敵の倒し方ってお約束があるよね
エクスブレイザーは一度、身を深く沈める。
(行くぞ!)
ユウが気合を込めて叫ぶと同時、エクスブレイザーは大地を滑ってシルフィード・ドゥーマへの接近を試みる。シルフィード・ドゥーマはそんなエクスブレイザーに対し、再び風の刃を放つ。
(なんの!)
エクスブレイザーは敵の攻撃を、身をかがめてかわす。
「ユウ、油断するな!」
敵の攻撃を回避した直後のユウに、アネッサは警戒を促す。直後、シルフィード・ドゥーマから大量の風の刃が放たれる。
(了解!)
エクスブレイザーは跳びはね、着地後に急速ターンし、そして再び跳躍して大量の風の刃をかわしていく。
(今だ、ユウ!)
エクスの声に応じるように、エクスブレイザーは腰の二刀を引き抜き、そしてシルフィード・ドゥーマに斬りかかる。
(……ん?)
しかし、敵の身体を手にした刃が捉えた……と思った瞬間、あまりの違和感に疑問の声が反射的に漏れる。
(手応えが……ない?)
そのユウの疑問の答え合わせかのように、エクスブレイザーの刃は敵の身体をすり抜け、そしてそのままエクスブレイザーの身体も敵の身体を突き抜けていく。
(うわわわわわっ!?)
思わぬ事態につんのめってバランスを崩したエクスブレイザーは、減速することが出来ずにそのまま突き進んでしまう。そしてユウは、そんな事態に思わず悲鳴をあげる。
「ユウ!前!前!!」
混乱するユウにアネッサが注意を促す。
(……前?)
ユウはその声に落ち着きを取り戻し、改めて体勢を直しつつ視線を上げると、眼前に巨大な切り立った崖が迫っていた。
(のわあぁぁぁぁぁぁっ!?)
すさまじい轟音を鳴り響かせ、大地を揺らしながらエクスブレイザーが崖に衝突する。
「……なーにやってんだ、あいつら」
そんなエクスブレイザーの様子をロックはあきれた様子で眺める。
(いててててて……)
エクスブレイザーは崖にめり込んだ自身の体を引き剥がすと、首を振る。
(ユウ。シルフィード・ドゥーマには実体がない。普通の物理攻撃は通用しない)
痛みにぼやくユウへ、エクスが忠告する。
(……それ、もうちょい早く言って欲しかったんですが……)
(すまない)
ユウがぼやくとエクスが素直に謝罪する。
(しかしじゃあ、一体どうしたら……)
ユウが途方に暮れたその瞬間、エクスブレイザーの足元の空気が渦を巻き始める。
(まずいっ!)
エクスブレイザーは咄嗟に勢いよく飛び上がり、離れた場所へと着地する。直後、エクスブレイザーがいた場所に巨大な竜巻が発生する。
(くそっ、考える時間くらい寄こせっつーに……)
ユウは忌々し気にシルフィード・ドゥーマを眺めながら吐き捨てる。
(まあ、ああいう敵にやることって相場決まってるじゃないですか)
そんなユウの内心を知ってか知らずか、ルティシアが呑気に言う。そんなルティシアの能天気さと裏腹に、シルフィード・ドゥーマが多様な攻撃を次々と仕掛けてくる。最初に放った風の刃から始まり、竜巻や突風を次々とエクスブレイザーに向かって放つ。エクスブレイザーは地を滑る高速機動でシルフィード・ドゥーマの周囲を回りながらそれらの攻撃を回避していく。
(やること……)
そして、回避をしながらもユウは敵への対応策を思案する。
「ふむ。例えばエクストリームバーストだな」
(真面目に言ってます?)
自分の欲望に忠実な発言を、状況を無視して言い出したのかと疑ったユウは、少し声を低くしてアネッサに尋ねる。
「?真面目に言ってるぞ。いいか、ユウ。ああいう物理攻撃を受け付けない実体の無い敵には魔法や生命エネルギーを用いた攻撃が有効だ。我々で言うとわかりやすい生命エネルギーを使った技と言えば……この間放ったアレになる。まあ、もっとも前回のように全エネルギーを勢いよく開放するような真似をしたら、君が先ほど言った通り大惨事が起きるが」
(……)
予想以上に真っ当な答えが返ってきたことにユウは拍子抜けする。
「……ユウ?」
何も返事をしないユウに違和感を感じたアネッサが、首を傾げて尋ねる。
(いや、すみませんアネッサさん……。自分、アネッサさんが自爆したいから適当な理屈をそれっぽくでっちあげたのかと……)
「……」
ユウの回答に、アネッサが真顔のまま若干フリーズする。
(……アネッサさん?)
ユウが尋ねるとアネッサは目を瞑り、腕を組み一人頷く。
「……なるほど。次から自爆技をしたければ適当に理屈をでっち上げればよいのか」
(……)
予期せぬアネッサの回答にユウは思わず黙り込む。
(ユウさん……。これ、いらんこと教え込んじゃったんじゃないですかね……)
(ですよねぇ……)
ユウは思わずため息を漏らす。
「まあ、大事なことは倒すべき敵を倒すことだ。優先順位は間違えんよ」
アネッサは苦笑する。
(ならいいですけど……)
ユウの不安の声を他所に、エクスが眼前の敵への対応策について方針を示す。
(なんにせよ、あの敵を倒すのであれば私達であれば光線技などを使うのが有効と言うことだ)
(ですね……)
ひたすら敵の攻撃を回避し続けながらそんなやり取りをしていると、ユウは異変に気が付く。胸部についたクリスタルが赤く明滅し始めたのだ。
(……ずっとグダグダこんなやり取りをしていたら活動限界手前まで来ちゃったってこと……?)
認識した現状にユウは思わず愕然とする。
(そういうことだ。ユウ、時間が無い。一気に勝負を決めてしまおう)
だが、そんなユウの気持ちを知ってか知らずか、エクスはあくまで冷静に次のアクションを提案する。
「……あいつらも大概アホじゃねえかな」
そんな一同のやり取りを聞いていたロックは、呆れ顔で後頭部を掻いた。
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