行間を読むな文章をちゃんと読め
「超次元平和維持エージェント……女神はともかく、そっちは中々にけったいな肩書だな」
ロックは苦笑するが、その仕草はどこか落ち着きを祓っている。
「そう言わないでくれ。私はこの肩書に誇りを持っているんだ」
「そうか、それはすまなかったな」
ロックは素直にエクスに謝罪する。
「……普段とは随分立ち振る舞いが異なっているな」
「まあ、真面目に話をしようと思ってな」
ロックはそう言って後ろ手で扉を閉める。それから背後の扉に体重を預ける。
「……真面目な話をするときも全裸なのか」
「趣味なものでな」
「ならば仕方ないか」
ロックの回答にエクスは納得する。
(いや、そこで納得しないでくださいよ)
ルティシアが思わずエクスにツッコむ。
「駄目なのか?」
エクスは首を傾げる。
(ダメというわけじゃないんですが……)
「なるほど。我々とは常識が随分と異なるみたいだな」
二人のやり取りの様子を見て、ロックは一人頷く。
そんなロックの様子をエクスはじっと見つめ、それから問いを投げかける。
「それが本来の君の性格……ということか」
ロックはエクスの問いに後頭部を掻く。
「いんや。あっちの方が素だよ。ただまあ、TPOを弁えた振る舞いはその気になれば出来るというだけだ」
(普段からその気で振る舞ってくださいよ……)
ロックの回答にルティシアは盛大なため息を漏らす。しかし、彼はそんな彼女のリアクションを気に留める様子もなく言葉を続ける。
「まあ、そんなことはどうでもいいだろう。それよりも本題だ」
ロックの言葉に、エクスは頷く。
「単刀直入に聞く。お前たちの目的は何だ」
「……」
ロックの問いにどう答えたものかと、エクスは思わず考え込む。ルティシアも同様らしく、黙りこくっている。
「何故言えない?」
「……」
ロックの問いかけに、エクスは一度目を閉じる。そんなロックに代わり、ルティシアが答える。
(あなたがそのことを知る必要が無いからです)
その回答にロックは首を傾げる。
「俺でも……か?」
(ええ)
「……なるほど」
ルティシアの回答にロックは一瞬顎に手を当てて考え込む。
「だったら質問を変えよう。あんた達は”この世界”のために活動しているのか?」
新たなロックの問いに、今度はエクスは目を見開き答える。
「そのつもりだ」
それを聞いたロックは腕を組み、片方の手の人差し指で何度か自身の腕を軽く叩く。それから神妙な面持ちで一人つぶやく。
「なるほど。そういうレベルでの世界の危機ということか」
「……ここ数日のわずかな接触と、今のやり取りの情報からそこまで察するとは……。どうやら神の領域に片足を踏み込んだ大魔導士というのは伊達ではない……ということか」
ロックはため息を漏らす。
「さてな。だがまあ、あんたらがどういう存在か、そしてどういった目的で活動しているのかは見えてきた」
そんなロックに申し訳なさそうにルティシアが告げる。
(この世界の人類の枠をはみ出しかけているとは言え、貴方はまだ人です。それ故にあなたには詳細をお話しすることが出来ないのは心苦しいのですが、その上でお願いがあります)
「と、言うと?」
ロックは腕を組み、目を瞑る。
(……可能であれば、ユウさんの行動の邪魔はなるべくしないでいただきたいのです)
ルティシアの言葉にロックは右目を開く。
「邪魔……とは?」
(ユウさんの正体を公言したり、私達が戦おうとしている敵が現れた時にユウさんの行動を阻害しないでほしい……ということです)
その言葉を聞いたロックは鼻を鳴らす。
「世界中のエーテルが随分と不審な挙動をしているようなのに、そちらは随分と悠長な話だな。お前達の行動にはそれだけ制約がかかっている……と、いうことか」
(解釈はお任せします)
ルティシアはそう答えながらも、内心ロックの言葉に驚愕する。彼は既に世界中に異変が起きていることを検知しているらしい。やはり、それだけの技量を持った魔術師であることは疑いようがない。
そんなルティシアの内心を知ってか知らずか、ロックはぽりぽりと頭を掻きながら答える。
「お前さん達がこの世界に害をなすつもりが無いなら別に構わんよ。それくらいの頼みは聞いてやる」
「助かる」
ロックの回答にエクスは謝意を述べながら頭を下げ、ルティシアは安堵のため息を漏らす。
「ちなみに、この間の俺とユウの間で起きたような騒動は邪魔のうちには入らないのか?」
そんなエクス達の様子を受けて、ロックは改めて尋ねる。
「まああれくらいなら」
(じゃれ合いの範疇でしょう)
「そうか。じゃあ、お前さん達の主目的を阻害しない程度に、あいつで遊ばせてもらうとしよう。なんせいあいつ真面目だからな、弄りがいがある」
ロックは二人の回答にニヤリと笑う。
「彼もまだまだ未熟だ。ほどほどに加減してやってほしい」
「考えておくよ」
そう言うとロックは扉から背中を離し、自身の足で立つ。そして、後ろ手で扉を開ける。
「それじゃあ、聞きたいことは粗方聞けたし、俺はこれで失礼するとしよう」
ロックはそう言うと部屋から出かかる。そこで、ふと足を止める。
「どうした?」
そんなロックの様子を訝しみ、エクスは声をかける。
「何、一つ聞き忘れた。エクス、あんた年いくつだ?」
「君達の世界の年齢換算だと一万歳になる」
何故そんなことを聞くのかわからず、首を傾げつつエクスが答える。
「へぇ……俺の倍くらいか」
それを聞いたロックが薄く笑う。
「久しぶりに、死んでない年上の友人が出来そうだ……ありがとよ。そして、おやすみ」
そう言うとロックは部屋を出ていった。
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