第21話 ふとした出会い
<シオス視点>
「はっ! やあっ!」
「きゅい!」
朝早く、僕は木剣でドランと打ち合っていた。
今日も朝の特訓を続けている。
変わらない日課だ。
──でも、全てが変わらないわけではなく。
「わあ~!」
「すごーい!」
「ドランちゃんこっち見てー!」
なんかギャラリーがいた。
女の子たちの。
(しゅ、集中できない……)
(きゅい……)
文化祭から約一週間。
魔導競争を見てなのか、最近はこんな事が増えていた。
学園でも声をかけられることが多い。
でも、まさか朝の日課まで見に来るとは。
「ど、どうも……」
「きゅい……」
「「「きゃー!」」」
僕もチヤホヤされて嬉しくないわけではない。
前世では女の子と話したこともほとんど無かったし。
だけど、今は特訓に集中したいなとも思う。
「あ、あの──って、……!?」
僕がお引き取り願おうとした瞬間、ドガアアアアと音が聞こえてくる。
一斉に振り向いた先からは、ある人が姿を現した。
「あらごめんなさい。力が入り過ぎてしまったみたいで」
「「「……っ!」」」
レティアだ。
その顔はなぜかムスっとしている。
彼女は女子たちを一瞥すると、ふと言葉をこぼす。
「この辺にいたら巻き込んでしまうかもしれませんので」
「「「……!」」」
「ケガをしても自己責任でお願いしますね?」
「「「すいませーん!」」」
レティアは笑顔を浮かべたのに、女の子たちは逃げ出した。
まあ、その気持ちも分かるけど。
笑顔なのに目が笑っていない。
とにもかくにも、僕はレティアに駆け寄る。
「あ、ありがとうレティア!」
「きゅい!」
「──いいえ」
すると、レティアはさらにぐっと口角を上げた。
未だに目は笑っていない。
「次は当ててしまうかもしれないから、あくまで優しさよ」
「う、うん……」
「きゅいぃ……」
どうしてかは分からないけど、やっぱり怒ってるのかも。
★
放課後。
「う~んっと」
学園での日程が終わり、腕を伸ばしながら教室を出る。
文化祭から気分も徐々に切り替わり、日常が返ってきたみたいだ。
でも、一つ気がかりな事がある。
「今日も来なかったね」
「……そうだね」
僕の言葉に、隣のフィノがうなずいた。
気がかりというのは、ラオニルがずっと休んでいること。
魔導競争の後、彼は一度も学園に顔を出していない。
特に先生からの報告などもなく、寮でも見かけない状態だ。
「まあ、フィノが安全なら良いんだけど」
「うん。ありがと」
ラオニルが心配なわけではない。
次に現れた時、フィノにどんな接し方をするかが気になるだけだ。
彼女に危害が及ばないなら、それはそれで良い。
すると、フィノは話題を切り替えるようにクルっとこちらを向く。
「ねえシオス君、今から──」
「あ~いたいた!」
「……!?」
だけど、話を遮るように声が聞こえてくる。
二人で振り向くと、左右に揺れる明るい茶髪が視界に入った。
「んもーシオスくんったら! すぐ帰ろうとするんだから!」
「ダメなんですか……?」
「ていうか、うちの名前覚えてくれた?」
「は、はあ。ユユミさんですよね」
「そー! まじ感激!」
やってきたのは『ユユミ』さん。
最近よく話しかけてくる先輩だ。
リボンの色から、二年生。
明るい茶髪のサイドテール。
スカートは短く、制服のボタンも一つ外れている。
前世で言うギャルみたいな人なのかも。
突然の訪問に、フィノが尋ねてくる。
「シオス君? この人とはどういうご関係で?」
「関係というか、最近よく絡まれるというか……」
「本当かなあ」
「ほ、ほんとだよ!」
なぜかジト目で。
でも僕も、どうしてここまで絡んでくるんだろうとは感じる。
ユユミさんは明るく、積極的で声が高い。
ゲーム内でも目立つキャラだったはずだ。
それこそ“メインキャラ”でもおかしくないほどに。
だけど、僕の記憶に無い名前だ。
原作知識がないなりにも、メインキャラの名前くらいは知ってるはずなんだけど。
もしくは、中盤から登場するのかな。
「どったの? 難しい顔して」
「……! いえ、なんでも!」
ユユミさんにずいっと顔を迫られて、慌てて視線を逸らす。
不意に近づかれるとドキっとしてしまう。
目のやり場に困る格好もしてるし。
──と、そうこうしている中、
「……フン」
「!」
すっと近くを通り過ぎていく人がいた。
スラリとした長身。
足を進める度、目を惹く水色のストレートが左右に揺れている。
静かな鋭い視線は、僕たちをじっと見ていたように感じた。
ユユミさんはボソっと口にする。
「なにあれ。ちょっと感じ悪いかも」
視線が嫌だったのか、そんな感想を抱いたらしい。
でも、僕は違う印象を持った。
もしかしてと思いながら、ユユミさんに尋ねてみる。
「今の人は?」
「あの子は『クーリア・サリオン』だね」
「……!」
その名前にハッとしながらも、続きを聞く。
「いっつも本ばっか読んでて、超静か。ちょっと何考えてるか分かんない感じー」
「そうなんですね……」
「てか、あんな子ほっておいてさ、うちと遊びにいこっ!」
「だから遊ばないですってー!」
強引に来るユユミさんの腕を振り切ろうとしながら、僕は思考を巡らせていた。
クーリア・サリオン。
原作メインヒロインの一人だ。
(あの視線の意味は……)
こうして、ふとした不思議な出会いをし、放課後を過ごした。
この時すでに、すぐ傍まで脅威が迫っているとは知らず──。




