みんな仲良し!らんらんるー♪
思わず叫んだユウにロックと頭が目線を向ける。そして、ロックが先に口を開く。
「なんだ小僧。俺に構ってもらえなくて妬いてるのか?」
その言葉にユウは全力で首を左右に振る。
「いえいえいえいえいえ。私はただのモブですから……。ロック様に構ってもらえなくて嫉妬なんてそんな恐れ多い……。私はこれで失礼いたしますわ、オホホホホ……」
そう言いながらユウは目線を明後日の方向へと向け、くねくねと全身を揺らしながら小走りでその場を立ち去ろうとする。
(どんな逃げ方ですか……)
あまりに普段の振る舞いからかけ離れたユウの物言いと振る舞いにさしものルティシアも少々戸惑う。
(だまらっしゃい!俺はとにかくここから逃げれるならなんだってええんや!)
(それにしては演技が下手すぎではないだろうか)
(うぐぅぅぅぅぅっ!?)
冷静なエクスの言葉にユウは思わず内心苦悶する。しかし、それを微塵も表に出さず、ユウはそのまま歩を進めようとする。
「待て」
「!?」
しかし、ユウの努力も虚しく、威圧感のある声がユウが逃げることを咎める。ユウは思わず静止し、恐る恐ると首を動かし、声の主の方へと目線を向ける。そして、ユウは思わず険しい視線を向ける頭と目線が合ってしまう。ユウは思わず視線を逸らそうとするが、相手が発する圧に負けて視線を逸らすことが出来ない。頭はゆっくりとした、重厚さを感じさせる足運びでユウへと近づいてくる。一刻も早くこの場を逃れたいユウは、脂汗を全身から噴き出しながらも愛想笑いを浮かべる。そんなユウの態度にますます不信感が募ったのか、頭の視線がさらに険しくなる。
「……な、なんでしょう……」
相手の視線の圧と、とにかくこの場から一刻も早く離れたいという衝動に耐え切れなくなったユウが思わず尋ねる。そんなユウを無言でしばし眺めた後、頭は疑問を口にする。
「どうして人間が今、この街にいる?」
頭の問いにユウはどう答えたものかと困惑する。『そこの全裸に追いかけまわされ、気が付いたらこの街にたどり着いていました』と言ったらどのような扱いを受けることになるのか想像がつかないからであった。だが、相手はユウの回答を待たずに言葉を続ける。
「お前とて分かっているだろう。先の大戦の影響がまだ抜けきっていない現在、この地域の対人間感情は最悪だ。お前のような普通の人間がのこのことこの街を歩いていたらどのような目に合うか……」
「そ、そうですね……あはははは……」
(そんなこと言われても困るんだよなぁ……自分、その先の大戦ってのがあったころはこの世界にいなかったし、まったくそこらへんに関係ないし……)
ユウは乾いた愛想笑いを返しながら内心でため息を漏らす。
(この世界にきてから魔族に会うのも初めてですしねえ)
(そうなんですよね……)
ルティシアの反応にユウは頷く。
(とはいえ、そこらへんの事情を話すわけにもいかないですしね)
どうしたものかと二人して思案していると、ロックが口を開く。
「なんだ、今は人間と魔族の仲は最悪なのか?」
ロックの問いに頭は頷く。
「ああ。割と最近まで、魔族と人間は全面戦争をしていたのでな。戦争終結後の今だって一歩間違えれば民間人同士のいざこざから暴動などに発展し、そこから新たな戦争の火種になる可能性もある程度の険悪さだ」
「なるほど」
それを聞いてロックは納得する。それから口を開き衝撃の一言を発する。
「しかし、なんだお前ら。俺以外はみんな有象無象の雑魚で種族の違いなんて誤差の範囲なんだから、雑魚同士仲良くしてればいいのに」
「いや言い方ァ!?」
あまりにも傲慢なロックの一言にユウは思わず素っ頓狂な叫びをあげる。そして、それを聞いて衝撃を受けたのはユウだけではない。頭やその周囲にいる頭の仲間の魔族達も明らかに怒りの表情を浮かべてロックを睨みだす。
「いくら伝説の大魔導士とは言え、今の物言いは看過できんな……」
頭のその言葉を皮切りに魔族達が各々、ロックに対して身構え始める。
「お、なんだ。お前ら、俺とやるつもりなのか?」
その様子を見て、ロックはにやにやと不敵な笑いを浮かべて周囲の魔族達を挑発する。
「無論だ。私は貴様のような破廉恥漢に後れを取るようなことはない。まあ……こいつらは知らんがな。とりあえず、私のことを侮った報いを受けてもらおうか」
それを聞いたロックはゲラゲラと笑い出す。
「上等だガキンチョ!ついでに他の有象無象共も格の違いって奴をつま先から頭のてっぺんまで叩き込んでやる!ひれ伏せやぁ!」
そう叫ぶとロックは指を鳴らす。
「うわあああああぁっ!?」
「ひえぇぇぇえぇっ!?」
直後、すさまじい突風が吹き荒れ、魔族達が悲鳴をあげて吹き飛ばされる。
「なっ!?」
ロックの魔術に頭は驚きと戸惑いの声を上げる。
「はっ!どうしたどうした?まさかこの程度でブルっちまったんじゃないだろうな!?」
ロックは笑いながら魔族達を挑発する。
「はっ馬鹿を言うな!」
頭はロックへ攻撃を加えようと、技を繰り出すための構えを取る。そんな頭の態度に鼓舞されたのか、他の魔族達が一斉にロックに襲い掛かる。しかし、そんな襲撃も気に留めずにロックは再び指を鳴らす。今度は地面から土で作られたカンチョーが次々と現れ、魔族達の尻穴に刺さっていく。
「……なんという精巧なカンチョーの造形……!そして正確無比に相手の尻穴をねらう操作技術……!大魔導士の異名は伊達ではないということか……!」
ロックの魔術師としての能力に頭は思わず唸る。
「いや、感心するところのきっかけそこで良かったんですか?」
ユウが思わず真顔でツッコむ。
「――そう。他にも師匠の魔術で驚くべきところはいくつもある」
「おわっひょぁぁぁ!?」
直後、突然背後から声をかけられたことに驚きユウは跳びはねる。そして急いで背後に振り向くと、そこにはリーシェルトが立っていた。
「い、いつの間に……!?」
気配を全く察知できなかったユウは荒い息を吐きながらリーシェルトに問いかける。リーシェルトは首を小さく首を傾げる。
「着いたのは、今。師匠の魔力が発動したのを感じたから、そこの座標に向けて移動魔法をすぐに発動したの」
「そんな簡単に追ってこれるんですね……便利だなぁ」
ユウはしみじみと感心する。しかし、そんなユウの反応にリーシェルトは首を振る。
「途中で師匠の魔力は途切れて追えなかったし、ここは帝都からも距離が遠いから移動してくるの大変だったよ。移動魔法も使えない無職のあなたがどうして師匠から逃げながらここまで来れたの?」
「うぐっ!」
リーシェルトからぶつけられた疑問にユウは思わず息を呑んだ。
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