に感心する。
(クーリアさんは視野が広い。とにかく人を見てる……)
実技は追いつかないが、観察眼は優れていた。
アドバイスが適格なのも学年一の秀才ゆえだろう。
すると、クーリアはユユミにも言及する。
「あなたは何か隠しているわね」
「!」
「もっと自分に正直になった方が良い」
「……」
なんとなくぼかした言い方だ。
シオス達は疑問符を浮かべるが、ユユミ本人には伝わっていた。
これが嫌味じゃないことも。
「……ふーん」
だが、ユユミは反論せず。
くるりと前方に向き直ると、再び進行役を務め始めた。
「とりあえず先に進もっか!」
「……」
「んじゃ一年生二人は物資の回収! うちら二年は前方の確認! おっけ?」
「分かったわよ」
ユユミに促され、クーリアは前に出る。
シオスとレティアも指示に従い、後方で作業中だ。
そんな時に、事は起きた。
──ドガアアアアアア!!
「「「……!?」」」
突如、ユユミ達付近の足場が崩落する。
同時に、シオス達の前に岩石が降り注いだ。
これでは前に進めない。
「先輩方!」
シオスの声も虚しく、ユユミとクーリアは落ちて行った。
★
しばらく経ち、ダンジョン深く。
「そういうわけね……」
ひとまず無事だったクーリアだが、唇を噛む。
目の前の者が正体を現したからだ。
「あなたが何に勘付いたから知らないけど、可能性は消すわ」
ユユミだ。
両手にはクナイを持ち、表情もまるで違う。
「でも、まだ価値があるわね」
「……!?」
「ターゲットは弱い者で釣るに限るわ」
ユユミの正体は、暗殺者の一人。
シオスを狙う刺客だったのだ──。




