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偉い人と話すときにキレてはいけない

 ユウの目にも止まらぬ鮮烈な蹴りを受けたロックが尻を押さえながら呻く。

「あだだだだ!?俺の桃のような尻が赤くなってトマトになる、トマトに!」

「こっちの世界にもあるのか、桃とトマト……。つーか話をこれ以上おかしくすんじゃねえよ」

 ロックの言葉を聞き流しながらユウはため息を漏らす。

「貴様……」

 ロックはユウを睨むが、ユウはそれに対して満面の張り付いたような笑顔を向ける。

「そろそろ真面目にやれー?」

「……」

 そんなユウの対応を見たロックは小さくため息を漏らし、後頭部を掻く。それから親指の方をチコの方に向ける。

「……あっちのオークの小娘が大した魔導技師なんだが、目当てのもんを作るにはどうにもマナスライムが必要になりそうでな。採取をさせてもらいに来た」

 ロックの言葉にキヤノが小さく驚きの声をあげる。

「まあ、お兄様がそこまで認めてらっしゃるなんて……。とてもすごい方なのですね」

 一方でロックの言葉にチコも驚愕する。

「あいつが……素直に他者を褒めた!?」

「言ってることの内容はあまり違いが無いのに、リアクションの感情に差がありすぎるだろ」

 二人の反応を見比べたアイザインが真顔で感想を漏らす。

「いや、そう言うのもしかたないやろ……?ってなんや?」

 アイザインに抗議していたチコは不意に寒気を感じで身震いをする。それから周囲を見回す。

「ひっ!?」

 そしてチコは周囲のエルフ達から異様な敵意のようなものが籠った視線を向けられていることに気がつく。

「どうやら、ロック様に褒められたことに対して周囲のエルフが嫉妬しているようだな。

「なんでや!?ウチなんも悪く無い……と、いうかむしろ被害者なんやが!?」

 アネッサの予想にチコが驚きの声をあげる。しかし、そんな騒がしいやりとりを他所にキヤノ達は話を進める。

「と、いうことは目的は王宮の裏にある遺跡の探索ですね?そういうことでしたら……」

 キヤノが了承の言葉を口にしようとした時、ホゾマが声を張り上げて割って入る。

「なりません、女王様!」

 ホゾマの反応にキヤノが小さく肩をすくめる。

「あら、小兄様。どうしてですの?」

「マナスライムが生息する遺跡は我らエルフでも限られたものしか入ることが許されない禁域です!それを他所ものを連れて入るなどと……。ましてや兄様は一度森を追放したリーシェルト=アル=ハーディまで連れています!とてもではありませんが探索することを容認することは出来ません!」

「やっぱり面倒臭えこと言い出しやがったか……」

 ロックは小さく舌打ちする。

「あ、誤魔化せなかった。師匠が悪目立ちしてる間にスルーしてもらえるかと思ったのに」

 そう言ってリーシェルトは後頭部を掻く。

「案外雑な目論見してたのだな、なるほど」

 アネッサが腕を組んで頷く。

「それ感心してちゃダメなんじゃ無いかなあ」

 そんなアネッサのリアクションにティキが呆れた顔をする。その横ではエミリアも頷いている。

「師匠、私の目論見外れちゃったよ。ちゃんとして」

「なにぃ〜!?」

 ロックがリーシェルトに睨め付けるような目線を送る。それから上半身だけシェー!のようなポーズをとる。

「見くびるなよ、小娘!俺様の魅力があればお前のことなど有耶無耶にした挙句探索の許可だって取り付けてやらぁ!」

「お前、その売り言葉に買い言葉みたいな芸風でよく無事に生きてるな……」

 そんなユウの反応に構わずロックは頬を赤らめ、目を潤ませる。そして小首を傾げながら上目遣いでホゾマの顔を見る。

「すまない、ホゾマ……。俺はこの仲間達と共にマナスライムを探すことがどうしても必要なんだ……。だめかい……?」

 ぱっと見であれば美少女と見間違えそうな美少年が悲しみをこらえながらお願いをしている……そんな風にしか見えないロックの仕草にユウは真顔になる。

「今の今まであんな物言いしながら暴れ回った奴が急にこんなんなったからって騙される奴おらんやろ」

 しかし、ホゾマは呆れながらため息を漏らすユウを突き飛ばしながら無言でロックに近づく。それから両目から大量の涙を、そして鼻血を流しながらロックの両肩に手を乗せて叫ぶ。

「うおおおおおおおお!ごめんよぉぉぉぉぉ兄さぁぁぁぁん!信じてあげられなくてぇぇぇぇ!」

「嘘だろ!?」

 ホゾマのあまりの豹変ぶりにユウは絶句する。ユウは思わず彼の肩を掴む。

「おい、あんたが騙されてどうする!あんたの兄貴、今見えないところで『こいつちょろいな〜』って顔しながら鼻ほじってたぞ!」

 実際、ロックは既に頬の紅潮も涙も引っ込み、真顔で『尻振り尻振りふーりふり』などと言いながらユウの方に尻を向けながら謎のダンスを踊っている。ユウはその様子に殺意を覚えるが、裏で行われているやり取りに全く気づいていないホゾマは、ユウの胸倉を掴んで叫ぶ。

「兄さんが涙を流してお願いしてるのに信じてあげないなんて酷すぎる!」

 そのホゾマの反応にユウの内圧が一気に上限を超えて吹き上がる。気が付けばユウは足を振り上げていた。一瞬脳裏に、アルグラントの冒険者ギルドでモヒカンにチョップをかました時のことが脳裏を過る。しかし、時は既に遅かった。ユウがすさまじい速度で振り下ろした踵は勢いよくホゾマの脳天を捉える。

「正気で判断せんかい、このアホンダラ!」

 ユウがツッコミの叫びをあげた直後、すさまじい轟音と共に勢いよくホゾマが頭を残して床下に埋まる。


「……」


 突然の事態に理解が追い付かないエルフ達が、そして仲間達がぎこちなくユウを見る。それを受けてユウは苦笑を浮かべ、後頭部を掻く。


「お、俺……なにか、や……やっちゃいました?」


 直後、エルフの衛兵達が手にした武器を一斉にユウへと向けた。

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こんにちは。 >俺なんかやっちゃいました? 十人中二十人が「やってんねぇ!(アホを見る眼差し」と解答するレベルでやらかしてますねぇ!(食い気味) そりゃ衛兵の皆さんも「何しとんじゃワレぇ!」とばかり…
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