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女子大生が同棲しながら愛してるゲームしてるだけ  作者: キノハタ
第二部 まよいの場合

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第二十話 まよいの場合、その後の頃

 泣いて、泣いて、泣き続けて。


 泣きつかれた果てに、まひるとゆっくり眼があった。


 「ぱららいずは……どうする? まよい」


 そう優しい声で聞かれたから、私はちょっとだけ目を細めて、考えるふり。でも、正直答えはとっくの前から決まっているような気がしてた。だから、ゆっくり首を横に振る。


 「戻んない」


 周囲で様子を見ていてみんなが少しどよめく。でもまひるはじっと私のことを、静かな瞳で見つめていた。


 「そっか。理由聞いてもいい?」


 何気なく、なんとなく。まるで、明日の予定を確認するみたいに、当たり前にやりとりを交わす。


 「うーん……まず、ケジメはつけないと。私が原因で一回解散まで行ってるんだから、何のお咎めもなしに復活なんて、都合のいいこと出来ないでしょ」


 隣で聞いていた文音さんが、大慌てで何か言おうとしたけれど、佑哉さんがそっと制してくれた。同じように、向かいにいたメンバーは、ゆうがそっと止めてくれる。


 「あと……あの三年間、私の音楽に対する評価は全部まひるありきだったから。一回ちゃんと出直さないと。悪口の書き込みなんてしてたやつの曲聞いてくれる人がいるかはわかんないけど、改めて私の力で一から始めないといけないから」


 本当は、じゃあこれで仲直り、何事もなかったように明日からぱららいず復活だ、なんて出来たらそれでよかったのだろうけど。


 でも今の私に、それはできない。それをしてしまえば、きっとまひるをいつかまた恨んでしまう。私自身がまだ自分を信じられていないなら、きっと何度やっても同じだろう。


 だから、少しずつそれを手に入れなきゃいけなくて、そのために、もう一度ゼロからやり直さないといけないんだ。


 「そか、まあ、まよいなら大丈夫でしょ」


 そう言って、あんたは軽く言ってくれる。ったくもう、これだから天才は、人の苦労を何だと思っているのやら。だけどどうしてか、そんなやり取りすらおかしくて、思わず二人でくすくすと笑ってしまう。


 「ま、私、優秀だからね。あんたなんてすぐ追いついてやる」


 憎まれ口をそう叩いてやると、にいっと酷く楽しそうに笑われてしまう。まあ、実際はこいつのレベルにちゃんと追いつくのに、一体どれだけの時間がかかるのか、まるでわからない。本当にたどり着けるのかすら怪しいけれど。


 でも、どうしてか、今はそこまで不安じゃない。


 「うん、楽しみに待ってる」


 そうやって二人でにやにやと笑い合ってから、ちょっと視線を横に向ける。


 まひるの隣、そっと寄り添うように、未だにオタグッズに身を包むあさひを見る。そうやってたら、あいつはまひる以上にどことなく涙で滲んだ顔だった。あーあ、別にあんたが仲直りしたわけじゃないのにね、どうしてそこまで泣いちゃえるのか。


 ま、そこまで誰かの気持ちになってちゃんと泣ける奴だから、まひるの隣にいれたんだろう。


 そこまでまひるの幸せのことを考えているから、『あいしてる』なんて、馬鹿げた言葉を大真面目に伝えることができるんだろう。


 なにせ、そもそも、あさひ視点で言えば、私はとんだお邪魔虫だったはずなんだし。


 昔からの付き合いで、未だに好意を抱いていて、あげくストーカー行為までしてたんだから。


 拒絶して、まひるの知らぬ間に突き放すことだってできたし、警察に突き出す機会もあったのに。


 でもそれをしたら、まひるがちゃんと笑えないから。


 まひるが幸せになれないから―――か。


 そんなことを本気で考えているから、こいつは、こうしてまひるの隣にいられるんだろうね。


 なるほど、と想った。


 これが愛か、なるほどねえ。


 たとえ私がこいつの恋路にとって邪魔者でも、まひるの幸せのためになるなら、それでも逃げない。


 今も昔も、ロックの中で、手垢が付くほど歌われてきたその想いが今、初めて、少しだけ理解できた気がした。そして、私自身がまだ、その場所に手が届いてないことも同時に理解してしまう。


 ふふって軽く笑いかけたら、あさひは怪訝そうに首を傾げる。


 すごいね、あんた。口にはしてやらないけれど。


 そうしていたら、まひるがうーんと身体を伸ばして、ゆっくりと立ち上がった。


 それから私の方を見て、にやっと笑う。


 「でもさ、まよい。再結成はしなくても、今日くらいは付き合ってくれてもいいんじゃない?」


 「……ふう、そーね、ま、迷惑料分くらいは付き合うわ」


 お互いににやっと笑ってから、まひるが伸ばした手を取った。


 「うっしゃ、ぱららいず一夜限りの復活ライブだぁ!」


 そんなまひるの言葉に、周りのみんながおおとどよめき立つ。やれやれと私も手を引かれるまま立ち上がって、ドラムを担当していた背の高い女に、軽く声をかける。


 「というわけで、ごめん、ちょっとドラム代わっていい? というか、あなた、結構悪くなかったけど、どこのドラムの人?」


 すると、ドラムの女はふうと軽く肩の力を抜きながら、そっと私にスティックを差し出してくる。そもそも私の曲は、私が演奏する前提で組んでるから、結構、難易度高いはずなんだけど、あれができるってことはそこそこ名の知れたドラマーだったかな。ライブハウスで見た覚えはないけど。


 「どうも。褒められるのはありがたいけど、私、ただの剣道部員でそいつの友達だから。生憎、あの曲しか弾けないし、むしろ交代してくれなきゃどうしようかと」


 そう言って渡されたスティックを受け取って、は? と思わず一瞬固まる。なんか今、とんでもないこと言わなかった? こいつ。思わずゆうの方を見ると、ゆうは何故か誇らしげに胸を張って、短い髪をふぁさぁとはためかせていた。


 「紹介しよう、彼女はよぞら……ガチで練習すると、割と何でもできる一般通過万能女王だよ。ちなみに練習期間は一週間」


 「ゆうがよぞらがドラムだよって言って連れてきた時は、割と正気を疑ったけどね」


 「まー、昔、学祭のヘルプで叩かされたことあったからね。それこみでもさすがにしんどかったけど」


 「あはは……よぞらちゃん、絶対今回MVPだよ」


 そうやってため息をついてる謎の女とまひるたちを唖然と見ながら、私は思わず文音さんと佑哉さんを振りかえる。二人はただ生易しい表情で、無言でうなずくだけだった。事実かよ、まじかよ。


 あの曲を? 私の演奏を? たった一週間で? 素人が? 完コピ?


 ふう……と長く息を吐く。落ち着け、さっきまでいい雰囲気だったんだ。ここで取り乱してたしまらない。


 いや、でも、これはさすがに。


 「完全に一週間で仕上げてきた時、正直引いたからね?」


 「……まあでも、ドラムって音の高低ないからギターとかよりは楽でしょ?」


 言っても許される気がしてくる。


 抑えた鬱憤に震えたまま、そのよぞらとかいうとんでも女をみて、しばらくしてからまひるの方に視線を向けた。結構身長高めの二人が、不思議そうに私のことを見下ろしてくる。


 「私、やっぱあんたらみたいな天才嫌い……」


 どいつもこいつも、人の努力を何だとおもってやがるんだ。


 「あれぇ?! さっき仲直りしたはずなのに、なんで私にまで流れ弾が?!」


 まひるが大慌てであわあわしてるけど、はあ~と深々ため息をついて、えっちらおっちらステージの上に登る。


 それに続くように、佑哉さんは苦笑いしながらいつも通り定位置について、文音さんもゲラゲラ笑いながらギターを下げ直す。


 はあ……と、疲れをこめてドラム台に座ると、まひるが慌てて追いかけるように、でも軽やかなステップでステージ上に登ってきた。


 あさひをはじめとした三人は、ステージ下で、体育ずわりして手を振ってる。


 まあ、何はともあれ、気を取り直して。


 ふうと軽く息を吐いて、少し辺りを見回した。


 懐かしい、本当に懐かしくて、もう二度と訪れることなんてないと想ってたそんな時間。


 一年半、ブランクが開いていたはずなのに、感覚は昨日のことのように、自然と身体を動かしていく。スネアもペダルもシンバルも、違わず私の動きに応えてくれる。


 ふっと、少し視界を上げて。


 佑哉さんと目が合うと、優しい表情で微笑んでくれた。


 文音さんと目が合うと、目一杯の笑顔でピースされた。


 まひると目が合うと、無言で二人で頷いた。


 さ、一夜限りの、ぱららいず復活ライブだ。


 観客はたった三人しかいないけど、まあ、これくらいがちょうどいいんでしょ。


 たくさんの観客なんていなくても、私たちはこれくらい小さな場所から、いつだって音楽をはじめてきたんだから。



 軽く拍を取ってから、スティックをそっと掲げる。



 掛け声と同時に、まひるの指が、天を指さすように上がった。



 「ねえ、まひる」



 「なに、まよい」



 「()()()()()よ―――あんたのこと」




 何気なく呟いた私の言葉に、振り返ったあいつは驚いたように目を見開いた。



 それから、少しだけ、どことなく泣き出しそうな顔で、ふっと笑みを浮かべて。





 「うん、私も」





 その言葉の先はお互い言わない。






 周囲の視線は唖然としていて、特にあさひの目がまんまるにひん剥かれてる。






 私の素直じゃない言葉だと、ここまでしか言えないけど。



 


 でも今は、それだけで充分だった。




 「じゃ、始めよっか」





 「うし!」





 そう、改めて気合を入れ直して、正面に向き直る。





 さあ、いつぶりかもわらない、なんの憂いもないライブの始まりだ。




 まひるの息がふっと全ての始まりの合図を告げる。




 「痺れていって—――」




 ああ、そんなお決まりのセリフも、一体いつ振りに聞いたんだっけ―――。
















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