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能力は正しく使われるとは限らない

「はあ……はあ……」

 ユウは魔族達から逃げた後、街の路地裏に再び隠れていた。

(真っ先に逃げに回った判断、流石ですね)

(だって……目立つなって言ったじゃないですか……。あんなところで派手に大立ち回りなんてしたら……)

 ルティシアの言葉にユウは肩で息をしながら答える。

(もうこの騒動に片足突っ込んだ時点で、どうやってもある程度目立ってしまっていることは悩ましいがな)

 エクスの言葉にユウはため息を漏らす。

(どうしたもんかな……)

 そんなことを考えていると、直後ユウの頭上で花火のようなものが弾ける。

「!?」

 驚いていると、さらに直後ロックの声が大音量で街に響き渡る。

「あー!魔族の諸君!そこの花火が上がったポイントに、先ほど俺様と!そう、この俺様ロック・ラドクリフ様と一緒に来た人間が隠れているぞ!ぶん殴るならここに集まれー!」

「なっ!?」

 驚いたユウは思わず素っ頓狂な声を上げる。

「おい、本当にいたぞ、あそこだ!」

 直後、表通りの方から魔族達の声が聞こえてきた。

「まずいっ!?」

 ユウは再び逃げ出し、別の路地の裏に隠れこむ。

(くっそ……なんであいつに居場所が……?)

(ユウさん、見てください!ちょっとユウさんの右斜め前のちょっと上の方にいるアレ!アレ!)

 ルティシアに言われてユウは指定された場所を見る。するとそこには小さなロックに羽を生やしたようなモノが空中を飛んでいる。

「うげっ……なんかいる」

 ビジュアル的にはかわいい妖精のようにも見えるのだが、ロックに散々振り回されている真っ最中なため思わずため息が口から漏れる。直後、再び頭上で花火が上がる。

「うげっとは何だ、うげっとは!あの美しいビジュアル見たら心酔するとか崇拝するとか以外の選択肢あるわけないだろ!」

「そんなわけあるかい!」

 ユウはそう漏らすと再び逃げ出す。

(まさかあれも精霊の一種ってことですか!?)

(はい)

(自分のビジュアルの精霊作るとかどんだけナルシストやねん、あいつ……)

(それはそうなんですが……気を付けて下さい、ユウさん。彼の精霊はこの街中にばらまかれています!)

 ルティシアの言葉を聞いたユウの表情が絶望に染まる

(それって街中どこ行ってもあいつが見ているようなもんってことですか!?)

(そういうことです!)

(じゃあもう街の外に逃げるしかないじゃないですか!)

 そう悲痛な叫びをあげると、ユウはドラゴンドゥーマが襲撃してきたときに圧倒的な身体能力を活かしたて街の外まで逃げてブレスをかわしたのと同じ要領で、一足飛びに街の外までジャンプで逃げるべく一度屋根の上に飛び乗る。

「は……?」

 そして、屋根の上で街の周囲の様子を見て絶望、そして絶句する。気が付くといつの間にか街の周囲を巨大な竜巻が覆っている。

(すさまじい風速だな。いかに私と融合して得られた圧倒的な身体能力と言えど、質量が小さいこの身体では吹き飛ばされてしまうだろうな)

(いいっ……!?)

 エクスの言葉にユウはまたも絶望する。どうやら下手に飛び込んでも風の壁に阻まれて街の中に引き戻されてしまうようだ。

「だったら……!」

 ユウはエクストラスターを懐から取り出し、トリガーを引く。直後、次元ゲートが出現する。

「よし、これなら逃げられ……る……?」

 しかし、開いた小さな次元ゲートの拡大スピードがやけに遅い。

(ユウ……。彼はどうやらこの街に次元魔法を応用した結界を張ったようだ。ここら一体では次元ゲートの拡大が阻害される)

(はあっ!?あいつそんなことまで出来るの!?)

(大魔導士恐るべしですね……)

 驚愕と絶望に染まるユウをあざけるようにロックの高笑いが響きわたる。

「だーっはっはっはっはっは!俺が踊ってるんだから見てる阿呆のお前も俺と一緒に仲良く踊るんだよ!一人だけ利口な面して逃げるような真似は許さねー!!」

「そんなバカな理由でこんな大魔術やら高等魔術やら次から次と使う奴ある!?」

 ロックのふざけた宣言にユウは思わず悲鳴をあげる。直後、他の魔族達も屋根上へと跳びあがってくる。どうやら、魔族は流石に一般的な人間達よりも身体能力は高いらしい。

「この野郎……逃げ回りやがって」

「もう逃がさねえぞ……」

 ユウを追っかけまわして息が上がったのか、血走った目の魔族達がユウを見据える。

「は……ははは……やだなあ、みなさん。落ち着きましょうよ……」

 強張った笑みを顔面に貼り付けてユウは説得を試みる。

(なんとかごまかして次元ゲートを開き切るのを待ちたいところですね……)

 しかし、ルティシアの言葉に対し現実は無常である。

「うるせぇ!」

「お前なんぞあの全裸の代わりにボコボコのぎったんぎったんにしてやる!」

 息巻いた魔族達はユウに一斉に襲い掛かる。

「ぎゃーっ!?」

 ユウは悲鳴をあげつつも次々と迫りくる魔族の攻撃を肉弾、武器、魔法を問わずかわしまくる。そして、そのどさくさで足を引っかけたり同士討ちを誘発して、とにかく自分は手を下さない様に立ち回る。

「クソ……!」

「あいつ、俺達相手に手を抜いてやがるぞ……!」

「”あいつ”じゃあるまいし、人間がこんな真似をするなんて許さねぇ……!」

 最後の魔族の言葉がユウの耳に引っかかる。

(”あいつ”……?)

 しかし、そんなユウの思考は魔族達の吹き上がる怒りに阻まれる。どうやら、ユウの逃げ回り主体の戦法が彼らのプライドを傷つけてしまったらしく、かえって事態は悪化してしまった。

(そんなあ……どうしろって言うんだよ……)

 大量の魔族に取り囲まれてユウは途方に暮れる。その背後では、楽しそうにゴーレムとマチ男君の殴り合いに興じるロックの笑い声が響き渡っていた。

 

 

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