1.妹が聖女になりたいって。ラッキー♪
「マリー!お前のようなみすぼらしい女など、王太子妃にふさわしくない!今ここで婚約を破棄し、お前の妹のサリーと婚約する!」
王宮で開かれた新年のパーティで、突然王太子のロバートが婚約破棄を宣言した。
傍らには問題児の妹、サリーがいた。
「喜んで”!」と、言いたいところだが一応確認する。
「私との婚約は、国王陛下が決めた事なのですが?」
私の言葉に、バカ王子が何故か得意げに胸を張って言う。
「もちろん父上も承知済みだ。この前『そんなに破棄したいなら、好きにするがいい。相手が承知したらな』と、仰った。お前のような聖女の地位だけが取り柄の、オンボロ女などこの俺にふさわしくない!大体何だ、その辛気臭いローブは。王宮のパーティにそんなものを着てくる奴があるか!同じ男爵家ならお前のようなみすぼらしい老け顔のブスより、妹のサリーの方がよっぽどふさわしい。彼女こそ俺の運命の相手、真実の愛だ!そういう訳で婚約破棄しろ、異論は許さん」
バカ王子に続いて、バカ妹も胸を張って言う。
「私知ってるのよ、その『聖女の指輪』をはめれば、誰でも聖女になれるんでしょう?聖女になって好き放題するのは私よ!」
バカ妹が私の指にはまっている『聖女の指輪』を、指さす。
確かに聖女にされてから、高位貴族や王族さえも私に何も言えなくなったが、それは私が聖女の役目を果たしていたからだ。サリーに果たせるとは到底思えないが、代わってくれるという大チャンスを逃すわけにはいかない。
「お前にとっては愛する男と権力を手放すのは辛いだろうが、仮にも聖女なら国と真実の愛の為、大人しく身を引いたらどうだ」
(何を言ってるんだか、この馬鹿は)
そう思ったので、堂々と言う。
「はぁ?何言ってんですか。誰がいつあなたみたいな、バカ王子を愛したっていうんですか?妄想も大概にして下さいよ。気持ち悪い」
「な、な、何だとぉ―――!!!!」
バカ王子が一瞬で茹でだこになる。
「お姉様、往生際が悪いわ。大人しく指輪を渡してちょうだい」
サリーが、手を差し出した。
「はいどうぞ」
その手の上に、外した指輪を乗せる。
「「え?」」
あっさり指輪を譲ったのが信じられないのか、2人揃って口を開けてポカンとする。
「どうしたの、聖女になりたいんでしょう?喜んで譲ってあげるわよ」
その言葉に実感が湧いてきたのか、疑いの目を向けてくる。
「…これ本当に『聖女の指輪』なの?偽物じゃないの?」
「正真正銘本物よ。どうしたの、聖女になりたいんでしょう?私は好きでなったわけじゃないし、サッサと聖女でも婚約者でもなったら?」
そこでようやく現実を把握したのか、2人揃って高笑いをする。
「フハハハハハ!どうやらお前も身の程は弁えているようだな。その潔さに免じて、先ほどの暴言は水に流してやろう」
「お姉様みたいな古雑巾でも、自分が聖女や王太子妃なんて分不相応だとわかっているようね」
妹は得意げに指輪を掲げると、すぐに自分の指にはめた。
「やったぞ、これからはサリーが聖女だ!」
「うっ、ううう…」
ロバートが宣言した直後、サリーが突然苦しみだした。
立っていられず、その場にしゃがみこむ。