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女子大生が同棲しながら愛してるゲームしてるだけ  作者: キノハタ
第一部 まひるの場合

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第五話 あさひの場合、初夏の頃

 今日のまひるちゃんはなんか変。


 おかえりって私が声をかけたら、なんでかちょっとびくってして。


 それからどことなく気まずそうに目を逸らして、頬も少し紅いような。


 そのうえ、私が何か他愛もないことを言うたびに、ちょっと身構えて返事もどことなく上の空のような感じがする。


 ……私何かしちゃったっけ? と思ってみるけれど、心当たりらしいこともほとんどない。


 んー……としばらく迷ったけれど、結局答えがさっぱりわからないので、そのまま聞いてみることにした。


 「ねえ、まひるちゃん。今日、なんかちょっと様子が変だよ」


 私がそう言うと、まひるちゃんはびくっとあからさまに肩を強張らせて、少し慌てたように視線を泳がせた。何にしても、とてもわかりやすい。そういう嘘が下手なとこ、あんまり女の子っぽくないんだよねまひるちゃん。


 「そうかな……そうかも」


 「うん、ちょっと変。なんか私、知らない間にやなことしてた?」


 一緒に住んでいる以上、喧嘩や行き違いがまったくないなんてこともない。些細なこと、例えばご飯の食べ方だったり、家事の分担だったり、物の置き方だったり、都度都度、穏やかに伝えるようにはしてるけど。ちょっとしたことはどうしてもある。


 そういうのかなとあたりをつけて聞いてみる。体調悪いとか、生理とかもあるけれど、周期的に多分、まひるちゃんは今、不安定な時期じゃないと想うし、何か別の理由な気はしてる。


 そんな私の言葉に、まひるちゃんは少し目線を逸らして、うーっと唸っていたけれどやがて諦めたように一息吐くとひらひらと両手を上げて降参のポーズをする。


「あさひはなんにもしてないよ、私が勝手に身構えてただけ……」


 まひるちゃんはそういうと少し疲れたように、肩の力をすとんと抜いた。ふむと私は続けて不思議に首を傾げる。


 「身構えてたの……? なにに……?」


 シンプルな私の疑問に、まひるちゃんはしばらく迷ったように口をもごもごさせていたけれど、今度は割とすぐまた諦めたように口を開いた。


 「……今日、帰りゆうと話してたんだけど」


 「うん」


 「あさひに、愛してるゲームでテンション上げ過ぎて、……変なこと吹き込んだって、謝られてさ」


 「ああ…………」


 「ゆうにとっての変なことって、相当あれでしょ……? だからちょっと警戒してた」


 「にゃるほど」


 それはまあ、警戒もやむなしと言ったところですね。なにせあのゆうちゃんなので。


 ただまひるちゃんの方は、口にしたことでちょっと踏ん切りがついたのか、身体の力を抜いてひらひらと手を上げていた。もうどうにでもしてくれーって言うみたいに。


 「煮るなり焼くなりお好きにどうぞ……」


 そんな姿に私は思わずくすって笑ってしまう。やれやれ、どんな嫌なことをしてしまったかと気が気じゃなかったけど、そんなことだったんだね。変な悩みとか、私の秘密の話じゃなくて良かった。


 どれかというと、それが一番怖かったんだよね。


 「そんな変なことしーまーせーん。今日のゆうちゃん徹夜明けっていってたから、あーこれは暴走してますなって思いながら聞いてたしね。確かに『スゴイ』ことは言ってたけど、私の羞恥心じゃ実行できないよ、あれは」


 私がそう言うと、まひるちゃんも上げていいた手を下ろしてくすって笑ってくれた。


 最初に漂っていた変な緊張もゆっくりと解けてく。


 「そりゃそだね。ごめん、ゆうがスゴイとか言ってたから、どんな18禁な方向に話がいったのかとか、ちょっとびびっちゃってた」


 「あはは、ていうかゆうちゃんの言う通りにしてたら、私は今頃、すっぽんぽんでまひるちゃんのベッドに潜り込んでる羽目になってるから……」


 「え、それ、やば」


 「だよね、やばい。ファール通り越してアウトだよ、一発退場ものですな」


 「まあ、うん。そう、そうだね……」


 なんて風に笑いながら私たちは食事を終える。ごちそうさまをして、今日のごはんはカレーだったから、シンクでお皿をしばらくつけておく。


 それから二人なんとはなしにリビングのクッションの周りで寝ころんだ。食べてすぐ寝ころぶのはよくないと言われていますが、緊張がとれたばかりなので致し方なし。


 「ていうか、あさひ。意外とそーいう話に耐性あるよね、ゆうとも普通に話せてるし」


 ごろんと平行になるように転がったまひるちゃんがこっちに顔を向けながら、何気ない調子でそう言ってくる。そんな言葉に、私は思わず苦笑い。


 「よぞらちゃんもそうだけど、たまにみんな私のこと小学生か何かだと思ってない……? 普通にそろそろ二十歳ですよ、成人向けコーナーにだって入れるんですよ」


 「いや、わかってはいるけど、なんかもっと照れたりするかと思っちゃうときがあるかな……」


 まひるちゃんはそういうと寝ころんだまま、不思議そうにふむと首を傾げた。なんだろう……雰囲気? とか呟いてる。……まあ、慣れっこではあるといいますか、言動が子どもっぽいのは重々承知してはいるのですが。


 もう一年、仲のいい友達にそう想われるのはなんだかなあという感じもする。まあ、積極的に言ってない私のせいでもあるんだけれど。


 「ぜーんぜん、だって、私もよぞらちゃん女子校出身だよ?」


 「あー、そういや言ってたね。お嬢様高校だったって……それと今の話にどういう関係が? むしろみんな初心っぽいけど」


 まだ不思議そうに首を傾げるよぞらちゃんに、私は指をピシッと立てて首をゆっくり横に振った。だめだよまひるちゃん、そんな夢抱いちゃ。


 「ちっちっち、全然違うよまひるちゃん。むしろ同性しかいないから、えぐい話も平気でするようになるんだから。だれかとだれかが保健室でしてたとか、体育の先生と隣のクラスの子が体育倉庫でとか、実際するときはこうした方がいいとか。際どいゴシップや噂話だらけだよ」


 「おおん……まあ、言われてみれば女子同士集まったらそうなるか……」


 まひるちゃんはそう言って、ちょっと乾いた笑いを浮かべてた。私はそれにふふんとなんでか鼻を鳴らす。


 「だから、私はまひるちゃんが想っているほど子どもではないのです。いわゆる耳年増というやつですね」


 「なるほど……誇っていいのそれ?」


 「んー……微妙かな」


 結局、経験らしい経験がないということに何も違いはないんだし。


 ただこうやって、好き勝手言いたいこと言ってるのが、少し楽しいのも事実なわけです。ちょっとふざけたこと言ったら、まひるちゃんが軽く突っ込んでくれて。聞きたいことは聞けて、言いたいことは言えて。


 私の家、そういうのがあまりできなかったから、ただそれだけの時間がちょっと楽しい。


 そうやって、しばらく女子校あるある喋っているうちにふと気づく。


 まひるちゃんは今、少し気が抜けたような感じで笑ってる。


 きっと私の言葉をそのまま信じて、すっかり油断してるんだろう。


 もし―――今。




 お昼の頃、ちょっと瞳孔が怪しいゆうちゃんに言われた言葉を思い出す。


 『段々とまひるに接触しても許してもらえる範囲が増えてきてるだろう?』


 『心理的に、身体的に、それだけ距離が近づいてきてると言うことだ。一緒に住んでいるんだから、ある意味自然な流れではある』


 『もしまひるに隙を見つけたら、次の段階に踏み込んでみればいい』


 ……次の段階って?


 『身体を近づけたり、顔を近づけたりというのは既に出来ているだろう?』


 『それなら次の段階は明確な『愛情表現』だよ』


 『ハグや身体を擦り合わせるのもいいけれど、今までも似たようなことはしてるから、少し刺激が足りないかもね』


 『そうなると、そうだね、唇以外の部分、頬や手の甲にキスをするとかかな』


 『もちろん、近づき方を間違えればファールだから、様子は見ないといけないけれど…………』


 『あさひ…………聞いているかい?』


 


 今なら。



 今なら出来る気がする。




 まひるちゃんは私の方を向いてない。




 今日、私が何かしてくるなんて想ってない。




 だってその可能性はさっき否定してしまったし。




 だから心に隙ができている。今ならきっと。





 どこにしよう。手の甲? ほっぺ? おでこ? 首筋とかもいいなあ……。





 それかいっそ。




 ()()()()()()()()()()()()





 さすがに君も気づくかな。私の想いに。





 こっそりとスマホの録音を起動する。




 ゆっくりと伸ばした私の指に、君は不思議そうに首を傾げた。




 するときは、ゆっくりと。




 ねちっこいくらいに、丁寧に。




 何が起こるか相手に理解させて、予測させて、期待させて、それを叶える。




 そんな行程を一つずつ、辿るように紡いでく。




 相手の身体と心の奥の奥まで、ゆっくりといくつもある扉を一つずつ開けていくように。





 そんな高校の頃、いやでも聞きかじることになった色に染まった知識を、辿りながら。






 ゆっくりと君の手に、私の手を、指をそっと重ねて、すっと絡めた。





 「あいしてる」





 そういうだけで、君の頬は赤くどうしようもなく染まってく。




 普通ならこれで終わりってくらいの照れ方だけれど。




 今は、まだ終わりたくないから。




 まだ続ける。




 撫でるように沿うように。




 君の指の柔らかさを、小さな傷を、火照るような湿度を感じながら。





 そっと優しくその腕を胸に抱いて。





 それから君の瞳を少し見る。




 動揺と羞恥と不可解にそまった君の眼を見て、指を見て。




 するよ? って理解させる。




 息が呑まれる音がした。




 君の音かな、それとも私のかな。




 心臓がバクバクなっている、息が乱れて仕方がない。




 胸が上下しているのが嫌でもわかる。




 それからすっと君の指先、私のより細くて長い綺麗な指に。




 そっと。




 触れるか触れないか。




 それすら分からないほど微かに。




 唇を。




 小さく重ねた。




 ほんの一瞬、一秒にも満たないそんな時間。




 普段決して、誰かが触れることのない場所。




 紅く敏感なその場所に、君の指が少し触れるそれだけで。




 背中からお腹の奥がぎゅんと熱く竦むような。




 そんな不思議な感覚を感じてた。




 それから二人で少し、赤くなった顔のままぼーっとしてた。




 体が震える、熱を持つ、心臓の早鐘が止まらない。




 この感覚のちゃんとした名前を。





 私はまだうまく言葉にできなかった。

















 ※



 あさひ『えと、その、今日の愛してるゲームの結果は……協議の末、引き分けということになりました』


 よぞら『あら、珍しい。両方照れなかったの?』


 まひる『……両方照れちゃったかな』


 ゆう『となるとルール上、お互いに一勝ずつだね』


 あさひ『そう、なります。うん』


 まひる『まあ、うんそうだね、ルール上』


 よぞら『何この変な雰囲気』


 ゆう『…………もしかして、半分くらい私のせいかな?』


 まひる『まあ、九割五分はゆうのせいかな』


 よぞら『比率高いなおい』


 あさひ『あはは、いや私の自己責任だと思い、ます……』




 

 ※




 愛してるゲームルールその6:一定時間内に決着がつかなかった場合は引き分け。両者ともに照れて引き分けになった場合は、両方に勝ちのカウントが入る。





 本日のリザルト

 あさひとまひるの勝ち(5勝目と3勝目。人はこれを自爆特攻と呼ぶ)

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