第15話 学園祭開催!
『さあ、今年も始まりました!』
朝一番、学園敷地内にアナウンスが響き渡る。
至る所に設置されたマイクから、音声が流れてくるようだ。
『今年は一体どんなドラマが待っているのでしょうか!』
この全体音声を使う場面は限られる。
すなわち、これはそれほどに大きな祭典。
『グランフィール魔法学園祭、開催です!』
一年に一度、学園が最も盛り上がる三日間が始まった──。
「んーんまんま!」
学園の大通り。
人混みを避けながら、シオスはわたあめを食べていた。
“お祭りに参加する”。
これも前世でかなわなかったことの一つだ。
ゆえに、朝からはしゃいでいた。
「それにしても、すごいなあ」
祭典というだけあり、周りを見渡せば様々なものが並んでいる。
学園生の他、各地から出店などがたくさん集まるのだ。
また、シオスの肩には、同じく食べ物を口にするドランの姿が。
「おいしい?」
「きゅい~っ!」
「ははっ、良かったな」
ドランは小さなお口いっぱいに頬張っている。
ちなみに、ベビーカステラだ。
前世では日本で開発されたゲームのため、こんな遊び心も存在する。
しかし、少々急ぎ過ぎたようで。
「きゅ、きゅいっ!?」
「ドラン!? これを飲んで!」
「きゅぅ……きゅ~」
「ほっ。良かった」
シオスが水をあげると、ドランはなんとか詰まった物を飲みこむ。
一難が去ると、ほっと羽を下げた。
「きゅい~」
「急ぐのもほどほどにね」
「きゅっ!」
そんな危ない事もあったが、総じてドランも目一杯に楽しんでいた。
笑顔が絶えない姿から、大満足のようだ。
しかし、災難は続く。
「あ、あの!」
「ん?」
「ドランちゃんと一緒に、魔導カメラで写真を撮らせてもらえませんか!」
シオスは目を見開いた。
(ま、また……!?)
本日何度目かのお願いだ。
これに限らず、先ほどからちょくちょく女の子達に話しかけられていた。
だが、特に断る理由もない。
「い、良いですけど……」
「きゅい」
「ありがとうございます!」
ドランも小さな指をぐっと立てた。
サムズアップのつもりなのだろう。
実は、ドランは意外とノリノリである。
しかし、今回はここからが大変だった。
「え、じゃあ私も!」
「ずるい、私が先だよ!」
「私もお願いしていいですか!」
「え?」
「きゅい?」
周囲の者がわっと集まってきたのだ。
遠慮していたが、今の子をきっかけに羨ましくなったのだろう。
そうなれば、歯止めは効かない。
「え、ちょっと、皆さん!?」
「「「わーわー! ぎゃーぎゃー!」」」
シオスの周囲に人だかりが出来てしまった。
これでは前に進めない。
通行の邪魔になるのも時間の問題だ。
(こ、これは……!)
(きゅいぃ……!)
どうしようと戸惑っていると──後ろからぐいっと引っ張られる。
「こっち!」
「……! うん!」
「きゅい!」
声だけで相手が分かったのだろう。
シオスは振り返りもせず、さっと付いて行く。
「「「あれー!?」」」
なんとか切り抜けたシオスであった。
「ったく。気づく度に絡まれてんだから」
人目が付かない裏通り。
腰に両手を当てたレティアは、ため息交じりに告げた。
「ごめんごめん、助かったよ」
「きゅい~」
「べ、別にいいんだけどねっ!」
助けてくれたのはレティアだった。
感謝に少し照れながら、ふとシオスにたずねる。
「分かってるの? 午後から勝負なのよ」
「……! もちろん」
ラオニルとの勝負のことだ。
決戦の舞台『魔導競争』は、午後一発目。
全三日間開催される学園祭の内、初日の目玉イベントだ。
「それで、フィノは?」
「集中したいから修練場に行くってさ」
★
同時刻、修練場。
「……ふぅ」
フィノは杖を構え、精神を集中させる。
目を閉じて数秒。
タイミングを計り、魔力を込めた。
「はあッ!」
カッと杖が光り、水色の魔法陣が浮かび上がる。
杖から放たれたのは“大きな波”。
ドガアっと壁に直撃すると、辺りに音が響く。
まだ拙いが、“魔導士”にふさわしい立派な魔法だ。
「やった!」
ラオニルとの勝負が決まってから、約一か月。
シオスとレティアという師匠の元、フィノは修行を続けてきた。
その後に、確かな戦力になるまで成長したのだ。
──そんな時、扉がきいっと開く。
「ほう。中々のものじゃないか」
「……っ!」
すっと入ってきたのは、ラオニル。
その姿にフィノは体をビクっとさせる。
だが、一か月前ほど警戒はしていない。
“『魔導競争』までは手を出さない”。
そう宣言してからは、本当にちょっかいをかけてこなかったからだ。
「何の用ですか」
「落ち着けよ。ただの挨拶じゃないか」
「……」
手を横に広げながら、ラオニルは一歩ずつ近づいてくる。
武器は持たず、何かしようとする気配は無い。
フィノは警戒しつつも、抵抗はしなかった。
そうして、ラオニルは目の前までやってくる。
「俺も男だ。勝負には正々堂々と向き合うと決めてるんだよ」
「……っ」
「ましてやフィノちゃんが相手だ。ズルはしないさ」
そうして、ラオニルは目の前までやってくる。
「だから肩の力を抜け。な?」
「!」
フィノの肩にポンと手を置くと、ラオニルは踵を返した。
本当にただの挨拶だったようだ。
「それでは楽しみにしてるぞ」
「……あなたには」
「ん?」
ならばと、フィノは最後に宣言する。
この一か月の成果か、彼女は心身ともに成長していた。
「あなたには、負けない!」
「フッ、面白い」
★
「お待たせ、二人とも」
『魔導競争』直前、控室にフィノが姿を現す。
すでに来ていたシオスとレティアは即座に立ちあがった。
「フィノ! 最後の調整は?」
「うん。ばっちりだよ」
「良かった!」
フィノの魔法の調子も良いようだ。
昨日までにやれることはやった。
あとは、本番で結果を残すのみだ。
そんな中で、レティアは少し顔を引きつらせた。
「で、本当にやるのかしら?」
「もちろん!」
「し、仕方ないわね……」
今からやる事に気が進まなかったようだ。
だが、シオスに言われて仕方なく位置に着く。
三人は向かい合って並び、中央で手を差し伸べる。
「いくよ」
「きゅい!」
三人の手が重なり、ドランが上に乗る。
計四人の気持ちを一つにするべく、シオスは声を上げた。
「がんばるぞー!」
「「おー!」」
「きゅいー!」
円陣だ。
ちょっと恥ずかしいお年頃ではあるが、シオスはやりたかったようだ。
そうして、三人(と一匹)はステージへ上がる。
「「「わあああああああああああっ!」」」
「「「……!」」」
会場のボルテージはすでに最高潮。
闘技場全体が、歓声で揺れていた。
それと同時に、場内アナウンスが響き渡る。
『それでは本日のメインイベント! 一年生による魔導競争をはじめます!』
すると、向かい側からもパーティーがいくつか現れる。
その内の一つは、因縁の相手。
ラオニルのパーティーだ。
「勝たせてもらうよ」
「やってみろ。下民が」
こうして、ついに魔導競争が開幕する──。