誰も寝てはならぬが、俺は寝る
「たしかに、エルフの居住地は結界で覆われて外界とは接触を絶っている。何かが起こっていたとしても、俺達の耳になにも情報が入ってこないということはありうるが……)
リーシェルトの回答にアイザインは顎に手を当てて考え込む。そんな彼の横でエミリアが首を傾げる。
「でもリーシェルトさんはエルフですよね?だったら何かお知り合いのエルフから何か聞いたりしていないんですか?」
リーシェルトはエミリアの問いに無言で首を振る。
「一応、知り合いを捕まえて話は聞くつもりだった。ただ、私はエルフの国から追放されている。ナルヨーの森に入って直接情報収集することは難しい」
「え?」
予想外の回答にエミリアの表情が強張る。
「エルフの国は先の大戦でも人間、魔族のどちらの勢力にも与せず中立を保っていたからな。女王の命に背いて勇者サクラに手を貸したリーシェルトは国から叩き出されたんだ」
「そんな……。私、何も知らずに……ごめんなさい、無神経でした」
エミリアはそう言って頭を下げると、リーシェルトは首を左右に振った。
「別にいいよ。私が考えて、私が決めた。その結果がそうだったってだけ」
「そう……ですか」
リーシェルトの静かな回答に、確固たる意志を感じたエミリアはそれ以上の問いを投げかけることをやめる。その横でアイザインは目を閉じて軽く息を吐く。
――そんな四人の会話に、再び割って入る者がいた。
「で、エルフの国には帰れないけども、何か異変が起きてはいないかということについては情報収集はしたい、可能であれば自身で調査をしたい……んなもんだから俺を利用しようとしたってわけか?」
弟子が弟子なら師匠も師匠か。ロックが弟子と同じようなテンポで会話に割り込んでくる。
「師匠。あたり」
リーシェルトは両指でピースをしながら、話しかけてきた彼の方へ向く。そんなリーシェルトの頭を軽く叩きながらロックはため息を漏らす。
「なるほど。リーシェルトさんがチコさんにマナスライムの情報を教えたのは、ロックさんがエルフの国に顔を出す理由を作るためだったんですね」
リーシェルトはエミリアの言葉に頷く。
「師匠、なんだかんだでお人好し。こういう時には絶対手助けする」
「だぁーっ!お前は余計なこと言うんじゃねえ!」
ロックは両手でリーシェルトの顔をこねくり回す。しかし、それにも構わずリー氏得るとは続ける。
「そうすればエルフの国にも一度顔を出さざるを得なくなる。そして、師匠がいれば追放された私でも多分国に入れる」
「くそっ……あのガキンチョがこんなちゃっかりした奴になりやがって!」
「師匠の教育の賜物」
「だぁれが師匠だっ!お前を弟子に取った覚えはないし、そんな図々しい処世術を教えた覚えはねえ!」
「背中を見て覚えた」
そう言ってリーシェルトは平たい胸を張る。
そんな師弟のやりとりを見て、アネッサ達は互いに顔を見合わせてからため息を漏らす。
「なるほど、素直じゃないってことか」
「だな」
「みたいですね」
それから三人は苦笑を浮かべる。それを横目で見たロックは目を細め、それから一人呟く。
「うわー。ああいうの、めっちゃムカつく」
そんなアネッサ達の会話を一通り盗み聞きし終わったルティシアがユウに語り掛ける。
(なるほど、次の目的地は元々ナルヨーの森になりそうでしたが、これは場合によってはドゥーマ細胞について手がかりを得られることになるかもしれませんね)
(外界と隔絶されている地域ならエクスさんとの融合も気兼ねなく出来そうですし、なんかあったとしてもいつもよりはリスクが低いかもしれませんね)
ユウがそう答えると、再びパンを齧る。
(……)
(……)
しかし、ルティシアとエクスは何も答えない。
(?)
何故二人とも黙りこくるのかわからず、ユウは首を傾げる。
(どうしたんです、二人とも)
ユウに尋ねられてルティシアが盛大にため息を漏らす。
(……ユウさん、考えてみてください。今回エルフの国に行く場合は必然的にロックさんが付いてきますよ)
(あっ……)
その言葉に、ユウはようやく事の重大さに気が付く。
(あの訳の分からんトンチキ全裸が付くてくる……となると……)
(はい。そもそも彼は私とエクスさんの存在を認識しています。なので下手な行動をとろうとすると、彼が周りに正体をばらす可能性があるんですよね……。その上、行動がはっちゃけすぎていて我々ですら予測しきれないところがあります。ですから、正直ドゥーマ細胞に汚染された敵に出会った時、一体何をしだすのか予想が出来ないんですよ……)
(……)
ルティシアの述べる不安要素の、ユウは思わず頭が痛くなるのを感じる。
(ドゥーマ細胞の手がかりは欲しいけど何も起こってほしくねぇ~)
ユウはそうぼやくと、ジョッキの中のジュースを一気に飲み干し、そしてため息を漏らした。
――それからしらばらくして、宴会が終わった後にユウは宿の客室のベッドに身を潜りこませていた。宿の空気は宴会までとは打って変わって静まり返っており、ユウの寝息が静かに響き渡る。しかし、その静けさは突如としてドアが開く音で破られることとなる。寝ている相手に気遣う様子もなく堂々と入ってきたのはロックだった。ロックは、そのまま室内へと足を踏み入れる。
「待ってくれないか」
「……」
そんな彼を制止する声に、ロックは脚を止める。気が付くと、布団の中で横になっていたはずのユウがいつの間にかベッドの上に腰掛けている。
「今、彼は君との追いかけっから始まった連続の騒動で疲れている。ゆっくり休ませてほしい」
普段のユウからは想像がつかないような落ち着いた立ち振る舞いと物言いに、ロックは目を細める。
「……なるほど、今表に出ているのは普段のユウの方ではない……ということか」
ロックの問いに、ユウは静かに頷く。
「ああ、私は超次元平和維持エージェントのエクス。今、彼の身体を借りて話している」
そして、そんなエクスに続いて改めてルティシアも自己紹介をした。
(それと私は、数多ある世界の管理を任されてますルティシアと言います。改めてよろしくお願いします)
「ああ」
二人の挨拶にロックは軽く頷いた。
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