偉い奴がはっちゃけるのは下がかわいそうなのでやめてほしい(切実)
「純度の高い魔力結晶に匹敵する魔力源が、割と近場にある」
「なんやて!?」
リーシェルトの言葉にチコが驚きの声を上げる。
「なんなんだ、それは?」
「それは……」
魔力源について口に出そうとしたリーシェルトを黙らせようとロックが動こうとする。しかし、ユウはその前兆を察知し、素早く羽交締めする。
「ええい、小僧!離せ!」
しかし、ユウはロックの抗議を受け流し、口笛を吹く。しかし、音程やリズムがおかしく、不協和音を奏でている。
「いや、お前めちゃくちゃ口笛下手だな!?」
あまりの下手くそさにロックは思わず素でユウにツッコむ。ユウは口笛を吹いたまま、ロックを拘束する腕にさらなる力を込める。
「あだだだだだっ!」
ロックは悲鳴をあげるが、それを意に介さずにリーシェルトは言葉を続ける。
「エルフの住むナルヨーの森の奥に古代文明の遺跡がある。そこに住むマナスライムならきっとこのゴーレムを動かす魔力源になると思う」
「マナスライム?」
どうやら珍しいスライムらしく、熟練の冒険者であるアネッサですらもその存在を知らなかったらしい。そんなアネッサのあげた疑問の声にリーシェルトは頷く。
「そう。名前の通り純度の高い魔力を体内に宿しているスライム。魔力濃度が高い場所に生息た結果、変質したスライム」
「なるほど……。そのスライムの性質次第やけど、動力源に使えるならもしかしたらゴーレムもさらに改良できるかもしれへんな……」
チコはリーシェルトの説明を聞いて何やら考え込む。
「魔族領はエルフの住むナルヨーの森とも近いですけど、そう言ったモンスターがいることはご存知なかったんですか?」
エミリアが首を傾げてアイザインに尋ねる。
「エルフ領は魔族と人間に対して中立を保っており、我々も立ち寄らないからな。その様な遺跡とスライムの存在は初耳だ」
「なるほど」
彼の回答にエミリアは納得する。
「もっとも、遺跡やマナスライムの存在はエルフの中でも極秘事項。知ってるのはエルフの中でも上流階級の極一部」
リーシェルトの言葉にユウは首を傾げる。
「そんな凄いところ、外部の人間がおいそれと入れるんですか?それこそよっぽど身分の高いエルフがゴリ押しでもしないと入れてもらうなんて出来ないのでは?」
「高貴な身分のエルフなら、いる」
ユウの疑問にリーシェルトはこともなげに答える。
「そうなのか?私は君の身の上をあまり聞いたことがないが、もしかしてそんなに良いとこ出なのか?」
アネッサが軽く驚きながら答える。
「違う」
リーシェルトはぷるぷると首を振る。それを聞いた、その場にいる一同の表情が強張る。
「まさか……」
そして皆、一様にロックを見る。そんな周囲の様子を見て、リーシェルトは淡々とある事実を告げる。
「師匠、王族」
「は?」
高貴とは聞いたが、まさかエルフの国でも最上級とは思わず、皆して間の抜けた声を上げる。
「す、すみません。リーシェルトさん……もう一回言ってくれます?なんかこの頭のおかしい全裸が王族とか言うとんでもない幻聴が聞こえた気がするんですが……」
驚愕の事実に与えられた衝撃に意識が吹き飛ばぬ様耐えながら、ユウはなんとかリーシェルトに確認の問いを投げる。そんなユウの言葉にリーシェルトはこくりと頷く。そして、驚愕の事実をもう一度告げる。
「この人、王族。女王様の兄」
再び、そしてさらに詳細度を増して告げられた事実に一同は言葉を失う。
「嘘でしょ……?」
ユウは思わず呟く。
「ふんっ」
周囲の戸惑い混じりの視線とユウの言葉を受けて、ロックはつまらなさそうに鼻を鳴らした。
――それから数時間後、ユウ達が滞在していた宿の酒場ではチコの工房が片付いたことを祝う宴会が開かれていた。
「うははははははっ!飲め飲めい!」
「うわ、めちゃくちゃテンション上がってやがる……」
王族という出自を弟子にばらされていた時の不機嫌は先ほどまでの不機嫌はどこへやら、酒を飲んだロックは楽しそうに他の魔族達とはしゃいでいる。
(……しかし、ここ数日はなんか変な騒動に巻き込まれてドタバタしちゃってましたけど……こんなんで大丈夫なんですかね?)
ユウは内心でため息を漏らしながらルティシアとエクスに問う。
(どうなんでしょう?ドゥーマ細胞の捜索自体は全然進んでいないというのは確かにありますが……)
(とはいえ、現在は手がかりがそもそも一切ない状態だ。ふむ、どうしたものか……)
この世界を超越した存在二人からの何とも心許ない回答にユウはため息を漏らす。
(まあユウさん。この世界の情勢により、現在の貴方は移動が制限されている状態にあります。今後の探索をスムーズにしていくためにもここで有力者などとの人脈は積極的に構築しておいた方が良いでしょう)
ルティシアの回答にユウは頬杖をつく。
(それやると、一歩間違えると目立つんですけどねえ……)
(そこらへんはまあ、うまくやってください。うまく)
(あーん、上司に無茶振りされるときのサラリーマンの気持ちが蘇ってきたぁ~!)
ユウがぼやくとルティシアが張り合う。
(私だって無茶振りされてるんですぅ~!)
(神の世界でも労働は地獄か……ほんと、神も仏もありゃしねぇ)
ユウはとほほと息を突きながらジョッキに口をつける。
(絶望したっ!この世界に絶望したっ!)
唐突に首を括りそうなセリフを発したルティシアのせいでユウは盛大にジョッキの中身を噴き出す。
「うわっ!?なんだ、お前!」
他の魔族達が怒りの目線をユウに向ける。
「あ、あはははは。咽ちゃって……ごめんなさーい」
ユウは謝ると、そそくさと席を移動しようとする。
「ん?」
その時ユウは、テラス席にエミリアとアネッサ、そしてアイザインの三人が座っていることに気が付く。
(……ちょいと失礼して……)
ユウはこっそりと三人が座っている席から少し離れた場所に陣取ると、聴覚を三人の会話の方へと向ける。
(私の超聴覚を盗み聞きをすることに対してためらいもなく使うようになるとは……適応力があがっているな)
(そんな嫌な感心の仕方しないでください……)
エクスの身もふたもないコメントにユウはため息を漏らす。
(しかし、あの三人の組み合わせとは……一体何を話しているんでしょうかね?)
(さあ?ただまあ、街の自警団の長と昔馴染みのアネッサさんが会話するなら、それなりに重大なこと話す可能性がありますからね。もしかしたらドゥーマ細胞関係で手がかりになる話も出てくるかもしれません)
(ああ、別に下世話な興味から他人の話盗み聞きしようとしたわけじゃないんですね)
(仮にも自分とエクスさんで選んだ転生者をなんだと思ってるんです?)
ユウはため息を漏らした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
皆様の応援が執筆の励みになります。
もしよろしければブックマークや評価ポイント、感想やレビューなどお願いします。
引き続き、この作品をよろしくお願いします。




