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対面不利を技量で補えとか言われても限度がある

「うむ」

 こともなげに頷くアネッサにユウは驚く。

「ちょっとまて」

 そんな二人のやり取りにクルースが割って入る。

「あの時攻めてきた魔王軍の指揮官はなんか禍々しいフルプレートアーマーを纏っていたのだが……」

「あれの中身は私だ」

「まさか、中身が人間の女だったとは……」

 さらっとしたアネッサの返答にクルースは唖然とする。

「ちなみにその時の守備隊長がクルースだったけど、普通にアネッサにボコボコにされてたよ。サクラが駆けつけてくれたから助かったけど、そうじゃなかったらどうなってたろうね」

「うっ!」

 リーシェルトの横やりにクルースの表情が固まる。

「まあアネッサは人間でありながら実力本位の魔王軍において軍司令まで上り詰めたからな。魔族でも渡り合えるものはそうそういない。生半可な実力では時間稼ぎもままならんだろう」

 アイザインがそう言って腕を組んで頷く。

「それがこんな性癖拗らせ吐血スペランカー女になってしまうとは……」

 ユウの感想にアイザインは遠い目をする。

「戦いというものはいつも虚しい……」

 そんな二人を他所にリーシェルトが話を続ける。

「ちなみに当時の様子はこんな感じ」

 リーシェルトが呪文を唱えると、空中に過去の戦闘記録映像が投影される。

「だーっ!待て貴様っ!!」

 クルースが慌てて止めようとするが、リーシェルトはそっぽを向く。その間、映像上のクルースが魔術を放つが、アネッサの纏う鎧に悉くはじかれていた。そして、接近したアネッサに一刀の元に吹き飛ばされる。

「なんだお前。他種族見下してる割に普通に吐血女にボコボコにされてたのか。しかも単純に実力差がでかすぎてお前が一方的にボコられているだけだから、戦いの内容も普通につまらん」

 ロックが鼻をほじりながら論評する。その言葉を聞いてクルースの表情が絶望に染まる。

「これって魔術を防ぐ鎧?」

 ティキの問いにアネッサが頷く。

「ああ。サクラと対決した時に壊れてしまったんだがな」

「ふーん。じゃあ、チコちゃんの作ったゴーレムとロック様が戦ってもこうなるってこと?」

 その疑問にロックが鼻で笑う。

「はっ、俺がその程度の事態で醜態さらすかよ。魔術師をしていれば魔術が通じない相手と対峙することや、魔術が使えない状態で襲われるといった事態に出くわすことはいくらでもある。こいつが負けたのは他種族を見下して己の技量を過大評価し、そういった事態への備えを怠ったツケが回ってきたってだけだ」

 ロックの言葉の連撃にクルースが目に見えてダメージを受けていく。

(おおう、容赦な……)

 ユウが感心していると、クルースが滝のような涙を流しながら叫ぶ。

「うおおおおおおおおっ!申し訳ありませんでした!私の不甲斐なさ故に、エルフの名誉を傷つけてしまいました!かくなる上は……ぐはっ!?」

 そんなクルースの頭にロックが踵を落とす。

「ダアホ。俺からすればどの種族も等しく雑魚だっつーの。まあその雑魚の代表面もお前ごときがするのは1000年早いわ」

「うぅ……」

 泣き崩れるクルースの肩にそっと手を当てる。

「四六時中、俺を崇拝して己の小ささを認識し、鍛錬し続けろ……。そうすればお前はきっと今より強くなれる……」

 その言葉にクルースは涙を流しながら顔を上げる。

「はい……!」


「良いこと言ってる風でただの厚かましい洗脳だよな」

(そんなに崇拝しまくっていたら鍛えるどころではないのでは?)

 そんな二人のやり取りを見ていたユウとルティシアが思わず正直な感想を漏らす。

 

 一方、先ほどまでは入り口の横に立っていた兵士達が、いつのまにかロック達に背後から声をかけていた。

「あの……すみません。ここでいつまで会話してるんでしょうか?できれば早く中に入っていただきたいのですが……」


「……すみません。このアホ共はとりあえず、すぐにこの場から撤収させますんで……」

 とりあえずユウは門番に頭を下げる。背後でロックが何やら抗議の声をあげようとしたが、即座にフロントチョークで黙らせ、そして引き摺りながらエルフの王宮の中へと入っていくのだった。


 ――それから程なくして、エルフの王宮内の玉座の間……。その扉が開かれ、一人のエルフが入ってくる。

「女王様!ロック様がいらっしゃいました!また複数の連れの者がおります!」

 その報告を聞いた女王キヤノは静かに頷く。

「分かりました。その連れの方達も一緒で構いません。こちらへお通ししてください」

 そう返事をした直後、扉の向こう側が何やら騒がしくなる。

「困りますロック様!まだ女王様からお目通の許可が……!」

「はーっはっはっ!うるせー!しらねー!だまれー!うんこー!」

 直後、指を鳴らす音が鳴り響く。さらに続けて暴風が吹き荒れるような音と、エルフ達のものと思われる悲鳴がキヤノの耳まで駆け抜ける。

 そして玉座の間に続く廊下に一瞬静寂が訪れた後、複数人のものと思われる足音が近づいてくる。そしてその先頭に立ち、真っ先に玉座の間に入ってきたのは……

「久しぶりだな、可愛い愛しき全世界一美しいベリーキュートな妹よ!」

「ロックお兄様!」

 右手を上げ、テンション高く玉座の間に入ってきたロックにキヤノは目を輝かせる。

「こいつ……実家だからってマジでめちゃくちゃやりやがったな……」

 その後ろでユウは額を抑えてため息を漏らす。ロックは先ほど、玉座の間に入ろうとする彼を止めようとしエルフ達を風の魔法で全員吹き飛ばしていた。

(可哀想に……。まともそうなエルフだったけど、そういう奴はこいつの餌食になるんだな……)

(人の事言える立場です?)

(うぐっ!)

 ルティシアに痛いところを突かれてユウは言葉に詰まる。

(……!?ユウさん!ユウさん!あれ見てください!あれ!ロックさんを!)

 しかし、何かに気がついたルティシアは緊急事態と言わんばかりにユウに必死に声をかけてくる。

(……なんです?あの全裸がどうかしたんです?)

 ユウは改めてロックをマジマジと観察する。背後からロックを見てみると、神々しい光沢を放つ薄手のローブを揺らしながら女王へと近づいている。

(……)

 あまりにも自然な違和感にユウは首を振り、目を擦り、改めてロックを凝視する。そして、思ったままの言葉を口から漏らす。

「服を……着ているだと……!?」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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