TPOは弁えろ
「な、なんやぁ!?」
突然の事態に、チコが悲鳴をあげる。
(この気配は……!)
舞い上がる土煙の中、ユウは覚えのある肌の粟立つような感覚を覚える。
(ああ、間違いない。どうやらこの地にもドゥーマ細胞に汚染された何かが潜伏していたらしい。気をつけろ、ユウ)
エクスもユウに同意し、警戒を促す。
「なるほど、こいつがお前らのお目当てのもんってワケか」
ロックがいつになく真剣な眼差しで土煙の先を見つめる。
「……こいつは確かに面倒な代物のようだな」
ロックがそう呟いていると、土煙が巻き起こっている地点の上空で黒雲が渦を巻き、その下に巨大な竜巻が現れる。
「これ……魔法?」
「なんだ、この膨大なマナは……」
リーシェルトとアイザインがその竜巻を目と魔力探知により観察し、正直な感想を漏らす。その時、アイザインのいう膨大なマナがさらに膨れ上がるのを感じ、ロックが叫ぶ。
「……!まずい」
直後、ロックは何やら呪文を詠唱し始める。それと同時に、黒雲の下の竜巻が一気に拡大する。竜巻は周辺の木々を吹き飛ばし、砂塵を巻き上げながら森を飲み込んでいく。
「お前達、動くなよ!!」
ロックがそう叫ぶと同時に手を合わせる。直後、ユウ達の周りに光の防壁が現れ、荒れ狂う風を遮断する。
「これって……」
そう呟くと、ティキは張り巡らされた防壁を見まわした後にロックを見る。その視線に気が付いたロックが強気に笑う。
「おう、全員無事か?」
その言葉に結界内に居た者達が一様に頷く。
「はい……。しかしロック様、この暴風は一体……」
突然の事態に困惑する三つ編みエルフがロックに尋ねる。
「さあな。ただまあ、何が起きているかはこの後すぐ嫌でも分かるだろ」
ロックがそう言うと同時、一度竜巻が収まり視界が晴れる。
「あれは……」
その先で目にしたものに、エミリアが唖然とする。
「巨大な鳥……?」
「違う。ただの鳥じゃない」
アネッサが口にした疑問に、リーシェルトが首を左右に振る。
アネッサが言うように、そこにいたのは巨大な鳥だった。しかし全身は透き通っており、実体があるようには感じられない。
「あれは風の精霊」
リーシェルトの言葉にユウは合点する。
(なるほど、バカでかいただの鳥ってわけじゃないとは思ったけど……)
そんなことを考えるユウにルティシアが警戒を促す。
(ユウさん、気を付けてください。分かっているとは思いますが……)
(はい)
ユウは同意した後、改めて風の精霊を観察する。透明な精霊の身体に、なにやら赤黒い血管のようなモノが大量に走っている。
(……あれ、ドゥーマ細胞……ですよね?)
(ああ)
(はい)
ユウの問いに、エクスとルティシアが応える。
(どうやらあの精霊は実体を持たないタイプのようだが、それに対して汚染が出来ている……。どうやら奴もこの世界に順応してきているということか……)
エクスの言葉にユウは頭を振る。
(あんまりちんたらやっている猶予は無い……ということですか)
(そういうことのようだな。だが、まずは目の前の問題への対処からだ。ユウ、あのドゥーマに汚染された精霊を倒そう)
(分かりました。そうと決まれば……)
「ユウ、アネッサ」
ユウがエクス達とそんなやり取りをしていると、ロックが不意にユウとアネッサに声をかける。いつになく真剣な声色でロックから呼ばれた二人は何事かと思い、視線を向ける。二人の意識が自身に向いたことを確認してから、ロックは小声で二人に話しかける。
「あれをどうにかするんだろう?うまく誤魔化しておいてやるから、お前らは行け」
予想外なロックの言葉に、ユウとアネッサは思わず顔を見合わせる。そんな二人のリアクションにロックは苦笑する。
「いやまあ、お前らがそういうリアクションになるのは分かるんだがな。流石にアレ相手にふざけている余裕はなさそうだ」
「……なんだかんだでそこらへんの分別はちゃんとあるのか」
ユウは間の抜けた顔をしながら後頭部を軽く掻く。
「失礼な奴だな」
ロックが苦笑する。
「ユウ。釈然としない気持ちは分からなくもないが、今はロック様の言葉に甘えよう。正体は隠さないといけないのだろう?」
「分かりました」
ユウが素直にアネッサの言葉を受け入れたことを確認したロックは頷くと、二人の肩に手を置いた後に三つ編みエルフの方に声をかける。
「おい。あのデカブツは俺とこいつらでどうにかする。お前らはリーシェルトと協力して一度この場から離脱しろ」
「はいぃぃぃぃ!分かりました!」
三つ編みエルフとその配下達が、興奮した様子で威勢よく返事をする。
「さあ行くぞ、カス人間とゴミ魔族ども!俺達が直々に離脱させてやるからしっかりついて来い!」
その横でロックはいつの間にか、そしてどこから取り出したのか杖を手にしている。
「人間や魔族を下に見てはいるけど、露骨にテンション上がりまくってんなこいつ……」
ユウは三つ編みエルフのテンションに戸惑いを覚える。
「それだけロック様に敬服している……ということだろう」
アネッサの言葉に、ユウは思わずロックをまじまじと見る。
(こんなトンチキな全裸エルフにねぇ……)
ユウが失礼なことを考えていることも構わず、ロックが杖で空中に魔法陣を描きながら三つ編みエルフに指示を出す。
「今から俺があの鳥に一発ブチかます。それと同時にお前は移動魔法使ってここにいる人間と魔族達を離脱させろ」
「分かりました」
三つ編みエルフの返事を確認したロックは頷くと、呪文を詠唱し始める。そして、杖を精霊へと向け、叫ぶ。
「いけっ!」
それと同時に魔法陣から巨大な炎が迸る。それを見た三つ編みエルフやリーシェルト達もまた呪文を詠唱する。程なくして、ティキ達とエルフ達はまとめて移動魔法で離れた場所へと飛んでいく。
「……よし、俺達も!」
それを見届けたユウは懐からエクストラスターを取り出す。そして、その横ではアネッサは自身の剣を地面に突き立てた。
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