荷物は真心を持って運べ
そんな打ち合わせをしてから1週間後、ナルヨー行きの面々はアンチルイーワの広場に集まっていた。広場にはチコの製造した試作ゴーレムが寝そべっている。
「よし、全員揃ったか?」
ロックは集まった面々を見回しながら尋ねる。
「いない奴は手を上げろー。上げたらいなかったことにする。因果的に」
「本当にやれかねないから怖いんだが……」
先日のロックの魔術による次元干渉などを目の当たりにしていたユウは遠い目をする。
「いや、流石にそこまでは無理だな」
「じゃあなんで言った!?」
「気分」
朝っぱらからロックに振り回されて思わずため息を漏らすユウを労るように、アネッサが肩に手を置く。そんなユウに構うことなくロックは話を続ける。
「とりあえず全員揃ってるみたいだな。そんじゃあ行くか。お前ら、ゴーレムの上に乗ってしっかり捕まれー」
ロックの言葉に従い、一同はゴーレムの上にのり、そのまま装甲の隙間などに指をかけて捕まる。そんななかアイザインは首を傾げながらロックに尋ねる。
「しかし行くってどうやって?このゴーレムは動かないだろう?」
「ああ?お前俺を誰だと思ってるんだ?こうするに決まってるだろ」
ロックは人の悪そうな笑みを浮かべると指を鳴らす。直後、ゴーレムが光のようなものに包まれる。
「へ?」
「なんや!?」
異変に気がついたティキやチコが驚きの声を上げる。
「まさか……」
これから何が起こるのかを察したエミリアが表情を強張らせる。
「そう、そのまさか」
ロックがその疑問に答えた直後、ゴーレムは凄まじい勢いで空へと飛び上がる。
「うおおおおおおお!?」
突然の事態にさしものアネッサも悲鳴を上げる。直後、高高度でゴーレムの飛翔の勢いが一度止まる。
「と、止まった……?」
そのことに気がついたユウがおっかなびっくり言葉を漏らす。ここまでの皆の一連の反応を見てロックは満足そうに頷く。
「よーし!ここからが本番だ!それじゃあさっさと現地行くぞー」
ロックがそう言うのと同時、ゴーレムは徐々に落下を始める。そのことに気がついた一同の表情が強張る。
「ユウ兄ちゃん……も、もしかしてこれって……」
「ま、まさかとは思うんやが……」
「これってここから……」
「なんと言うことでしょう……」
ティキ達の反応を見たアネッサが全てを悟ったような表情で目を閉じる。
「そう言うことだろうな……」
直後、劇的に速度をあげてゴーレムが落下し始める。
「てめええええええええ!後で殴らせろおおおおおおおおおお!」
落下するゴーレムにしがみつきながらユウは腹の底からの怒声をロックにぶつける。
(おお、珍しくユウさんがガチでキレてる……)
(ドラゴンドゥーマに噛まれた時以来だな)
ルティシアとエクスはユウ達とは対照的にのんびりとしたやり取りをする。
「うおおおおおおおおおお!そんな冷静に観察して正直な所感述べてんじゃねえええええええ!!」
ユウは二人に半狂乱になりながら抗議する。
「はっはっはっはっはっはっはっ!」
そんな皆の様子を眺めながらロックは笑い声を上げる。
「はやーい」
そしてその横でリーシェルトもまた、呑気な声を上げる。
「なんでそんな余裕そうなんだ!?」
リーシェルトがどことなく楽しそうに見えたアネッサは、思わず驚きの目線を送る。しかし、リーシェルトが回答する前にロックが声を上げる。
「ここから揺れるぞー。しっかり捕まれー」
直後、何かが割れるような音があたりに鳴り響く。それと同時にゴーレムが何かにぶつかったような衝撃を受け、そこからロックの宣言通りに盛大に揺れ始める。
「うわああああああっ!?」
「ぎょえええええええっ!?」
「ぬおおおおおおおおおっ!?」
「神よ……!」
新たに加わった揺れが、落下の恐怖を増大させる。それにティキ達が思わず悲鳴を上げる。
「おいおい、この程度でビビり過ぎだろ!だーっはっはっはっ!」
「お前マジで後で覚えてろよぉぉぉぉぉぉ!!」
そんな同行者達の様子を見て高笑いするロックを、必死の形相で睨みつけながらユウは悪態をつく。
「ほ、本当にこの人に運んでもらって良かったのか……?」
仲間達の狂乱ぶりにアネッサは思わず小声で漏らす。
ユウ達の恐怖、焦り、猜疑、怒り……そういった感情を乗せてゴーレムは地へと向けて落ちていく。
そしてそのまま……すさまじい轟音が鳴り響く。さらに激しい衝撃がユウ達を襲い、身体が勢いよく跳ね上がる。
「うわあああああああああ!?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「おわあっ!?」
「きゃあああああああ!?」
どうやらゴーレムが地面に激突し、その時の衝撃でユウ達は宙に吹き飛ばされたらしい。
「まずい!」
宙に放り出されて戸惑ったユウは、仲間たちの悲鳴に瞬時に我に返る。そして、ティキやエミリア達を助けようと手を伸ばそうとしたその時……ユウ達の身体が光に包まれ、空中で一度静止する。それからゆっくりと地面に向かって降り始める。
「……これは……?」
アネッサが疑問の声を上げる。
「物体移動の魔術。師匠がゆっくりみんなを下ろしてる」
「なるほど」
アネッサが納得していると、皆が地面に降ろされる。そのすぐ横ではチコのゴーレムが寝転がっている。
「よし、無事到着だな」
ロックが腰に手を当てて胸を張る。
「どこが無事じゃああああああああああああっ!?」
そんな言葉に誰が反応するよりも早く、ユウはブチギレながらロックにアームロックを極める。
「があああああ」
ロックが痛みに悲鳴をあげ、ブチ切れているユウを見て冷静になったからだろうか。アネッサ達は互いに顔を見合わせる。そしてそれからため息を漏らした。
そんな一同を他所にアネッサはしみじみ漏らす。
(どっかで見たことあるようなアームロックの構図ですねぇ)
昼飯時は、まだ遠い。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
皆様の応援が執筆の励みになります。
もしよろしければブックマークや評価ポイント、感想やレビューなどお願いします。
引き続き、この作品をよろしくお願いします。




