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3:再会

その日は日曜日だった。すでに日は高い。


工商業地区と労働者用の住宅街を結ぶナラク橋は、

平日は仕事に向かう人々で、休みの日は商店へ食事や買い物に出かける家族連れでごったがえす。

頭の上を、沢山のおしゃべりが通り過ぎてゆく。

全ての人達が楽しそうに過ごしていた。僕一人を除いて。


僕は、シラフに戻った親父に連れられて、お昼に連れて行ってもらう所だった。

滅多に無いことだった。

いつもだったら大はしゃぎで駆け回るところなんだけど‥。


二人ともずっと黙っている。家からずっと。

僕は下を見て歩いていた。家からずっと。


その女の子は、両親(と思う)の間に立ち、反対側から歩いてきた。


親は二人とも、車輪のついた大きな鞄を引きずっている。

それぞれ空いてる手で女の子と手をつないでいた。

女の子ーー。

うきうきとした笑みを常に絶やさない。バラ色の頬。

僕は顔を上げずに、眼だけを動かして彼女を見た。


確かにあの女の子だ。

服も同じ。髪も同じ。顔も同じ! 。

間違いなく、昨日の夜ナラク橋から飛び降りたあの女の子だった。


でも。でも。どうして? 。

どうしてここに居るんだ??? ‥‥。


頭の中で、巨大な鐘ががんがんと打ち鳴らされていた。

何か、もの凄くおかしなことが起きている。

それは、絶対に放っておいてはいけない事な気がした。


女の子と両親はすれ違って、視界の隅に消えていった。

鐘の音がどんどん大きくなる。世界中で僕にしか聞こえない音。


僕は立ち止まり、振り返って親子を見た。

3人の姿に、何も変な所は感じなかった。

父親は、複雑な模様がふちに縫い込まれた膝下まである灰色のコート。

母親の方は、ゆったりとした白いスカートに深紅のジャケット。

背中が丸く空いていて、そこから黒いブラウスが見えている。


女の子も、近所の女の子達が普段着てる様な服じゃない。

腰から裾へ向かってふわっと広がるスカートは、昨夜見たような病人の様な青白さではなく、

太陽を受けてきらきらとオレンジの光を跳ね散らしていた。

僕には、どこか遠くへバカンスに出かける親子の姿にしか見えなかった。


あれはきっと、よそ行きの服だ。凄いお金持ちの。

‥ということは。

昨日見た女の子は、よそ行きの服を着ていたんだ。

僕は、橋の欄干を見た。女の子が飛び降りた場所は、確かあの辺ーー。

あの女の子は、お出かけ用の服を着て、そして‥行ってしまった。


いや、違う! 。


僕は強く首をふった。

それなら、今あそこにいるのは”誰”なんだ? 。

鐘の音。鐘の音。鐘の音ーーー。

‥よし! 、調べてやろう。


僕は親父を見た。

ぺちゃんこの帽子。薄っぺらい生地のくたびれたコート。裾が風になびいてーーーー。

橋の上をのんびりと歩いていく。僕が側にいない事に気付いてない。

げんこつはまだ飛んできそうもない。まだ、すぐには。


僕は親子の方へ向き直ると、走った。

すぐ目の前を巨大な尻が塞いでいた。僕はよけ損ねて肩がぶつかった。

重さのある紙袋がばさっと落ちる音。

飛んでくる女性の声。このくそがきとかなんとか。

僕は気にしてられなかった。


親子のすぐ後ろまで追いついた。

はぁ‥はぁ‥。

胸が凄くドキドキする。

別になんでもない事だったらどうしよう。もの凄くばかみたいな勘違いをしていたら‥。

鐘ーー! 、鐘ーー! 、鐘ーー! 。

つばを飲み込んだ。目を閉じてーーー。


「ねえっ」

女の子は気付かない。

「ねぇったら! 、そこの君!」

まず両親が気付いて、こちらを振り返った。

つないだ手が後ろに引かれて、女の子も立ち止まり、こちらを見た。

‥‥やっぱりそうだ! 。

昨夜の女の子だった。完全に! 。


膝の下からすーっと力が抜けて、ちゃんと立っているのが難しくなった。

‥生きていた! 。生きていたんだ! 。

よかった‥。本当によかった。


でも、頭の鐘は鳴り止まなかった。

何かが変なんだ。


でも、何かって、なんだ? 。


〜つづく〜

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