部屋片づけるの面倒くさいねん
ユウがルティシア達と内心でやり取りをしていることなど露も知らず、チコは気まずそうに答える。
「あー、すまんなあ兄ちゃん……。ウチは魔力は無くてなあ、魔法使えへんのや……」
「!?」
ユウはチコの言葉に衝撃を受けつつ、何故みんながユウの発言に対してあんなリアクションを取ったのか……その理由を察する。
(高い魔法能力がアイデンティティの家系……そこで魔術が使えないとなったら……)
そんなことをユウが考えていると、ルティシアが同意し、補足する。
(ええ。実際、彼女は一族内でも随分と冷遇をされていたみたいです)
(もしかして結構年若そうなのに、こんな治安悪そうな界隈で一人暮らしをしているっていうのは……)
(はい。ユウさんが考える通りです)
ルティシアの説明を聞いてユウは、自身の胸が重くなったような感覚になる。
「すみません。俺、デリカシーの無い発言してしまいまして……」
ユウはチコに頭を下げる。そんなユウの態度にチコは慌てふためく。
「いやいやいやいや、別にウチも謝ってもらおうとかそんなこと思ったわけじゃないんや!頭上げったてくりや!そんな畏まられるとウチも困ってまうわ!」
「っていうか人に謝るときは俺から降りろ小僧!」
神妙な顔して謝るユウにロックが茶々を入れる。それにむかついたユウは、今度はロックに無言で逆エビ固めをかける。
「があああああっ!くそっ!こいつ無駄に技のレパートリーが多いっ!?」
ロックは悲鳴をあげるが、ユウは意に介さない。
そんなやり取りをしていると、アネッサが会話に加わる。
「しかし……だからこその魔道具探求だった、というわけか」
アネッサの言葉に、チコは頷く。
「そうや。魔道具の動力源は利用者本人の魔力以外にも、結晶化した魔力を用いる方式もある。その場合は別に本人に魔力があるかどうかは大した問題にならへん。ウチはそれに目を付けたんや」
チコはそう言うと、止まっていたシャターを開ける手を再び動かす。
「そんで今日まで作ってきたもんがこの工房にあるっちゅーわけや!」
彼女がそう言いながら開いたシャッターの先に広がる光景に一同は目を見開く。そして皆、声を揃えて叫ぶ。
「部屋汚っ!?」
「そこおっ!?」
皆の反応にチコはずっこける。」
「いや、確かに様々な魔道具が置かれていて壮観ではあるはずなのだが……」
アネッサはそんなチコの反応に言葉を濁す。
「だが?」
「凄まじい量の物があまりにも乱雑に積み上げられすぎてて、どうしてもそちらに意識を持っていかれると言うか……」
「んなっ!?」
チコはアネッサの反応に衝撃を受ける。そしてそんな二人のやりとりの様子を見て、アイザインは額に手を当ててため息を漏らす。
「だから言ったろう。こまめに片付けておけと……」
「うっさいわ!」
そんなアイザインの反応にチコは噛み付く。実際、工房は酷い有様だった。窓は閉め切っており室内は薄暗く、床という床に素人目には使い道がわからない様々な道具が山のように積み上げられていて足の踏み場がない。
「この部屋の汚さに比べたら魔法が使えないことは大した問題では無いな」
ロックが正直な感想を述べる。
「急に冷静にまともな意見だすのやめーや!」
そんなロックの言葉に今回ばかりはユウも同意して、関節技をかけるどころか云々と頷いている。
「ここで必要な魔道具を探すの、ダンジョン探索で宝探すより難しいんじゃ……?」
ユウの反応にチコは目を見開く。
「なんやあんたまで!さっき煽った腹いせかぁ!?」
「えぇ……?」
そんなチコの反応に優はため息を漏らしながら困惑する。
「ん……んん……っ?」
「……あれ?」
そんなやりとりをしていると、気を失っていたエミリアとティキが目を覚ます。
「二人とも、目を覚ましたか」
アネッサは二人に声をかける。
「あ、アネッサさん?ここは……?」
「んん……」
意識がはっきりしてきたティキはアネッサに問いながら周囲を見回す。一方でエミリアはまだ寝ぼけているのか意識がはっきりしないようだ。
「おお、ティキ!目が覚めたか」
ユウはティキに声をかける。その声に反応し、ティキはユウの方へと振り向く。
「ユウ兄ちゃん!……え?」
しかし、ユウの方へと振り向いたティキは怪訝な顔をする。
「どうした?」
ユウはそんなティキの反応に首を傾げる。そんなユウに珍しくルティシアがツッコむ。
(身内が全裸の男に関節技をかけながら爽やかに挨拶をしてきたら、普通じゃない反応が返ってくるものだと思いますよ?)
(……)
ルティシアの言葉に、ここまでの一連の出来事のせいで自分の常識が壊れたのでは無いかとユウは不安になる。そして、その諸悪の根源たる全裸の関節を極める力を強める。
「あだだだだだだっ!無言で八つ当たりをするな!無言でっ!」
ロックは悲鳴をあげる。そのロックの声が引き金になったのか、エミリアの意識が覚醒する。
そして目を覚ました彼女は叫ぶ。
「お掃除!お掃除が必要な気配がしますっ!」
そんな彼女の突然の叫びに、周囲にいた者達は呆気に取られて真顔になる。
「あ……始まっちゃった……」
ただ一人、ティキだけは慣れた様子でやれやれとため息を漏らした。
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