第17話 非道な策
「このまま進もう!」
一番前を進みながら、シオスが周りを活気づける。
先程シオスパーティーは、どこよりも早く第一関門を抜けた。
その勢いはとどまることを知らず、心身ともにノリノリだ。
そんな彼らを阻むのは、第二フィールド。
「緑が濃くなってきたね」
「ええ、そのようだわ」
第一関門の先も、同じ森のフィールドだ。
だが、より生い茂った木々により、緑は濃く、霧も発生している。
さらに迷うよう設計されたのだろう。
それでも、シオス達のやることは変わらない。
「ドラン、道は分かる?」
「きゅぅ……」
ドランは目を閉じ、辺りの気配を探った。
翼は普段より小刻みに、鼻をすんすんさせている。
すると、ぴこんと閃いたように翼が浮き上がった。
「きゅい!」
「そっちだな、了解!」
「きゅいーっ!」
行くべき道が分かったのか、ドランはぴゅーっと進み出す。
まるで「付いて来い!」と言わんばかりの勢いだ。
みんなに頼られて張り切っているようだ。
そんな様子を、レティアもハートを浮かべた目で眺める。
(ドランちゃん、さすが……!)
このスムーズな進行も、シオスとドランの絆あってこそ。
“不遇職”テイマーは、ここでも輝きを放っていた。
「うおおおおおっ!」
「グアアッ!」
迫ってくる魔物も、シオス達の敵ではない。
シオスパーティーはまさに絶好調──のはずだった。
「フィノ、横から魔物!」
「うん! ──って、あれ!?」
「!?」
フィノの放った水魔法が、シオスに飛んでいく。
「避けて……!!」
「うわっ!?」
フィノの魔法が暴発したのだ。
間一髪、シオスは体をひねって回避した。
「どうしたのよ、二人とも!」
フィノが倒し損ねた魔物は、レティアがカバーする。
だが、フィノの様子がおかしい。
今放った魔法に自分自身で困惑しているのだ。
「な、なにか変。魔法がうまく飛ばないの……」
「!?」
「──って、今度は何!?」
さらに、フィノの魔力出力がどんどんと上がっていく。
否、暴走していくと言った方が正しい。
フィノ自身は魔力を込めるつもりはないからだ。
「な、なんなのこれ! きゃあっ!」
「「……!?」」
フィノの魔力は、水を生成する。
それが暴走すると、大きな水の塊が出来上がっていく。
膨れ上がった水の塊は、やがてフィノ自身を包んだ。
「ぐっ、がぼっ!」
「「フィノ……!」」
杖から出続ける水に、フィノは溺れかかる。
才能があるフィノだからこそ、暴走する魔法も激しいのだ。
「今助け──うぐっ!」
シオスはすぐさま手を伸ばす。
だが、想像以上に魔力が激しく、簡単に腕が弾き返された。
すると、後ろからざっと足音が聞こえる。
「フッ、自分の魔法で自滅か?」
「お前は……!」
姿を見せたのは、ラオニル。
そして、その口角は随分と上がっている。
まるで仕掛けが上手く機能したかのように。
引き続きフィノを助けようとしながらも、シオスは激しく睨んだ。
「これはお前の仕業か!!」
「おいおい、言いがかりはよしてくれよ。公爵家に向かって疑いとは、最悪、死罪になるぜ?」
「ふざけやがって……!」
すると、水中のフィノには思い当たることがあった。
(あの時……ッ!)
ラオニルは挨拶だと言い、直前にフィノの肩に触れた。
その時に魔法を付与されていたのだ。
任意のタイミングで暴走するように。
「あとは、ついでだ」
「これは……!?」
ラオニルはぱちんと指を鳴らす。
その瞬間、周囲から魔物の気配がわっと湧き出てくる。
以前の話にあった『洗脳デバイス』を、あらかじめ用意していたのだ。
ラオニルに、正々堂々という言葉は無い。
その気味の悪い笑顔を浮かべたまま、フィノの語り掛ける。
「ほら、フィノちゃん。こいつに関わってると、こんなひどい目に遭うんだよ」
「……っ」
「分かったら、さっさと俺の所に来るんだ」
最後に問いかけ、ラオニルは踵を返した。
自分たちは宝玉へと向かうために。
「この勝負に勝って待ってるからね」
「待て、ラオニル!」
「それじゃ」
そうして、ラオニルは仲間と共に森に消えた。
しかし、レティア達は追うことができない。
「うぐ、がほっ!」
「フィノ……!」
フィノが今なお苦しんでいるからだ。
“仲間を見捨てられない”。
シオス達の最大の弱点を突かれたというわけだ。
「どうすれば!」
「ま、魔力が尽きれば魔法は解けるはず!」
「でもそれじゃ!」
「ええ……」
魔力が枯渇すれば、水は放出されない。
一応、死ぬ前に解放はされる。
だが、それまでフィノは苦しみ、生死をさまようことになる。
ラオニルはフィノを極限まで追い込み、精神的にも支配しようとしているのだ。
家庭を暴力で支配する最低な男のように。
どこまでも非道な男だ。
だが、シオス達はそんなことを黙って見過ごせない。
「レティア、何か方法は!?」
「……っ」
レティアも必死に思考を巡らせていた。
すると、ようやく一つ思い至る。
「フィノの魔力を上回る魔法をぶつける。だけど、彼女を傷つけてはいけない」
「……!」
苦し紛れの回答だ。
フィノの魔力を上回るとなると、相当な大規模魔法となる。
しかし、それを弱った状態のフィノに当てれば、それこそ命の危険だ。
特大威力、かつ繊細に。
レティア自身も無茶を言っていると自覚するほど、無理難題である。
だが、シオスとドランはうなずき合った。
「ドラン、いけるか」
「きゅいっ!」
まるでお互いに解決策が浮かんだように。
それから、シオスはレティアに声をかけた。
「レティア、お願いがあるんだ」
「え?」
「────」
「……!」
ただ一言。
シオスはレティアに告げる。
詳細は無いが、レティアは迷わず首を縦に振った。
シオスを信じたのだ。
この真っ直ぐな目をしている時は、必ずやってくれると。
「わかったわ!」
「ありがとう」
レティアはタッと駆け出す。
一方、シオスはフィノに向き直った。
「フィノ、今助けるから!」
「きゅい!」
そうして発動するのは、初めて見せる“合わせ技”。
「──【竜装】」