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第14話 厄介な男

 「最近、しつこく付きまとってくる人がいて……」


 フィノが事情を話し始める。

 そんな時、修練場の扉がバンっと開いた。


「まさか、それって俺のことかい?」


 現れたのは、一人の男。

 その姿に、フィノは顔を引きつった。


「ラオニル、さん……!」


 どうやら話にあった人物のようだ。

 だが、顔をしかめたのはフィノだけではない。


 隣から口を開いたのは、ラティアだ。


「なるほど……どおりでね」

「ほう。これはローゼリッドのお嬢さん」


 すると、ラオニルの視線は上下にゆっくりと動く。

 まるでレティアの全身をなめまわすように。


「相変わらずお美しいことで」

「……そっちも相変わらずね」


 不気味な視線から隠すよう、レティアは少し体を抑える。

 二人は知り合いのようだ。

 それもそのはず、ラオニルはレティアと同格の(くらい)を持つ。


「厄介な男が出てきたわね」


 ラオニル・ドルベール。

 国内の(こう)(しゃく)()“ドルベール家”の次男だ。


 銀色に染まった(あか)()けた髪。

 それに劣らず、身に付けている物も高級に見える。

 容姿といい態度といい、良くも悪くも“貴族”だと簡単に判別できる様だ。


 そうして、ラオニルは嫌な笑みを浮かべた。


「さあフィノちゃん、今日こそデートに行こうじゃないか」

「……っ」

「どうした、まさか嫌がっているわけではあるまいな?」


 対して、フィノは顔をしかめる。

 明らかに困っている様子に、シオスが小さく告げ口をした。

 

「フィノ、嫌なら嫌って言っていいんだよ」

「そ、それは……」


 だが、フィノは素直に言えない。

 その事情を示すよう、ラオニルが再び口を開いた。


「そうだよなあ? フィノちゃん」

「!」

「お前のエルノ家は、うちに散々お世話になっているもんなあ?」

「……っ!」


 フィノは()(しゃく)家。

 さらに、目上のドルベール家ともそれなりの関わりがある。

 その上下関係を利用して、ラオニルはフィノに迫っていたのだ。


 すると、レティアが激しく(にら)む。


「立場を使うなんて、外道な!」

「何とでも言え。関わりの薄いローゼリッド家には関係ない話だ」

「あなたねえ……!」


 レティアは剣に手を付けようとする。

 しかし、ラオニルは余裕を保ったままだ。


「おいおい、ここで俺たちが戦ってもいいのか?」

「……!」

「授業外での戦闘。捉え方によっては、公爵家同士の抗争にも見えるが?」

「くっ……!」


 皮肉なことに、ラオニルの口だけは達者だ。

 貴族社会での戦い方を知っている。

 ラオニルはニヤリと口角を上げ、一歩ずつ迫り始めた。


「さあ、今日は逃がさないよ。フィノちゃん」

「……っ」

「早くこちらにおいで──」

「やめろ」


 だが、フィノに差し迫ったラオニルの手は、横から止められる。

 シオスとドランだ。


「これ以上、フィノに近づくな」

「きゅい」

「シオス、ドラン……!」


 シオスがラオニルの手首を掴み、ドランは前でパタパタと翼を振っている。

 言葉通り、“近づくな”と訴えるように。


 すると、ラオニルは初めて眉間にしわを寄せる。


「……なんだ、貴様」

「友達が困ってるんだ。見過ごしておけない」

「チッ、正義ぶった平民が!」


 まるで、すでに(・・・)恨みを持っていたように。


「貴様はまた(・・)俺の邪魔をするのか!」

「また?」

「ああ、そうだ!」


 頭に血が昇ったラオニル。

 その激しい怒りから、自ら告げる。


「貴様がいなければ、あの異常(イレギュラー)は俺が収めるはずだったのだ!」

「「「……!」」」


 異常(イレギュラー)とは、ダンジョンアタックの時のこと。

 上層にいるはずのない魔物が現れ、生徒達が襲われたのだ。

 それを、駆けつけたシオス達が解決した。


 しかし、これが人為的だったとすれば大問題だ。


「あれは君がやったのか!?」

「フッ、そうさ。貴様のような平民では決して手に入らぬ、あるデバイスを使ってなあ!」


 それにはフィノが口を開く。


「ま、まさか……!」

「ほう。フィノちゃん(お前)は勘づいたか」

「そんな、実用化していたの!?」


 フィノの家系(エルノ家)と、ラオニルの家系(ドルベール家)には関わりがある。

 そのため情報が回ってきたのだろう。


 フィノは目を開きながら、言葉にした。


「魔物を操る『洗脳(コントロール)デバイス』……!」

「「「……!」


 ラオニルはそれを使い、本来いないはずの魔物を上層に呼び寄せた。

 魔物を呼び寄せられるなら、追い払うこともできる。


 ラオニルがやろうとしたのは“自作自演”。

 自ら異常(イレギュラー)を起こし、駆けつけたところで魔物を追い払う。

 そうして、名誉と成績を手にしようとしたのだ。


 衝撃の事実に、シオスは声を上げた。


「そんなこと、許されないぞ!」

「何とでも言うがいい。どうせ簡単には暴かれん」

「なっ、どうして……!」

 

 それにはレティアが回答を持っている。

 レティアは悔しげに説明した。


「ドルベール家は、王都の護衛を(ぎゅう)()ってる……」

「!」

「こいつの言葉だけでは、証拠不十分になるのが目に見えてるわ」

「くっ……!」


 この背景から、ラオニルは自白したのだ。

 フィノがシオスを頼ったことへの嫉妬(しっと)もあるが、心のどこかでは不正がバレるはずないと考えている。


「理解したか、平民」

「……っ」

「世の中には理不尽が存在すんだよ。お前の身分じゃ何もできねえ」


 ラオニルは再び笑みを浮かべた。

 そのまま、今度こそとフィノに手を伸ばす。


「じゃあ話は終わりだ。フィノちゃんは俺がもらって──」

「それでも」

「あん?」


 しかし、シオスはラオニルを通さない。

 

「それでも、友達が困っているなら僕は助ける!」

「貴様……!」

「フィノには近づけさせない!」

「チッ、理解力の低い平民が!」


 すると、ラオニルの気が変わる。


「どうやら本当の低能みてえだな」

「……」

「だったら、分かりやすく大観衆の前で恥をかかせてやるよ!」


 フィノに迫るため、まずはシオスを黙らせようと考えた。

 それには絶好の機会が存在する。


「来月の文化祭に、『魔導競争』というイベントがあるだろう」


 『魔導競争』とは、一年生のみが参加できるイベント。

 シオスの前世で言えば、“障害物競走”だ。

 ただし、もちろんファンタジー仕様である。


「お前も出ろ。実力差をはっきり教えてやる」

「!」

「そこで俺が一位を獲れば、二度と歯向かうんじゃねえぞ」


 ラオニルは鋭い目付きで宣言した。

 だが、シオスも黙ってはいない。


「じゃあ僕が勝ったら、二度とフィノに近づくな」

「……! 俺に勝つだと? ハッハッハ、面白い冗談だ!」


 高笑いを上げるラオニル。

 よほど自信があるのだろう。


「いいだろう。その条件で、貴様を徹底的に潰す」

「望むところだ」

「ハッ、では本番で会おう。そこまでフィノちゃんに手出しはしない」


 ラオニルは背を向け、最後にニヤリと口角を上げた。


「その後でじっくりと楽しむからな」


 そうして、高笑いを続けながら去っていく。

 すると、フィノはぺたんと座り込んだ。


「ごめんなさい。私のせいでこんなことに」

「気にしないで」


 シオスは首を振ると、フィノに手を伸ばす。


「僕も許せなかったんだ。友達を傷つけようとするあいつを。関係ない人まで巻き込むあいつを」

「シ、シオス……!」


 フィノには優しく接する。

 しかし、その胸の奥には垣間見えていた。

 ふつふつと沸き上がる、初めての“怒り”という感情が。


「必ず勝つ。でも、そのためにはフィノの力も必要だ」

「え?」

「フィノも、ラオニル(あいつ)に言いたいことあるでしょ?」

「……!」


 『魔導競争』は、三人一組で参加する。

 それは事前にお知らせされていた。

 すると、当然のようにレティアも名乗りを上げる。


「ちょうどわたしも、あいつが気に入らなかったのよね」

「レティアさん……!」

「これで僕たちのメンバーは決定だ」

「うん……!」


 シオス、レティア、フィノ。

 この三人で、ラオニルのパーティーを倒す。

 そうと決まれば、フィノも立ち上がった。


「私も強くならなきゃ!」

「その意気だよ。僕たちも一緒に修行をするから!」

「うん、ありがとう……!」


 ラオニルが現れ、曇っていたフィノの表情。

 シオスの言葉で、すでに晴れ上がっていた。


「じゃあ早速再開だ!」

「ええ!」

「うん!」

「きゅい!」


 こうして、ラオニルとの勝負が決まったシオス達。

 新たな友達フィノを守るため、来月の『魔導競争』に向けて、修行を始めたのだった──。

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