第十八話 まひるの場合、ライブの頃
音楽に出会うまで、いや音楽に出会ってからも、別に友達がいなかったわけじゃない。
教室に行ったらそれなりに話して、宿題見せ合って、昼ご飯をとりとめもない話をしながら一緒に食べる。
それくらいの人は、固定じゃないけど、何人かはいた。
それくらい、普通じゃん? それくらいできれば充分じゃん?
別に特別な何かが出来なくたって、そうやって笑いあえていれば、それ以上望むのは贅沢なんだと想ってた。
でも、いつかのあの橋の下で唄っている人を見つけてから、私の心の中の何かはゆっくりと疼きだして。
本当は何かがしたい、本当はこの心の内を誰かに打ち明けてみたい。
言葉にすらならない何か、きっといつものお昼ご飯の途中に口に出せば、戸惑われてしまうような曖昧な想い。
ちょっとした不安、とりとめもない痛み、形容のしようもない行き詰まり。
ふと、伸ばした手が何処にも届かないような、まるで自分だけが何一つできないような無力感。
それを伝えられる人も、それを聞いてくれる人もいなかった。
あの時、まよいとゆうに連れられて、このライブハウスのステージに立つまでは。
あの時、歌を唄うまでは。
誰一人だっていなかった。
暗闇の中、ドアが開く音がする。
ふぅ――――と、吐いた息が弱く震えてるのをただ感じる。
できるかな、わからない。
伝わるかな、わからない。
何を言えばいいのかな、わからない。
わからないまま、唄え。
私の心を。
言葉にならない何かを。
それでも唄え。
いつか、私の心の内を初めて覗いてくれたあいつに声を届けるために。
怖がりながら、怯えながら。
ただ―――唄え。