信仰は行き過ぎると良くないってばっちゃが
「おまっ……突然何しやがる!」
「いやなに、なかなか素直にならないようだからな。俺の尻の一つも食らわせて、お前も俺を崇拝するようにしてやろうと思ってな」
意味不明な回答に段々とユウは頭痛がしてくる。
「いや、なんで尻を喰らうと崇拝するって断言してんだよ……つーかそもそも尻を食らうってなんだよ……尻で洗脳ってなんだよ……」
頭を押さえながらユウがつぶやくと、ロックはにやにやと笑う。
「何、一度俺という存在を正しく受け止めることが出来るようになれば、そう言った疑問はすぐに解消する。とりあえずおとなしく俺を崇拝しろ」
そう言いながら再びロックは尻をぶつけようとユウにとびかかる。
「んな発言聞いたらますます食らえねえよ!?」
ユウは悲鳴をあげながら咄嗟に回避する。直後、ロックの進行方向上に魔法の小さな壁のようなものが現れる。ロックはその壁を蹴り、進行方向を変えて再びユウに襲い掛かる。
「!?なんの!」
不測の攻撃にユウは驚くが、その攻撃を再び回避する。すると、ロックの進行方向に再び足場が現れる。
そこからの二人の戦いは熾烈を極めることになる。さながらピンボールのようにユウの周辺を跳ねまわりながらロックはユウに尻を叩きこもうとし、そしてユウはその攻撃を回避し続けた。二人の戦いを見守っていたアネッサやルークは唖然とする。
「な、なんてレベルの高い戦いなんだ……」
「俺が目で追うのが精いっぱいだなんて……」
二人のそんな感想を耳にしたユウは思わず悲鳴をあげる。
「事の発端が死ぬほど下らないうえに意味が分からないんですけど!?」
「バカヤロウ!俺様のこと以上に大事なことなんかこの世界にあるわけないだろ!」
そう叫びながらロックの尻撃の速度がさらに跳ね上がる。
(このままでは避けられない……!)
アネッサがそう思った直後、乾いた高い音が周囲に鳴り響く。
「……ほう、やるな小僧……」
ロックはユウの方を見ながら不敵に笑う。
「ああっ!?あれは……!」
ルークが驚きの声を上げる。気が付けばユウは両手でロックの尻を挟み、その動きを完全に止めていた。その様子をみたアネッサが神妙な顔をしながら漏らす。
「真剣……尻刃取り……!」
「尻に刃はないです!」
ユウは思わずツッコみながらロックをアネッサに向けて投げつける。
「がはあっ!?」
ロックの尻を顔面に受けたアネッサは盛大に血を吐く。なにやら鼻血も混じっている気がしたので、ロックが言う洗脳もあながち間違いではないのかもしれないと思ったユウは背筋に寒気が走るのを感じた。直後ロックはアネッサに尻をぶつけた反動で華麗に宙を舞い、そして着地する。
「ほう……見事だな、小僧。だが、まだまだここからだぞ……」
そう言いながらロックはユウににじり寄る。その背後ではアネッサがエミリアに蘇生魔法を受けている。今回は食い縛りが発動しなかったらしい。
「ひっ……!」
そんなロックにユウは思わず悲鳴をあげ……そして
「寄るな来るな近寄るな誰か助けてー!!!」
「あっ!ユウ!!」
背を向けて脱兎のことく駆け出して行った。そんなユウに蘇生された直後のアネッサが声をかける。しかし、ユウの速度はすさまじく、言い終わるころには既に姿が見えなくなっていた。
「待て小僧っ!逃がすかっ!」
その後を追ってロックは移動呪文を使う。
「あ……待って」
そしてその後をリーシェルトが慌てて移動呪文を使って追いかけ始める。
「あっ、おい!リーシェルト!お前が先に行っては私達が追いかけられ……行ってしまったか」
アネッサはリーシェルトの姿もすでに消えたことにため息を漏らす。
「どうしましょう……」
「どうしようっていったって……」
エミリアとティキも困惑し、途方に暮れる。
「……仕方ない。来いヴァルクス!」
アネッサは天に手を掲げ、ヴァルクスの名を呼ぶ。直後、英雄の頂の方から射出されたヴァルクスがアネッサの眼前に飛来・着地し、停車する。そしてアネッサが乗り込むと、ヴァルクスが勢いよく発進した。
「……あれ?」
気が付けば、その場にはルークだけが取り残されていた。
ヴァルクスのコックピット内ではアネッサが制御盤を操作していた。
「……走り出したのは良いですけど……」
「アネッサさん、ユウさんの居場所分かるの?」
そんなアネッサにエミリアとティキが問いかける。
「ああ。丁度ギルドに身分証を発行してもらっていたのが幸いした。私のパーティメンバーとして登録されているユウは居場所共有魔法によって私にどこにいるかという情報を定期的に送られるようになっているんだ……って、なんで二人がここにいる!?」
回答した後に驚愕したアネッサが二人に問いかける。すると二人は顔を見合わせてから申し訳なさそうに答える。
「いや、なんていうか……流れで……」
「なんか……乗らなきゃいけない気分に何となくなっちゃって……」
そんな二人の回答にアネッサはため息を漏らす。
「はあ……まあいい。とりあえずだ……ヴァルクスの地図情報にユウの位置が表示されるようにした。ここにいけばユウと大魔導士、あとリーシェルトもいるはずだ」
そういってアネッサはヴァルクスの内部モニターの一角に表示された地図を指す。そこにはユウの名前と共に赤い点が表示されている。
「なるほど。これでユウ兄ちゃんの居場所がわかるのかあ」
ティキの言葉にアネッサは頷く。
「便利ですねえ……ってアレ?」
エミリアは感心しながらもあることに気が付く。
「ユウさん……移動速度が尋常じゃなく早くありませんか、これ?」
地図上のユウの座標はすさまじい速度であちこち移動し、既に大陸内を三往復程横断していた。
「うおおおおおおおおおっ!来るなっ!来るなっ!来るなあああああっ!」
「待あああああてぇぇぇぇぇい小ぞおおおおおおおおおっ!」
悲鳴を上げながら凄まじい速度で野を、山を、川を、湖を、森を駆け抜けていくユウを、叫びをあげながらひたすらにロックが追いかける。
「ぎゃあああああああっ!追ってくるうううううっ!?」
(まさか私と融合して圧倒的な身体能力を手に入れたユウをここまで追いかけてくるとは……)
普段は落ち着いた物腰のエクスからさえも、声に驚きの色が混じっていた。
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