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祭は盛り上がってからが本番

「はっくしゅん!!」

 移動中のヴァルクスの中、ティキは勢いよくくしゃみをする。

「大丈夫、ティキ?」

 腕で鼻の頭をこするティキにエミリアが尋ねる。

「うん、大丈夫。大丈夫だけど……」

「だけど?」

「何かすごく失礼な事を、誰かが考えてる気がする……」

「?」

 ティキの言葉の意味が分からず、エミリアとアネッサは顔を見合わせた後に首を傾げる。

「しかし、ようやっとユウの動きが落ち着いたようだな……」

 地図情報が表示されているモニター上にて、ユウの位置座標を示す光点が、先ほどまで激しく画面上を走り回っていたのとは打って変わって、現在はとある場所で静止している。

「この場所は……」

 それを見たアネッサの表情が少し翳る。

「アネッサさん……?」

 それを見たエミリアは再び首を首を傾げる。アネッサが見た地図には、ユウの現在地が『ルーレア地方アンチルイーワ』と表示されていた。そのことがアネッサにとってどういう意味を持つのかが分からないエミリアは、それでも彼女なりにアネッサを気遣う。

「先ほどから長時間こちらの操作をされて疲れたでしょう?もしよかったら私が代わりましょうか?見たところ目的地に向けて移動させるだけであれば、そちらの輪と足で踏むところだけでなんとかなりそうですし」

 そう言ってエミリアは操縦席のハンドルとアクセルを指さす。そして、エミリアの提案を聞いたアネッサは頷く。

「そうだな。頼めるか?」

「はい」

 エミリアは穏やかな笑顔で頷くと、アネッサと入れ替わるように操縦席に座る。そして、エミリアがハンドルを握ったその瞬間に彼女の目に怪しい光が一瞬宿ったように見えた。しかし、それも気のせいだろう……と思ったアネッサは特に気にも留めずその場は軽く流し、自身は後方の座席へと座った。

 ――後にアネッサは語る。あの時エミリアの異常に気付いたときに留めておけばよかったと。そして、軽い気持ちでハンドルを預けた結果、あのような恐ろしい目にあうことになるとは思いもよらなかったと。


 その頃、ロックは大爆笑をしながら魔法で魔族達をなぎ倒していた。

「だーっはっはっはっは!どうしたどうした!強さ自慢の魔族達がこんな程度で音を上げるのか?」

 そういってロックは魔族達を煽る。そんなロックをどうにか止めようと、さらに自警団の魔族達が集まってくる。

「うわあ!なんかさらに魔族が集まってきた!?」

 ユウは思わず悲鳴をあげる。

「それはそう。だってここは魔族領の中でも屈指の交易都市。人口だってエルグランドには及ばないにしてもかなりの数よ」

「まじっすか……」

 リーシェルトの説明にユウはげんなりとした顔をする。人間への反感が強い魔族達が多数集う街――どうやら無我夢中とは言え、自分は厄介なところに逃げ込んでしまったらしい。しかし、その場に逃げ込むことになった元凶の方はというと、楽しそうに魔族相手に戯れている。


 ――直後、大きな地響きが鳴る。

「んっ?なんだ?」

 ロックが地響きがする方へ目線を向ける。するとそこには、巨大な人型が現れる。

「なっ!?」

「おー」

 その姿を見たユウは思わず驚きの声を、リーシェルトは少し間延びした感嘆の声をあげる。そしてユウは思わず懐のエクストラスターに手を伸ばす。

「あのじゃじゃ馬め……あんな巨大ゴーレムを持ち出してきたのか……!街の中であんなものを使ったら……!」

 一方、巨大ゴーレムを見た頭は額に手を当ててため息を漏らす。

「……?」

 頭が言っていることの意味がわからず、ユウは首を傾げる。

 そんなことをしてる間にゴーレムはどんどんと街に近づいてくる。そして、街の中に入った時、巨大ゴーレムはロックを指差す。そして、ゴーレムの方からまるでスピーカーを通したかのような女の声が鳴り響く。

「やいやいやい!そこの全裸のエルフ、おまえロック・ラドクリフやな?ここであったが百年目!ご先祖様の無念を晴らすべく、このチコ・ユーディリスが開発したこの魔導ゴーレムでお前を倒したるでぇ!!」

 その言葉を聞いたロックが一瞬、何かを考え込むような顔をした後に満面の笑顔を浮かべる。

「おお!あのオークのユーディリスのところのガキか!何代目かは知らんがまさか俺を倒すためにわざわざこんなものを作るとは!はっはっはっは!その根性気に入った!相手してやるっ!」

 そう叫ぶとロックは身をかがめ、地面に掌を当て、叫ぶ。

「来いっ!大地の精霊……マッチョのマチ男君!!」

 直後、地面に巨大な魔法陣が現れたかと思うと、そこから巨大な黒光りしたマッチョが生えてきた。それを見たユウは唖然とする。

「は……?」

 巨大なマッチョはゴーレムへと近づくとポージングを取る。

「あれが……大地の精霊……?嘘だろ……!?」

(いえ、正しくあれは大地の精霊です)

 目の前の現実を否定したいユウに、ルティシアの言葉が無慈悲に突き刺さる。

(ええ……あんな雑な名前の得体の知れないマッチョが……?)

(あれはロックさんがああいう名前を付けて、ああいう姿になるように召喚したからそうなっているというだけです)

(どういうことです?)

 ルティシアの言葉の意味が分からなかったユウが問う。

(この世界の精霊は先史文明の人類たちが摂理にアクセスし、事象を便利に操作するために用意した人工知能のようなものなんです。そして魔術師は精霊達と契約し、相手に名前と魔力による疑似的な肉体を与えて使役することが出来ます)

(なるほど……つまりあの名前、あの姿はロックが与えたものであり、奴の趣味……)

(そういうことです)

 ルティシアの回答を聞いたユウは再び聳え立つマッチョを見る。そして、その姿を見て改めて正直な感想をユウは口から漏らす。

「どういう趣味だよ……」

 ユウの言葉を知ってか知らずか、ロックは高笑いをする。悠然と敵を見据えてポーズをとる巨大マッチョと、それに対して物言わぬゴーレム、そして全裸エルフの高笑い……。

 アンチルイーワの街……そこは今、混沌の極みに達していた。

 

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