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謝るべき時は素直に謝れる方が良い

 エミリアはアネッサの背から降りると、少し頬を上気させながらチコの攻防の中をさっと見回す。

「うーん、雑に投げ置かれ物のせいで足の踏み場もない床……。それどころか積み重なった物でできた山が崩れて頭上から何か振ってくる可能性すらある……。そして大量に蓄積した誇りや様々な汚れ……。これらすべてが合わさって出来上がった腐海……。もはや魔界ですら生ぬるい人類も魔族も未踏の領域……これは……これは滾りますね……」

 そう言ってエミリアは腕をまくる。

「そ、そこまで言われる謂れあるっ!?」

 そして、エミリアの言葉にチコは思わず泣く。

 そんな漫才みたいなやり取りをしていると、魔族複数人がエミリアの前に立つ。

「あら……?魔族……?」

 エミリアは少々驚いた様子で首を傾げる。

「おい、姉ちゃん……。掃除は結構だけど、その前にすることがあるよなあ?」

 そう言って一人の魔族がエミリアの肩に手を触れる。

「あっ……」

 それを見たアネッサが咄嗟に動く。傍から見れば、その様子は魔族にうら若き女性が暴行を受けそうになっているのを止めようと動いている女騎士のように見えただろう。しかし、現実は違う。アネッサはエミリアの肩に手をかけた魔族に向けて警告を発する。

「……逃げろっ!」

「へ?」

 一瞬、何を言っているのかわからなかった魔族は、アネッサの言葉に呆気にとられる。

「ぎゃっ!?」

 ――直後、目にもとまらぬ速さで、流麗な投げ技で魔族が地面に叩きつけられる。そして、エミリアはそのまま魔族の関節を極める。相手の腕の関節を極めたまま、彼女は倒れ伏している魔族に冷たい目線を送る。

「……私の掃除の邪魔をするのであれば……たとえ何者であろうとも容赦をいたしません……そう、たとえ神であったとしても……」

「今の技……あの動き……」

 エミリアの流麗な技にアイザインは目を剥き、そして一人つぶやく。

「魔族が相手かどうかよりも、掃除を邪魔したかどうかの方が判断基準として優先度高いってことぉ?なあ、お前のお姉ちゃん、本当に神官?」

 そんなアイザインの反応を他所にユウは思わずティキに真顔で問う。

「姉ちゃん、掃除が絡んだ瞬間に宗教変わっちゃうから……」

 ユウの問いにティキは遠い目をしながらつぶやく。

「怖いよ……お前の姉ちゃん怖いよ……」

 ユウの顔が青ざめる。

「人に関節技かけながら言うセリフか?」

 珍しく正当性がありそうな内容でロックがユウにツッコミを入れる。しかしユウはロックのツッコミはスルーし、技をかけ続けている。そんなやり取りをしている横でアネッサがエミリアの行動を止めるべく、後ろから彼女を羽交い絞めにする。

「落ち着け、エミリア!今回のことについては彼らの言い分に正当性がある!」

「ア、アネッサさん?」

 エミリアは驚いた様子でアネッサを見る。

「エミリア……私達が現在いるのは魔族領ルーレアのアンチルイーワなのだが……ここまでどういう経緯で来たか覚えているか……?」

「え……?」

 アネッサに言われてエミリアは考え込む。

「えーと……私達、確かユウさんを追ってヴァルクスで移動してて……途中で、私が運転を変わって……えーと、そこから……」

 エミリアの回答にアネッサは思わずため息を漏らす。どうやら、自身がハンドルを握った瞬間辺りから記憶が消えているらしい。

「エミリア……よく聞いて欲しい。君は、ヴァルクスのハンドルを握った直後から暴走を始め、すさまじい危険運転を繰り返したんだ。そして最終的にこの街に突入し、そして市街地内においても危険な運転により街に被害を及ぼしている……」

 そう言ってアネッサは市街の方を指さす。

「え……?」

 エミリアは唖然としながら恐る恐るアネッサの指が指し示す方向へ目線を向ける。そこでは複数の折れた街路樹や哀れに舗装が吹き飛ばされた道路、車体がぶつけられて折れた看板等といった様々な街の構成要素が哀れな姿をさらしている。

「あれを……私が……?」

 エミリアは青ざめる。

(免許センターの啓発ビデオで事故った人みたいになってるな……)

 ユウは前世の免許の更新を思い出す。その傍らでルティシアがさだまさしの償いを歌いだす。

(あ、アレ結構マジで気が滅入るんで勘弁してください……)

(アッハイ……)

 ユウの割とガチ目な反応に、ルティシアはあっさりと歌うのを止める。

「まあ、怪我人とかが出なかったのは不幸中の幸いではあったが……」

 アネッサはエミリアへ一応フォローを入れるが、気休めになっているかどうか怪しいレベルである。

「本当に出なくて良かったぜ。アレでもうちょい被害が大きかったら、全裸のエルフの魔導士に続く、新しい警句がこの街に追加されるところだったからな」

 アイザインはそう言ってため息を漏らす。

「『シスターの乗った戦車に気をつけろ』とかになるんですかね?街の警句がおかしいのばっかりになりますね……」

 ユウは警句になった男に相も変わらず関節技をかけながら感想を口にする。

「なんでこんなことになってるんだろうな……」

 アイザインは遠くを見るような目をしながらため息を漏らした。

「少なくともお前に非があるわけではないのだがな……」

 アネッサも労わるような目でアイザインを見る。

「とまあ、それはさておき……」

 アイザインは脱線しかけた話を戻そうと前置きをした後、目線をエミリアに向ける。

「……」

 そしてアイザインは次に目にした光景に唖然とする。


「大変申し訳ございませんでしたっ!!」


 そこには土下座をし、誠心誠意謝るエミリアの姿があった。

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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