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第1話 自由な体

 「走れる……僕、走れるんだ!」


 気持ち良い風が吹く草原を、僕は一心に駆ける。


 ただ走っているだけ。

 でも、僕にとっては特別なことだ。

 前世(・・)の体では、これすら許されなかったのだから。


「自由に体を動かすのが、こんなに楽しいなんて……!」


 ゴロンと横になり、少し疲れた体を休ませる。

 肌を()でる柔らかな風が、僕に生きている実感を与えてくれる。


 そう、僕は転生してきたんだ。

 前世で遊んでいた『アルカディア』というゲーム世界の中に。


 こうなったきっかけは、ほんの数十分前にさかのぼる──。



 


「──はっ!」


 目を覚まし、自室のベッドで体を起こす。


 ズキっとする頭を抑えると、()えわたる感覚がある。

 その瞬間、忘れていたものを思い出すように記憶を取り戻した。

 鮮明に(よみがえ)ったのは、前世の記憶だ。


「ぼ、僕は……」


 前世の最後の記憶は、苦しんでいるところだった。


 生まれつき体が弱く、(しょう)(がい)病院のベッドの上。

 両親にも色々あったらしく、最後の数年には顔も見せなくなった。


 そんな僕の生きる希望は、とあるゲームだった。

 お医者さんが買ってくれた『アルカディア』というVRRPGだ。

 

 現実でうまく体を動かせない僕には、夢のような世界だった。

 そこで自由に体を動かして、自由に冒険をして、僕はその世界を楽しんでいた。

 辛い現実を忘れるように。


「その『アルカディア』に……」


 そんな世界に僕は転生したらしい。

 正確には、転生していたことを今になって思い出した感じだ。

 その証拠に、この世界で生きてきた記憶も受け継いでいる。


「前世の最後と、同じぐらいの年齢だな」


 この世界の僕の名は、シオス。

 年齢は同じ十二歳。

 これまでの記憶を辿るに、何の役割を持たない“モブ”だ。


 ただし──


「「大丈夫かあ!?」」


 両親は親バカっぽい。 


 ドタドタっと音がしたと思えば、自室の扉が勢いよく開いた。

 そのままこちらに向かってくるのは、この世界の僕の両親。

 二人は勢いのままにダイブしてくる。


「「心配したんだぞ!?」」

「あ、あはは……」


 僕は昨晩から、高熱を出していたらしい。

 記憶が蘇ったのと何か関係があるのかな。

 いや、予測でしかないことを考えるのはよそう。


 それよりも、今はやることがある。


「そ、そろそろ離れてくれない? 僕はもう大丈夫だから」

「「嫌だ!」」

「もう……」


 溜息をつきながらも、僕の心はどこか温まる。

 前世の両親からは、こんな愛情を受けることはなかった。

 少し目頭が熱くなってしまうな。


 だけど、今はやっぱり衝動を抑えられない。


「ちょっと外に出たいんだ」

「どうしたんだ? 我が息子シオスよ」

「ただの散歩だって」

「むう、そういうことなら……」


 二人はようやく腕を離してくれる。

 その瞬間、僕はタッと駆け出した。


「こら、急ぐと危ないぞー!」

「大丈夫、大丈夫ー!」


 一刻も早く、自由になった体を動かしてみたくて──。





「……はあ、気持ち良いなあ」


 数十分前のことを思い返しながら、僕は草原に寝転がる。


 自由に動く体。

 縛られない生活。

 この世界には、僕の望む全てがある。

  

 でも、一つだけ心残りがあるとすれば──。


「相棒がいないことぐらいか」


 前世の僕は、時間さえあれば『アルカディア』の世界に潜っていた。

 中でも一番時間を使っていたのは、“相棒のドラゴン”と遊ぶことだった。


 『アルカディア』のコンセプトは、自由な世界。

 その言葉にふさわしく、完全オープンワールドで、何でもできると言って過言ではなかった。


 一応、学園編というメインシナリオは存在するけど、僕は一切手を付けていない。

 どうしても現実の学校のことが浮かんでしまったからだ。


 ゲーム開始時、僕は学園から真逆に遠ざかるよう進み、相棒を見つけた。

 それからというもの、ずっとあの子と過ごしていたんだ。


「まあ、それはさすがに望み過ぎ──って、待てよ!」


 ふとシオスの記憶を辿る。

 すると、一つ思い当たることがある。


「もしかして……!」


 僕はすぐさま起き上がり、とある場所へ向かった。






「これだ!」


 家の庭に戻り、とある物を持ち上げる。

 両手で抱えるサイズの“大きな卵”だ。


「たしか、僕が生まれた時に空から降ってきたんだっけ」


 両親はそう言っていた。

 その後、街の至る所で聞き回るも、何も情報は得られなかった。

 売ることも考えたそうだが、両親は「これも運命」と言って庭に置いている。


 でも、今ならなんとなく予想ができる。

 これはもしかすると──。


「……! 卵が割れる!?」


 なんて思考を巡らせていると、卵がカタカタっと揺れ動く。


「どうしたの、シオスちゃん!」

「事件か!?」


 僕の声を聞いたのか、両親も家から飛び出して来た。

 その間にも、卵の揺れは激しくなり、やがて光を帯び始める。

 まばゆく光る卵を前に、三人で目を閉じた。


「「「うわああっ!」」」


 少しして、ゆっくりと目を開く。

 

 すると、僕の両手に乗っていた。

 その見覚えのある魔物が。


「君は、まさか……!」

「きゅい!」


 前世で連れていた、“相棒のドラゴン”だ。


「ははっ、そうか! 本当に君なんだね!」

「きゅい~!」


 目に優しい黄緑色をした、僕の上半身ぐらいの体長。

 小さな羽でパタパタと浮かび、尻尾はぶんぶんと振っている。

 変わらぬその可愛い姿に、僕は思わず抱き着く。


「「ド、ドラゴンー!?」」


 だけど、後ろの両親はひっくり返る。

 小さいとは言えドラゴンだ、そうなる気持ちも分かる。


 でも、僕は意を決して向き直った。


「この子、飼っちゃダメかな……?」

「「……ッ!」」


 途端に、両親の顔がひきつる。


 この世界では、魔物を飼うという文化があまりない。

 いくら親バカとはいえ、いきなりは難しいかもしれない。


 ──なんて考えは、一瞬で消え去った。


「「いいよ!」」

「え、いいの!? 自分で言っておいてだけど……」


 両親は迷うことなく了承してくれる。

 嬉しいは嬉しいけど、さすがに戸惑ってしまう。

 すると、父がそっと僕の頭に手を乗せる。


「確かに多少は驚いた。けど父さんはな、見る目だけはあるつもりなんだ」

「え?」

「その子、シオスに懐いているんじゃないか?」

「……!」

 

 チラリと目を向けると、ドラゴンはすりすりとほっぺを寄せてくる。


「きゅい~っ」

「……っ!」


 前世から変わらない姿だ。

 もしかして、この子も記憶を引き継いでいるのか?

 そんなことは言えるはずもないが、父は僕たちの絆を見抜いているみたいだ。


「友達を連れてきて、断る親がどこにいる?」

「父さん……!」

「だから、この子も今日から家族の一員だ」

「うん!」

 

 やっぱり良い親だ。

 この世界では、両親にも恵まれた。


「よーし!」

 

 そうなれば、僕にも決心がつく。

 前世では出来なかったことがたくさんある。


 だから、この世界では──


「やりたいことを全部やるぞー!」

「きゅい~!」


 相棒と共に、この世界を満喫する!


 こうして、僕の新しい生活が幕を開けたのだった。


 だけど、この時の僕はまだ知らない。

 自由に生きているだけなのに、メインシナリオに巻き込まれることになるなんて──。

新作です!

続きの第2話までは12時過ぎに更新します!

気になれば、ぜひフォローお願いします!

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