部屋汚くても俺はどこに必要なものが置いてあるかわかってるから
エミリアのあまりの豹変ぶりに周囲にいた魔族達は驚く。
「あ、あんた……謝ってるのは良いんだが……さっきまでのノリとギャップありすぎやしねえか……?」
エミリアはそんな周囲の反応にますます恐縮し、さらに頭を下げる。このままでは地面に穴が開きそうである。
「まさか私が意識を失っていた間、そのような大暴れをしていたなどと露も知らず、皆様には大変失礼な真似を……。お詫びというわけではありませんが、出来ることならなんでもいたします。どうかそれでご容赦を……」
(ん!?今なんでもするって)
ルティシアがすかさずボケる。
(神様がそっち系のネタは笑えんのでやめましょう)
ユウが冷静にルティシアを諌める。
その横では、土下座しながら謝罪するエミリアの様子を見てアイザインはため息を漏らして考え込む。エミリアのしでかしたことは確かにまずいのだが、じゃあ、処罰と称して理不尽な要求が出来るかというと、見た限りはそんじょそこらの木端魔族ならば束でかかってきても瞬殺できそうな程度には強そうである。
(しかもさっきの身のこなし。もしやあの男の……?)
アイザインはかつて戦場で何度か対峙した男のことを思い出す。しかし、過去に浸るのもそこそこにアイザインは改めて現状を確認する。この、色々やらかしている僧侶は、かつての勇者パーティや得体の知れない男二人が彼女に同行しているのだ。ここで下手な真似をすると街に大きな損害を与える事態に発展する可能性もないとは言えない。そこまで考えたアイザインはエミリアに告げる。
「あー……じゃああんたに出来る範囲で"償い"って奴をしてもらおうか」
「は、はい!」
アイザインの言葉にエミリアは真剣な面持ちで頷いた。
――それから数分後。
「で、なんで俺まで工房の掃除を手伝うことになってるんでしょうか?」
チコの工房内の大量のガラクタを運びながらユウはぼやく。アイザインから提示された罰、それはチコの工房の掃除だった。
「ぼやくな、ユウ。我々もこの街に少なからぬ迷惑をかけている。この程度で済むならありがたいことだ」
工房内に散乱していた大量の紙を集めて束ねながら、アネッサがユウを諌める。
「この程度って……」
ユウはチコの工房内を改めて見渡す。とてもじゃないが人が生活できるような空間には見えない……どころの騒ぎではない。
「これ、さっき誰だかが魔界とか言ってたけど、それどころじゃなくて腐界ですよ、腐界」
(俺が独身暮らしのときだってはるかにマシな部屋だったぞ……)
そんなことを思いながらため息を漏らすユウに、どこからともなく得体の知れないガラクタが飛んでくる。ユウはそれをこともなげにかわす。
「何するんですか、危ないなあ」
「レディの部屋捕まえて腐界とか失礼なこと言うんやないわ!」
抗議するユウにチコが吠える。そんなチコにユウはため息を漏らす。
「そうは言いますけどね……」
そう言ってユウは街の方に目線を向ける。そこでは魔族たちがアイザインの指揮のもと、ヴァルクスやロック達が暴れた後片付けに勤しんでいる。
「あれだけ荒らされた街を片付ける方が、あんたの工房片付けるのより百万倍マシって魔族の皆さんがいうレベルですし……」
「そ、そんなにぃ!?」
叫びながらチコは白目を剥く。
「それにほら、あっちも」
そう言ってユウはそう言って工房の一角を指さす。そこではエミリアが工房の奥に入ろうとするティキを抱き留めていた。
「駄目よ、ティキ……!ここは汚染がひどい……!あなたではひとたまりもないわ!ここはお姉ちゃんに任せなさい……!あなたのことは必ず守るから……!」
「どういう扱いや!」
まるで今から、弟を守りながら強敵と立ち向かうかのようなエミリアの様子にチコは思わずずっこける。
「まあそれくらいにしておけ」
そう言いながらアネッサはガラクタ類を外に運び出す。
「あ!それまだ使うかもしれへんやつ……」
そんなアネッサを止めようとしたチコの肩をエミリアが掴む。
「駄目ですよ、チコさん……。『使うかもしれない』は、大体使わないんです。そういうときにちゃんと捨てていかないと部屋は綺麗になりません。ですから、ちゃーんと捨てましょうね……」
「は……はい……」
穏やかな表情なはずなのに、目が笑っていないエミリアの言葉にチコは底知れぬ恐怖を感じて素直に了承する。その様子に苦笑しながらティキは近くに落ちていたガラクタを拾う。
「ねえ、チコちゃん。これなあに?」
「んなっ!?」
ティキに呼ばれてチコは軽く衝撃を受ける。
「ウチが仮にも年上なのにちゃん付けなのはどうなんや……」
チコはぶつぶつと文句を言うが、ティキは気にも留めない。
「なんかの魔道具だよね、これ?どう使うの?教えてよ」
そう言ってティキは純粋な眼差しを向ける。
「なんでウチがお前に教えなあかんねん。大体お前そんなん見てどうするんや」
「だって、チコちゃんってすごい技術者なんでしょ?どんなすごいものか見てみたいんだもん。駄目?」
そう言ってティキは上目遣いでチコを見る。
「んなっ……」
そんなティキの態度にチコは何かを感じて顔を赤らめて動揺する。
「しゃ、しゃーないな……。ウチが教えたる。こっちこいや」
チコはそう言うとティキを工房の外へと向かっていく。
「わーっ、ありがとう!チコちゃん!」
ティキは嬉しそうに、そんなチコの後ろについていく。
「……エミリアさん」
そんなティキを眺めながら、ユウはエミリアに声をかける。
「……なんでしょう、ユウさん」
エミリアも応じる。
「貴女の弟、将来的になんか色々問題起こしそうな気がしますが……気のせいでしょうか」
「奇遇ですね……私もそんな気がしてきました……。あの子には色々と教育が必要かもしれません……。そう、色々と”教育”が」
そんな二人のやり取りにアネッサは首を傾げる。
「何の話だ?」
直後、アネッサの手に運んでいた木箱のささくれが指に刺さる。
「がはあああああああああああああっ!?」
直後、アネッサは盛大に血を噴き出し、その場に倒れた。
「なにやってんだか……」
ユウはその様子を見てため息を漏らした。
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