目的地には着けばいいんだよ、着けば
「ちくしょうっ!こうなったら!!」
ユウは懐に手を伸ばし、内部にしまっているエクストラスターのトリガーを押す。直後、ユウの眼前に空間の穴のようなものが現れる。ユウは迷わずその穴に飛び込む。
「む……?」
ロックはその様子をみて訝しむ。直後、ユウはその空間の穴に飛び込む。そして空間の穴はユウを飲み込んだ直後に消滅する。ロックはユウがいなくなった辺りで足を止め、空間の穴があったあたりを観察する。
「なるほど。次元ゲートを開いて亜空間に逃げ込んだのか……ならば」
ロックが呪文を詠唱し、指を鳴らす。直後、ユウが飛び込んだものと同じ空間の穴が出現する。
「はっはっはっ!」
ロックは笑い声をあげると、そのまま穴へと飛び込む。
――その頃、アネッサはヴァルクスを操縦しながら、目まぐるしく移動する地図上の点を追いかけていた。
「まったく……どういう移動をしているんだ、あいつは……」
一向に追いつく気配のない点を追いかけ続けたせいか、アネッサにもやや疲れが見える。
「ん?」
直後、地図上から赤い点が消える。
「なっ!?消えた……?」
ユウに手渡した身分証にかけられた居場所共有魔法は持ち主の手から離れても、位置に関する情報をパーティリーダーには送信し続けるようになっている。そのため、情報が送られてこなくなるということはそうそうありえないはずである。
「一体、どうなっているんだ?」
まったく原因に見当がつかないアネッサは、ただ首を傾げることしか出来ない。
「はあ……はあ……」
ユウは不思議な空間の中で荒い息を吐いていた。
(まさか君が私の力を利用して、亜空間を出入りするためのゲート……次元ゲートを開いてまで必死に逃げることになるとはな)
いささか予想していなかった事態にエクスも困惑する。
「でも、流石にあいつは次元ゲート開いて亜空間の中まで追って来るってことはないでしょ……」
肩で息をしながらユウはエクスに応える。
(……どうでしょう)
ルティシアの言葉にユウはぎょっとする。
「ま、まさか……追ってくるって言うんですか!?奴がここまで!?」
(可能性はあると思います。彼はかなり次元を移動する魔法も使いこなしているような口ぶりでしたし……。おそらくですが、彼は彼で魔術によって次元ゲートを開き、亜空間の中に入り込むことが出来るんじゃないかと……)
ルティシアの言葉にユウの顔が恐怖に引き攣る。
「むわぁぁぁてぇぇぇぇぇこぞぉぉぉぉぉ……」
その時、遠くの方から自身に向けられた声を聞き取り、ユウの表情が凍り付く。そして、彼の目に、遠くから自身の方へ近づいてくるロックの姿が映った瞬間……
「ぎゃあああああああああっ!でたあああああああああっ!?」
ユウは悲鳴をあげる。そして再びエクストラスターのトリガーを引き、次元ゲートを開いてその中へと飛び込み、元居た次元へと戻るのだった。
「馬鹿め小僧っ!逃がすと思うなっ!!」
ロックも次元ゲートを開き、ユウを追いかけるべくその中へ飛び込んでいくのだった。
「ん……?」
ユウが元の次元に戻った直後、再び地図に点が表示されてアネッサは声を上げる。
「急に居場所が表示されるようになったな……」
「何故急に消えて、また元に戻ったのでしょう?」
エミリアに問われてアネッサは首を傾げる。
「さて……私にも分からない。とりあえず、この赤い点のところに行……」
行こう……と言おうとしてアネッサの言葉が止まる。
「アネッサさん、どうしたの?」
そんなアネッサの様子にティキが疑問の声を上げる。
「いや、この場所を見てくれ」
アネッサが相も変わらず目まぐるしく移動する地図上の点を指さす。
「あっ……」
「これは……」
アネッサが何を言わんとしているのか悟ったティキとエミリアは思わず声を上げる。気が付けばユウの位置を示す点は、魔族領上にまで移動していた。
「ぎゃあああああ助けてぇっ!!」
ユウは叫びながら森の中を駆け回る。その眼前にロックが現れる。
「馬鹿めっ!森の精霊とも通じてる俺なら先回りだって出来……」
「出たあああああああっ!?」
ロックの言葉を最後まで聞かずにユウは全力でロックをぶん殴る。ロックは咄嗟に防御魔法を張るが、ユウの拳の衝撃は吸収しきれなかったのか、そのまま勢いよく吹き飛んでいく。その間にユウはわき目も振らず一目散に逃げていく。
「まったく騒がしい奴だ。……って、ん……?あそこは……」
ロックは空中で軽くため息を漏らしながらユウの姿を目で追いかける。ユウはそのまま近くにある街らしき場所へと駆け込んでいった。
「ひいいいいいいっ!」
街の中に入ったユウは周囲のことなど全く目に入らないまま無我夢中・全力で駆け抜けていく。そのまま手頃な裏路地を見つけ、そこに駆け込むと、そのまま壁にもたれかかり息を吐く。
「ま、撒いたとは思えないけど……とりあえず一息くらいつかないと……身が持たない……何よりも……心が……」
(な、なんかドゥーマと戦ってる時より消耗してますね……)
(うむ、とんでもない相手だな)
ルティシアとエクスも想定外の事態に、珍しい困惑の仕方をしている。
その時、そんな疲弊しているユウに、不審な人影が近づき……そして声をかけてくる。
「おう、兄ちゃん。こんなところで何をしてるんだ?」
「ひぃっ!?」
一瞬、ロックが近づいてきたのかと思ったユウは悲鳴をあげて警戒する。しかし相手をよく見ると、比較的小柄なロックとは対照的に体の大きい男だった。さらに相手はよく見ると肌が青い。
(アレ?人間……じゃない?)
(ユウさん、彼は魔族ですよ)
(魔族……?これが……かつてこの世界で人間と戦争をしていた……)
ユウは思わず相手をまじまじと見る。相手の魔族は目つきは鋭く、肌は青く、牙や角、羽が生えている。たしかに人間とは種族からして異なるようだ。だが、その見た目はどこか前世でプレイしたゲーム等にありそうな容姿をしている。そんなことを考えながらユウは周囲を改めて見回してみる。たしかに、表通りの方を歩く人々も角が合ったり肌の色が異なっていたり、羽が生えていたりと普通の人間とは異なっているように見える。
(……街の中歩いている人達もみんな魔族なのか……)
(逃げ回っている間に気が付いたら魔族領まで来てしまったんです)
(そんなに!?無我夢中だったから全然気づかなかったわ……)
自身がどれだけ駆け回ってたのか分かっていなかったユウは、自身の実際の移動の結果に軽く衝撃を受ける。しかし、相手の魔族はユウの事情や女神、エクスとのやりとりも知らず、そして直前の怯えたような反応を見て調子に乗ったていた。そのため、ユウを睨め付けて、圧をかけてくる。
「なんだあお前、人間か?こんなところで何してやがる……」
「何……って……」
何をどうしてこうなってしまったのか、自身でも混乱しきりで把握しきれていなかったユウは、どう答えたものかと途方に暮れる。
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