第16話 魔導競争
『一年生による魔導競争をはじめます!』
闘技場にアナウンスが響き渡る。
それに倣い、出場選手がずらりと並んだ。
中でも、バチバチしているパーティーが二つ。
「勝たせてもらうよ」
「やってみろ、下民が」
シオスパーティーと、ラオニルパーティーだ。
事の発端は、約一か月前。
シオスの友達フィノは、ラオニルにしつこく付きまとわれていた。
だが、シオスが強く反対したことにより、フィノを賭けた勝負となった。
つまり、これはただのイベントではない。
シオスにとっては、大事な友達を守るための“戦い”だ。
そうして、闘技場の中央から再びアナウンスが入る。
魔導競争のルール説明のようだ。
『ここにいる皆さんは、これから森へ飛ばされます』
参加者は、全部で十パーティー。
彼らはそれぞれ、学園が用意した森の違う地点に飛ばされる。
公平性から、転移先からゴールへの距離は等間隔のようだ。
『そして、森から脱出し、一早くこれを手にしたパーティーが勝利です!』
司会者は、バッと手を掲げた。
持っているのは“宝玉”。
綺麗に光る宝玉は、闘技場の中央に置かれた。
森を脱出すると、この闘技場に帰ってくるように繋がっているようだ。
『では、各パーティーはそれぞれの転移魔法陣に乗って下さい!』
司会に従い、シオス達も乗る魔法陣を選ぶ。
すると、隣の魔法陣にはラオニルのパーティーが乗った。
「無様な姿を見せない事を祈ろう、平民」
「僕たちが勝つから安心してよ」
静かな言葉の交わし合いだ。
今から冷静さを失っていては、競技に影響が出ると分かっている。
だが、瞳の奥には確かな怒りがうかがえた。
そうして、いよいよその時がくる。
『それでは、競技開始!』
「「「わああああああああああっ!!」」」
ここにきて一番大きな歓声だ。
各パーティーがまばゆい光に包まれ、一斉に転移した──。
★
「……ん」
光が薄れ、シオスがゆっくり目を開く。
「ひとまずは安全ね」
「そうみたい」
レティアの言葉に、シオスはこくりとうなずく。
森のフィールドには魔物も多数放たれているという。
だが、付近に気配は無かった。
ならば、すぐに作戦を実行する。
「頼めるか、ドラン」
「きゅ!」
魔導競争で最重要なのは、“速さ”。
どれだけ強くても、先に宝玉を取らなければ意味がない。
その点において、シオス達には秘策があった。
「じゃあ、魔物が少ない道を案内してくれ!」
「きゅいーっ!」
ドランは魔物ならではの感覚を持つ。
視覚、聴覚、嗅覚など。
人よりも優れた五感により、最適なルートを選択できるのだ。
「みんな、ドランに従って進もう!」
「「了解!」」
シオスパーティーは、絶好のスタートを切った。
同時刻、闘技場。
『おーっと、早速抜け出したパーティーがあるぞぉ!?』
各パーティーの様子は、ここで見ることができる。
フィールドの至る所に設置されたカメラから、闘技場の大スクリーンにリアルタイムで映し出されているのだ。
『これは、シオスパーティーだあ!』
「「「わあああああああっ!」」」
司会が声を上げると、歓声も大きくなる。
シオスパーティー自体の人気も高いようだ。
「ドランちゃん!」
「頑張ってる!」
「すごーい!」
まずは、主に女子からの人気が高いドラン。
おかげで飼い主のシオスにも注目が集まる。
シオス自身、好成績を残しているのもあり、その人気は一年生の垣根を越え始めていた。
さらには、カリスマがもう一人。
「レティア様だ!」
「なんとお美しい剣技……!」
「本人もお綺麗だしな」
「おい、不敬だぞ!?」
レティアだ。
格式の高いローゼリッド公爵家の令嬢であり、剣・勉学共に最優秀。
信頼と人気があるのも納得だ。
直接話しかける者が少ないのは、恐れ多いだけだ。
その証拠に、会場中から支持をされている。
そんな二人がいるからか、自然ともう一人にも注目が集まる。
「「「おおおっ!?」」」
否、これは彼女自身の実力に他ならない。
それほどに“フィノ”も活躍をしていたのだ。
注目度の高さから、メインモニターには、シオスパーティーが大きく映る──。
「やあああああッ!」
声を上げ、フィノは込めた魔力を放出する。
「──【蒼流の波】……!」
「「「グオオオオオオオ!」」」
杖から発生したのは、蒼い波。
勢いよく放たれ、周囲の魔物を押し流す。
得意の水属性を用いて、フィノは進行に貢献していた。
「フィノ!」
「ナイス!」
前衛のシオスとレティアも目を見張る。
二人は前を切り開く役割のため、横からの魔物には対応しきれない。
そこをフィノがカバーするというわけだ。
「これなら、いける……!」
「うん!」
「きゅい!」
この一か月。
三人は修行のみならず、作戦も立ててきていた。
ほとんどはレティアが考案したものだが、ゆえに抜け目が無い。
「うおおおおお!」
「はああああッ!」
「やああああっ!」
また、三人の仲も深まり、息はぴったりだ。
個々の強さに、抜群のコンビネーション。
その勢いはとどまることを知らない。
「見えたよ、第一関門!」
「ええ、そうみたいね!」
フィールドには、二つの関門があるという。
正解の道と共に、進行度をパーティーに伝えるためだ。
シオスのパーティーは、どこよりも早く第一関門を抜けた──。
一方、その頃。
「そろそろか」
時計デバイスを眺め、ラオニルがつぶやく。
彼らの前に、まだ第一関門は見えない。
ゴール到達までの進捗は、シオスパーティーに大きく後れを取っていた。
だが、これは計画通りのよう。
「夢を見たな、平民どもが」
参加者には、他パーティーの情報は与えられない。
しかし、なぜかシオス達の行動を把握したようにニヤリと笑う。
「俺を敵に回したこと、後悔するがいい」
そして、何か仕掛けたものがあるかのように、意味深に指を鳴らした──。