〜第一部〜 1:親父を迎えに[表紙&挿絵 x 4]
*近々、プロットを再構成、新シリーズとして再スタート予定です。
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家の近所にあるナラクという古い石橋は、川の上に架かっているらしい。
らしい‥、と言うのには訳がある。
橋の上から下を覗き込んでも、川なんて見えないからだ。
子供の頃の僕は、大人の背丈の半分しか世界を知らなかったから、いつも下を見て歩いていた。
それでよく、ナラク橋の欄干によじ登って下界を覗き見た。
ナラク橋は、狭い峡谷の間にかかっている。
労働者向けの集合住宅が軒を連ねる右側の岸と、工商業地区がある左側の岸が、
角度を増しながら落ち込んでいくと、もやっとした黒い線へ吸い込まれていく。
底は闇。それしか見えない。
いくらまっすぐに下を見下ろしても、川なんて全然見えなかった。
渓谷は狭すぎて、なかなか日の光が射さないし、
太陽が真上に来ても、なぜか真っ暗なままだった。
大地に切れ目を入れて、黒い綿を敷き詰めたよう。
音もしない。匂いもしない。
”そこに何があるのか誰も知らない”という、
背中がゾクゾクするような感覚ーー。
僕はそれが好きだった。
大人達はあそこに川が流れてると言うけれど、
本当は、誰も川が流れてる所を見た訳じゃない。
ただ昔から、あすこの下には川がながれてるんだと、
代々そう言い伝えられて来ただけなんだ。
そこに何があるのか誰も知らない‥。
僕はする事が無い時はいつも、
ナラク橋から黒い闇を眺めていた。
ところで僕は、奇妙なものを見たことがある。
6歳の時。
それは真夜中だった。
僕は毎晩、工商業地区の繁華街と家を往復していた。
工商業地区の中央にそびえる大きな工場を取り囲む分厚い壁の外側には、
飲み屋や小料理屋がずらっと並んでいた。
数えたことはないけど、たぶん、飲み屋だけで30軒以上はあったと思う。
僕の親父は仕事が終わると、その30軒のどれかに入って出てこなかった。
ひどい時は、その日の手当を全部飲んでしまう事もあった。
それを防ぐには、なるべく早く親父を見つけ出して連れ帰るしか無かった。
そして、その役をやらされるのは、いつも僕だった。
「あの宿六をとっとと連れておいで!」
母さんはいつも怒鳴りつける。まるで僕が悪いみたいに。
でも、親父も僕に見つかるのが嫌なものだから、毎日店を変えていた。
だからなかなか見つからない。
やっと見つけだしても、まず素直に帰ってきてくれる事はなかった。
その夜は20軒くらい回った。
タバコの煙、ガラガラしたわめき声。ヤニで文字盤が曇った古い時計。
空いたテーブル。皿の上の串焼きのくし。まだ肉が3切れ残ってる。
アハアハと誰かが馬鹿笑う声。洗い物ががちゃがちゃとぶつかる音。
親父は隅の席で独り、黙って飲んでいた。
いつもそう。
親父は凄く不機嫌だった。右の眼の上に、葉っぱみたいな形のアザが出来ている。
パーの手でぶたれた様な後だ。いつもはグーなのに。
あるいは女の人にチョッカイでも出したのかもしれない。
見つけるのが遅れてしまった日は、すっかり骨の髄までアルコールが入ってる。
良くてげんこつ。悪ければ店からケリ飛ばされる。
その日は両方。
読めない字で書かれたノレン。親父の背中。
ぴしゃりと乱暴に閉まった扉。まるで僕が悪いみたいに。
帰ってくれないのは、親父がそうしたいからだ。
それでいて、家に帰ると怒られるのは、いつも僕なんだ。
子供って生き物は、ほんと割に合わないや‥。
帰りの足取りも重くなる。
その日の晩ご飯は、おかゆと葉っぱを重ねた様な漬け物だった。
その頃は特に家が貧しく、晩ご飯のおかずは少なくなる一方だった。
‥皿の上のくし。まだ肉が三切れ残ってるーーー。
お腹がグウと鳴った。
店員が見てない時に、あの残った肉をそっと食べちゃったらどうなるんだろう‥。
本当は全部残さず食べてあってもおかしくないのだから、
残りを僕が‥(いや)、誰かが食べてしまっても、
べつに悪い事にはならないんじゃないだろうか? 。
そんな事を考えてるうちに、ナラク橋に差し掛かった
〜つづく〜
だいぶ前に書いたショート・ショートを下地に大幅にリライトした物です。
去年立ち上げたオリジナル創作&イラストのサイト向けに書き始めたのですが、
なかなか終わらなくて・・(汗)、モチベーション維持の為、ひとまず途中までを公開いたします。
ジャンルとしては、幻想小説とSFの中間くらいでしょうか・・。
とりあえずハッピーエンドを目指しています。(一応・・)
文量としては短編小説の範疇と思いますが、なにぶんまだ書き終わっていないので連載とさせて頂きます。
ここはおかしいだろ!、みたいなツッコミがありましたら、お暇なときにでも、ぜひぜひお願いしたいところであります。
医療に関する情報とか、必要に応じてウィキペディア等を資料に使わせて頂いてますが、何ぶん頭悪くて高度な設定構築が出来ません・・。orz
小説ってむずかしい。みんな高度な知識を駆使してて凄い・・。そんな気分です。(遠い目)
こんなへたれな私ですが、一生懸命書きますので、
ご縁あれば、ひとつお付き合いの程、よろしくお願いいたします。
というわけで、頑張ります!。(敬礼)
鳥瀬介 2010-3/4
*追記:2010-3/29
服の色と挿絵が合わない点と、
・・を‥に、?や!の後を一文字開ける常套作法にそって書かれていない点をご指摘頂きましたので、本文の該当部分を修正しました。
他にも何かおかしな所等ありましたら、教えていただけると本当にありがたいです。