ノリと勢いだけで作ったものは大体うまく動かない
エミリアの号令を受けて魔族達が掃除にスパートをかけてからさらに半日が経過した。
――あたり一面を覆い、うごめいていた大量のゴミの山が消え、工房の中は清冽な空気を放っている。その様を見た魔族達、そして共に戦ったエミリアをはじめとした人間達は涙ぐみながら言葉を発する。
「つ、ついに……やったな……」
「ああ、ついに俺達はやったんだ……」
アイザインの言葉に魔族達は頷く。
「あの腐海を我々は制したんだ……」
アネッサもまた、満足しきったような表情で点を仰ぐ。
「……私達はきっとこの先、どんな困難があったとして互いに理解をしあい、手を取り合うことがきっとできるはずです……」
「ああ、そうだな……」
エミリアとアイザインはそう言って固い握手を交わす。
「……」
感動的な空気を醸し出しているが、そもそもの原因が自分であることを自覚しているチコはどういう表情でこの様子を見ればよいのか分からず困惑する。そして、そんなチコを見てティキは首を傾げる。
「チコちゃん。どうしたの?」
「いや……なんでもないんや、なんでも……」
「?ふうん、変なの。まあいいや。とりあえずゴーレム、無事に掘り出せたんでしょ?これで裸の変な人と戦えるんだよね!良かった!」
「そういや、そう言う話やったわ……」
ティキの屈託のない言葉のおかげで、ここ数日の異様なテンションのせいですっかり忘れていた本来の目的をチコは思い出す。
「そもそも話の本題を見失いかけたのは、ちゃんと日頃から工房を掃除しないチコちゃんのせいなんですよ?」
そんなチコの頭をエミリアが片手で掴む。顔は笑っているのだが目は笑っておらず、何やらすさまじい圧を放っている。
「あだだだだだだっ!?割れるっ!頭割れるっ!?片付けるからっ!これからはちゃんと毎日片づけるからッ!」
エミリアにすさまじい握力で頭を掴まれて、チコは悲鳴をあげる。そんなチコのリアクションにエミリアは小さくため息を漏らす。
「分かればよいです、分かれば」
「あーん、危うく頭がフラスコみたいになるところやったわ……」
チコはそう言ってエミリアに締め上げられていた頭頂部周辺を撫でまわす。そんなことをしていると、ユウが一度ロックを閉じ込めた魔道具の釜からなにやら激しい物音が鳴り響く。
「……」
それを聞いた、その場にいた魔族達は息を呑む。どうやらこの場にいる誰もが、あの全裸を恐れているらしい。それから間もなくして、釜がまるで桃太郎が入っていた桃のように勢いよく真っ二つに割れ、中からロックが飛び出してくる。
「だーっはっはっはっはっはっ!待ちわびたぞ、小娘ェ!」
ロックは笑い声をあげる。その様子を見たユウは思わずため息を漏らす。ロックはそんなユウには構わず、チコへと歩み寄る。
「さあ!お前の自慢のゴーレムとやらを出してみろっ!」
「おう、上等や見てみぃ!こっちやで!」
チコがそう言って手招きをしてから歩き出す。ロックはそれに跳ねるような足取りで続く。それを見たユウや他の魔族達は顔を見合わせた後に二人に続いた。
「……どやっ!これが現在ウチの考えた最強のゴーレムや!」
――その場所はゴミの山に生まれていた工房の地下だった。チコについて来て辿り着いたそこには、鎧を纏った巨人は聳え立っていた。
「ほう」
それを見たロックは腕を組んで感嘆する。
「どうやら全身に特殊な合金の鎧を纏っているようだな」
「へへーん!実はこれ、オリハルコンやらミスリルを複層的に重ねて、さらに表面を鏡面加工した特殊装甲なんや!こいつのおかげで大概の魔法は跳ね返せる優れもんや!」
チコは解説しながら胸を張る。
「ふむ、俺への対策というわけか。面白い!おう小娘!そいつの力を見せてみろ!俺と勝負だ勝負!」
目を輝かせたロックがチコに勝負をせがむ。しかし、チコは人差し指頬を搔きながら言い淀む。
「……あーいや、こないだも言うたけどまだ開発途中やから動かんで……」
「なあにぃ!?」
冷静なチコのコメントにロックはずっこける。しかし、その後すぐに冷静になる。
「そういやそうだったわ……」
「ねー、チコちゃん。なんで動かないの?」
ティキは首を傾げて尋ねる。ティキに聞かれてチコは頭を掻く。
「こいつは魔法対策にかなり重たい鎧を纏っている。そんで、それを身に着けても戦えるように素体の部分にもいろいろ工夫したんだが、そしたら必要な魔力もバカ高くなってもうてなあ……。そうすると純度の高い魔力結晶をかなりの量を用意せなあかんくなるんや……」
「ふーん……」
ティキはチコの解説を残念そうに聞く。
「運用まで考えないでブツだけ作るの、割とやっちゃいけないタイプの失敗では?」
「んぐっ!?」
ユウは前世の常識に基づいて正直な感想を述べてしまうが、そこがチコにどうやらクリティカルに刺さってしまったらしい。
「どうせ一発勝負でしか使わないシロモンだし、魔力結晶かき集めりゃどうにかなると思ったんですぅ~!」
チコが歯を食いしばりユウを睨む。
「は、はあ……はははは……そんな顔してこっちみんといて……」
そんなチコの圧力に押されてユウは苦笑する。
「それなら、良い手がある」
チコの課題を解決する一縷の望みがあると、リーシェルトが告げる。
「ほ、ホンマか!?」
チコがリーシェルトに詰め寄る。一方、リーシェルトが提示する解決策がどうにも都合が悪いものらしく、その横でロックが『やめろ!』という意図と思われるジェスチャーを繰り返していた。
「?」
一体、リーシェルトは何を提案しようとしているのか?そしてそれが何故ロックに都合が悪いのかわからずユウは首を傾げた。
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