自分に妙になついてるやつが鬱陶しい時ってあるよね
「ん?どうした?」
ユウの戸惑いを察したロックが尋ねる。
「いや、お前が服を着てるなんて……。妹とはいえ女王様と話すというからにはTPO弁えようと思ったとかか?」
「何言ってんだお前?」
ロックが首を傾げる。
「何って、お前いつも裸でうろうろしてるから……」
「まったく察しが悪い……」
ユウが戸惑いながら答えると、ロックはため息を漏らしてから頭を振る。
「ああんっ!?」
そんなロックの仕草に腹が立ったユウが思わず声を上げる。
「どうどうどうどうユウさん!気持ちは分かりますが落ち着いてください!周りのエルフはこの人を敬愛してるんですよ?」
そんなユウをエミリアが必死に宥める。
(姉ちゃん……気持ちわかるんだ……)
(分かるのか)
(まあ分かるわな……)
その様子を見ていたティキやアネッサ、チコは三者三様の感想を抱く。しかし、そんな三人の胸中も露知らずロックは額に手を当て天を仰ぐといった自己陶酔的なポーズをとる。
「俺の裸体のような美しすぎるものを見過ぎてしまうと、キヤノの美に対する要求水準が跳ね上がってしまうからな……。しかし、統治者として凡俗なエルフ共や他種族とも接することが多い妹にとっては、それは決して良いことではない……。そこで仕方なく涙を呑んで、妹の前では己の魅力を隠すべく服を着ているのだ!」
「……相変わらずお前は何を言ってるんだ……」
ロックの説明を聞いたユウは項垂れてため息を漏らす。そして、そんなユウの態度にロックは眉を顰める。
「お前……!美しいものを家族への愛のためにあえて封印しなければならない……そんな俺の苦悩がどれほどのものか分からないのか……!」
「分かるかいっ!」
しかし、そんなユウとロックのやり取りを見てキヤノが可愛らしく笑う。
「ふふふ。お兄様ったら相変わらず私には過保護なんですから。お気遣いいただきありがとうございます」
そんなキヤノの反応にロックは首を左右に振る。
「何、可愛い妹のためだ」
キヤノは口元に手を当てて小さく笑うと、今度はユウ達の方を見て首を傾げる。
「それにしてもお兄様ったらこんなにたくさんのお友達を連れてくるなんて……。一体何百年ぶりの事でしょう。他種族の方々ばかりですし……」
「友達と言うか仕方なく面倒を見てやってる奴らだ」
そう言って胸を張るロックをユウやチコは目を細めてにらむ。さらにユウはロックの頭を掴んで締め上げる。
「あだだだだっ!貴様!やめろ!割れる!頭割れる!」
その様子を見たエルフの兵士達は唖然としている。
(あかん。ちょっとドン引きされてるか、これ?)
その反応を見たユウは自重し、ロックの頭を離す。
「おーいちちちち。ほんとグシャッと行くかと思ったぜ……」
ロックは頭を撫でさする。そんな様子を見ていたキヤノが玉のような笑い声を玉座の間に響かせる。
「まあ、本当に仲が良いんですのね」
そんな女王の反応を見たユウは感心する。
(なんかおおらかでめちゃくちゃ良い人だなあ。でも……)
そして、ユウはあらためてロックを目を細めて見る。
(この全裸に似ているせいでめちゃくちゃ複雑な気分になるな……)
「……」
他の面子も似たようなことを思ったのだろうか、何とも言えない面持ちでロックを見ている。
「お前ら今すげー失礼なこと考えてるな?」
自身に注がれる視線に気が付き、その視線に込められた感情を察したロックが文句を言う。
――そんなやり取りをしていると、玉座の間につながる廊下の方からけたたましい足音が鳴り響く。
「ん?」
その音に驚いたユウ達が振り返ると扉が勢いよく開く。そして、そこから年老いたエルフが一人現れる。
(……誰だ?この国の偉い人か?)
ユウが訝しんでいる間も老エルフは早足でユウ達の方へと歩み寄ってくる。それを見たロックは小さく舌打ちをする。
「チッ……面倒くせーのが現れやがった」
「……知り合い?」
ユウが尋ねると、ロックは虚空を見つめながら淡々と答える。
「いや?知らない人だから知らない」
「絶対嘘だろ」
そんなやり取りをしていると老エルフがすさまじい勢いでロックの方へと歩み寄ってくる。そして、すさまじい勢いでロックにしがみついて来る。
「兄さあぁぁぁぁぁん!!数百年ぶりに会ったというのにいくらなんでもそれはひど過ぎるぅぅぅっ!!」
「あ、てめぇ!ホゾマ!他人だって言ってんだから他人らしくしろコノヤロウ!」
ロックはホゾマと呼んだ老エルフを引きはがし、その顔面を踏む。
「あぁ!久しぶりのこの感じ!本当に兄さんだ……!」
感慨深げに涙を流すホゾマを、ユウ達は呆気にとられながら観察する。
――すっかり白くなった頭髪や髭、深いしわの刻まれた顔……。
「……」
それらを確認したユウは改めてキヤノの方を見る。
「?」
ユウの目線を感じたキヤノが首を傾げる。その仕草も相まって、ぱっと見は愛らしい少女のようである。そのことを確認したユウは、今度は改めてロックを見る。
「……」
どうしてもただの全裸の変態としか思えないが、一応ぱっと見は少年のようである。
「”美”をつけろバカヤロウ」
そんなロックの発言をスルーしつつ、すべての確認を済ませたユウの口から正直な感想が漏れる。
「嘘つけ」
「いや本当だって」
「いやいやいやいや、あり得ないだろ!どこから連れてきたおじいちゃんなの!返して来なさい!」
そんなやり取りをしていると、ホゾマがユウを睨む。
(……やべっ、今の会話聞こえてた上に何か気に食わなかった感じか?)
(もしかしたら老人扱いされるの嫌いな感じですかね?)
(……ええ。何ですか、その面倒くさい人……。見た目はどう見ても老人じゃん……)
ユウとルティシアがそんな予想をしている間に大股で近づいてきたホゾマが、そのままユウの胸倉を掴む。
「貴様ぁぁぁぁぁぁっ!兄さんが言ったことを信じないとは何事だ!兄さんが可哀想だろうがっ!!」
そんなホゾマの叫びに、ユウも思わず叫ぶ。
「またこっち方面で面倒くさい奴かよおぉぉぉぉぉ!!」




