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世界に一つだけの変態

「とりあえず兄ちゃんよお……ちょっと金目のモノ置いてけや……」

 相手の魔族はそう言ってユウにメンチを切る。

(おおう、なんというベッタベタな……異世界にもこんな手合いがいるのか……)

 あまりにもベタなカツアゲにユウは感動してしまう。そんなユウの態度に余裕を感じ、癪に障ったのだろうか。相手の魔族は顔を近づけて声を荒げる。

「なんだてめぇ!調子に乗りやがって」

「あっ、いや別にそう言うわけでは……」

 あまり騒ぎを起こすと先ほどの全裸が来るのではないかと考えたユウは何とか穏便に、かつ目立たない様に済ませようと、相手の魔族を穏便に宥められないかと考える。

「ごちゃごちゃうるせぇ!いいから財布でも寄こしやがれ!このクソ人間が!」

 しかし、既に頭に血が上ってしまっているようで、魔族はユウに罵声を浴びせながら胸倉をつかもうと手を伸ばす。

「ん?」

 直後、魔族の男は違和感を感じて動作が止まる。突如視界が何かに覆われ、そしてユウにつかみかかろうとした右手にはなにやら生暖かく、そしてぷにぷにと柔らかい感触が広がっている。

「あ……あああああ……」

 さらにユウのやけに怯えた声が耳に聞こえてくる。

「?」

 疑問に思った魔族の男は一旦冷静になり、ユウへ近づけていた顔を少し離す。そして、自身の手を中心に、その周囲の状況を確認する。そこで魔族の男は初めて自身の置かれた状況を理解する。まず、自身がつかんでいたのは小柄なエルフの男であった。そのエルフの男はどういうわけか空中に浮いていた。そして、魔族がつかんでいたのはどうやらエルフの股間のようなのだが、エルフの股間がやけに光り輝いていたため、実際に自分が何を掴んでいたのかいまいち確証が持てずに困惑する。さらに、視界を隠していたのはエルフの長髪だったことも理解する。総じて、何故このような状況に自身が巻き込まれているのか全く理解できない魔族の男は絞り出すようにエルフに問いかける。

「なんだお前……なんでそんなとこにいる……?」

 魔族の問いにエルフは鼻を鳴らす。

「なんで……?随分と無粋なことを聞くな。お前は先ほど何かしら価値のあるものを寄こせと、その代表例として財布を寄こせとそこの小僧に迫ってたな?」

 そういってエルフは指さす。

「あ、ああ……?」

「しかし冷静に考えてみろ……」

「はあ」

「今、この場で一番価値があるものは何だ?」

 魔族は困惑しながら答える。

「え……金では?」

 魔族の回答に、エルフは一瞬で怒りを最高潮にし、爆発させ、男をぶん殴る。

「馬鹿うんこっ!」

「ぶげぇ!?」

 殴られた魔族はよろけながらけがをした頬を抑える。

「な、なんだよ……!?」

 突如として殴られた理由が分からず、魔族は困惑する。

「この世界、いついかなる時どこに居ようとも、最も価値があるもの……それは俺、ロック・ラドクリフ様に決まっているだろうが!!」

「ななななな、なんなんだよこいつ!?」

 唐突にやってきた理解のできない事態に、魔族は困惑する。

「さあ来い、この世で崇めるべきものが何なのか、お前にはしかと教え込んでやる」

 ロックはそう言うと、魔族の襟首をつかんでずるずると引きずってどこ駆けへと連れ去ろうとする。

「うわっ!?こいつ思ったより力が強いっ!?やだっ!?どこへ連れて行くのっ!助けてっ!」

 魔族の男は若干幼児退行を起こしつつ、ユウの方にすがるような視線を向けている。そんな視線に対し、ユウは神妙な顔をしつつ両手を合わせる。その姿を見た魔族の男の顔が絶望に染まる。

(どなどなどーなーどーなー)

 ルティシアがそんな様子を見てドナドナを歌いだす。

(いいのか、ユウ?あの魔族はすごい表情でこちらを見ているが)

 エクスの問いにユウは両手を合わせて神妙な顔をしながら答える。

(命の危機はなさそうなので……)

(人格の同一性・連続性に危機はありそうだが)

(人生、ふとした瞬間に新たな気付きを得て生まれ変わるってありますよね)

 そう返してユウはさわやかな笑顔を浮かべる。ユウの脳内で行われたやり取りを知らない魔族は、ユウのやけにスッキリとした笑顔という結果だけ見せられ、自分が見捨てられたと解釈する。そのまま魔族の男は大量の涙を流し始めた。

(本当に連れられる時に自分の運命悟った仔牛みたいになってますよ)

 ルティシアに言われてユウの内心に若干の罪悪感が芽生える。しかし、その罪悪感よりもやばい変態に関わりたくないという気持ちの方が勝っていた。ユウは笑顔を崩さず、今度は手を振る。魔族の男の流す涙の量が爆増した。


「――ちょっと待ったぁ!!」


 その時、魔族の男を連れ去ろうとするロックに声をかける者がいた。何者だろうと思い、ユウとロック、魔族の男は声がした方へと視線を向ける。そこには、魔族の一団が立っている。

「頭ァ……」

 その中の一人、先頭に立っていた人物に魔族の男は涙を流しながら目線で訴えかける。それを受けて頭と呼ばれた人物は一度頷くと、ロックに向かって問いかける。

「あんた……全裸で練り歩く傲岸不遜のエルフ……大魔導士ロック・ラドクリフだな?」

 頭の問いかけにロックは一度フッ……と軽く笑ってから答える。

「いかにも、俺様はロック・ラドクリフだが……一つ訂正させてもらおう。俺は大魔導士などという安い存在ではない」

(大魔導士で安いんかい……)

 もうこれ以上関わり合いになりたくないユウは内心でツッコむ。そんなユウを他所にロックは目をカッ!と見開いて吼える。

「俺様は神だッ!」

(美の化身とか美の概念そのものっていうのはどこにいったんだ)

(どうみてもノリと勢いだけで適当に言ってますよ、アレ)

 ユウはやはり内心でツッコみ、ルティシアもそれに応じる。そんなロックに頭も呆気にとられる。しかし、直後に一度咳ばらいをしてから話を続ける。

「とりあえずだ……あんたの肩書は置いといて、俺たちはこの辺りを取り仕切っている自警団だ。この街では代々『全裸で自意識過剰で傲慢なエルフには気をつけろ』という警句が伝えられてきた。そして、その警句に当てはまるあんたが今こうしてうちの団員に何やらしようとしている。この事態は見過ごすわけにはいかん」

「いや、その警句間違っているだろ。警句が俺のことを指しているなら『見た瞬間美の化身と一目でわかるようなエルフが現れたら、その場で両の目を抉り出したくなるから気をつけろ』と伝わっているはずだ」

「はあ……?」

 ロックの回答を頭は理解が出来ず、一瞬フリーズする。

「話進まねぇ!」

 耐え切れなくなったユウは、ついにツッコミの叫びをあげてしまった。

 

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