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交通ルールを守れ

「ん!?」

 直後、常人をはるかに上回るユウの聴覚が、ゴーレムとマチ男君がどつき合う轟音や、魔族達の声、街を取り囲む風の音が入り混じる混沌の中から低く唸るような音が鳴り響いていることを捉えた。どうやら音源は遠くから徐々にこちらに近づいて来ているらしく、徐々に音が大きくなりつつあった。そして、その音はユウにとっては最近聞いた事があるような音であった。


 ――力強くけたたましい、機械の機関音。


「これって……」

 音の発生源に思い当たったユウは思わずつぶやく。

 ――直後、ユウの予想は正解だと言わんばかりに風の壁を突き破ってヴァルクスが姿を現す。

「ヴァルクス!俺達を追ってきてたんだ……!」

 街から脱出するための手段を携えた味方が窮地に現れてくれたことで、ユウの顔が明るくなる。ヴァルクスにさえ乗りこめれば風の壁を突き破って街からも逃げることが出来るかもしれない。

「なんだあれ……」

「今度は何なんだよ……」

 そんなことを考えていると、突然のヴァルクスの登場に驚いた様子で魔族達はヴァルクスの方を見ている。注意がこちらに向いていない今なら、とユウはこっそり屋根から飛び降りて複雑な裏路地を駆け抜けながらヴァルクスと合流しようとする。

「……ん?」

 ヴァルクスを追いかけながらその挙動を観察していたユウは、違和感を感じて思わず首を傾げる。先ほどからヴァルクスは風の壁を突き抜けてきた勢いそのままにアンチルイーワの街中を爆走している。幸い人こそ引いていないが、街路樹をなぎ倒し、街路に面した店の看板などを勢いよく吹きとばしている。どう見ても正気で運転しているようには思えない。

「……アネッサさんあんな操縦する人じゃなかったよな……」

 今眼前に映るヴァルクスの挙動は、以前アンデッドドゥーマと戦いでアネッサが操縦していた時とは異なっているように思える。ユウにはどうにもこう、荒々しく乱暴な操縦に見受けられた。

「な、なんやぁ!?」

「なるほど、あれは……」

 突如闖入してきたヴァルクスにチコとロックは対照的な反応を示す。しかし、そんな態度をとっていたのも束の間、ヴァルクスがすさまじい勢いで戦っていたゴーレムの足に横からぶつかり跳ね上がる。そして、そのまま吹っ飛んだヴァルクスはマチ男のすねに勢いよくぶつかる。両者ともに足に衝撃を受けて踏ん張れなくなり、そのまま勢いよく市街に倒れこみそうになる。

「うわわわわわわっ!?あ、あかーん!!」

 市街地にチコの悲鳴が響き渡る。

「やれやれ。少々悪ふざけが過ぎたかな」

 それを見聞きしたロックは苦笑し指を鳴らす。

 直後、マチ男の姿が消えると同時に、大地からは巨大な手が現れて倒れそうになるゴーレムを支える。

「……む」

 そしてロックは吹き飛んでいったヴァルクスの様子を見て目を見開く。ヴァルクスが跳んでいく挙動の先には魔族の子供が立っている。子供は突然の事態を脳が処理しきれないのか、呆然としながら吹き飛んでくるヴァルクスを見つめている。それを見たロックは魔術を発動させるべく指を鳴らす。

「ん?」

 それと同時、あることに気が付いたロックは軽く口笛を吹く。彼の視界には横回転しながら吹き飛ばされているヴァルクスの前へ今まさに滑り込もうとしているユウの姿があった。

 

(間に合えっ!)

 ヴァルクスの吹き飛ばされていく先に子供がいることに気が付いたユウは、思わず駆け出していた。その脳裏には前世の死んだときの記憶が駆け巡る。その時の痛みや恐怖も蘇り、一瞬身がすくみそうになる。

「……関係ないっ!今の俺は……今の俺だああああああっ!」

 しかしそんな負の感情を振り払うように、ユウは叫び、そして加速する。そのまま制御不能となったヴァルクスと子供の間に、ユウは勢いよく滑り込むと魔族の子供を抱きかかえる。

「でりゃああああああっ!」

 さらに裂帛の気合と共にヴァルクスを蹴り上げる。ユウの蹴りによりヴァルクスは軽く真上へと跳ね上がる。ユウはその間に子供を街の大通りに運び、そしてそのまま自身は街の路地裏に一度姿を隠す。気が付けば街の大通りに立っていた子供は事態を呑み込めず、目をぱちくりとさせながら周囲を見回したのち、首を傾げる。直後、ヴァルクスは着地し、その目と鼻の先にロックが魔術で作ったと思われる巨大な手が現れ、ヴァルクスの車体を掴む。それを見届けたユウは静かにため息を漏らす。

(”今回は”無事に助けることが出来ましたね)

 ルティシアに言われてユウは苦笑する。

(まったくです。エクスさんと融合したおかげですね)

 ユウはそう答えながら小さく笑う。

(だが、力を手にしたときに咄嗟に守ることを選んだのはやはり君自身だ。私は融合をし共に戦う者として、君がそのような選択をしたことを誇りに思う)

(相変わらず面と向かってこっちが恥ずかしくなるようなこと言うなあ……)

 エクスの肯定に、ユウは少し赤らめた頬を指で掻く。


「!」

 そんなやり取りをしていると、ユウの耳がヴァルクスの扉が開く音を捉える。慌ててユウが目線を向けると、土でできた巨大な手に掴まれたヴァルクスの乗車用ハッチからアネッサがフラフラと出てくる。

「アネッサさん!」

 それに気が付いたユウは急いでヴァルクスへと駆け寄る。

「おい、あいついつの間に!」

 先ほどまでユウを取り囲んでいた魔族達はユウが得体の知れない乗り物の方へと駆け寄っていってること、つまりいつの間にが姿を消していたことに気が付く。

 魔族達は顔を見合わせ、頷いた後にヴァルクスの方へと駆け出す。頭もその魔族達の様子を見て、ヴァルクスの方へと向かった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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