立つ鳥跡を濁さず……で行きたい
「……」
また、バルトーもスケルトンを相当しながらも横目でユウの戦いを眺めていた。そして、敵を打ち倒しながら移動し、ユウの方へと合流する。
「……?」
突如として自分に近づいてきたバルトーの意図が分からずユウは困惑する。しかし、そんなユウに構わず、バルトーは背中を合わせるようにして立つ。
「その身のこなし……君はアネッサの荷物持ちの少年だな?」
(!?)
いきなり正体がバレた衝撃にユウは思わず身を震わせる。しかし、それでも最後の抵抗と言わんばかりにユウはすっとぼける。
「ダ……ダレデスカ、ソイツ?」
(へたくそかっ!?)
ルティシアにツッコまれる悔しさに耐えながらユウはすっとぼけ続ける。バルトーはそんなユウの内心を知ってか知らずか、軽く笑う。そして迫りくるスケルトン達を一刀で斬り飛ばす。
「まあ、いい。君がどこの誰であろうとも。だが、今共に戦っている仲間として君に聞きたいことがある」
「……何をです?」
ユウはバルト―に返事をしながらもスケルトン達をチェーンソーで粉砕していく。
「君は何者だ?」
「ただの……人間です」
そんなユウの返事にルティシアは冷静にツッコミを入れる。
(ユウさん……その格好でそんなセリフ言ってたら、パロディとして度が過ぎてるって怒られる可能性があるから気を付けた方が良いですよ)
(そう言うつもりで言ったんじゃないですよ!?)
ルティシアの指摘にユウは思わず抗議の声を上げる。しかし、そんなユウの内心で繰り広げられるやり取りをしらないバルト―はさらに質問を投げかけてくる。ユウは慌ててバルトーの言葉へと意識を向ける。
「君は何故今一緒に戦ってくれている?」
「まあ、後片付けくらいはしないと……」
「なるほど。うちの息子にも見習わせたい精神だな」
「はあ……」
バルト―が何を言わんとしているのかわからず、ユウは気の抜けた返事をする。そんなユウにバルトーは、先ほどよりも圧の籠った口調で質問を投げかける。
「君は何故戦った?」
(!?)
ユウはその口ぶりに、エクスブレイザーの正体をバルトーが悟っていることに気が付く。
(流石天下の大将軍。戦いぶりからエクスブレイザーと今のユウさんの関係性を察したんでしょうね)
(はあ……とんでもないですね)
ユウは感心する……と、同時に割り切る。どうせこの後成仏して天に還る人物なのだ。多少なりとも正直に事を離した部分があったとして問題はないだろう。そう考えてからユウは即答する。
「成り行きです」
そして、ユウはさらに言葉を続ける。
「たまたま知り合った誰かが自分で自分の苦しみを乗り越えようとしていた。ただ、その人の手助けをしたかった……それだけです」
「そうか……」
バルト―は何やら一人でユウの回答に納得する。背後にいるバルト―の表情を見ることもできないユウは、自身の回答をバルトーがどのように解釈・評価したかうかがい知ることが出来ない。直後、ユウにさらにスケルトンが襲い掛かってくるが、それをまたもチェーンソーで撃破する。背後でもバルト―が同様にスケルトンを撃破していたらしい物音が鳴り響いていた。どうやら、粗方空から降ってきた大量のスケルトンは全て撃破したらしい。周囲にはもはや動いているスケルトンの姿はなかった。
そのことを確認したユウはバルト―が自分に何を聞こうとしているのか気になり、背後を振り返る。しかし、その場にはバルト―の姿はなかった。同様に周囲を見回すと他の英霊達の姿もない。そして、涙をこらえて空を仰ぐティキをユウは見つける。それらを見た時、ユウは全てを悟り、呟いた。
「そっか……祭りが終わったんだな」
夕日が地平線に沈もうとしていた。
――そして、そんなユウ達の姿を遠くの木の上から見つめている人物がいた。
「なるほど……俺がいない間にこちら側は随分面白い奴が出てきたもんだ」
その人物はそう呟くと、ニヤリと笑っていた。
気が付けばバルトーは白い空間の中を歩いていた。周囲には先ほどまで共に戦っていた英霊達がいる。
「いやー、楽しかったな」
「最後の最後にあんたらと一緒に戦えて良かったよ」
「ああ、来世では機会があればあんた達とまた一緒に戦いたいな」
英霊達は口々に互いを賞賛し合い、別れを惜しみながら歩いている。そうしていると、一人、また一人と周囲から気が付くと英霊達が消えている。
(ああ、ここは……きっとあの世へと続く道なのだな)
自身が今どこに居るのか察したバルトーは心穏やかに一歩、また一歩と自身の歩みを進める。ふと気が付くと、目の前に女性が立っていた。バルトーはその女性に思わず声をかける。
「貴女は……」
そんなバルトーに目の前の女性は頷いた後、自身が何者であるかを告げる。
「お疲れさまでした、戦士バルト―。私は、この世界を管理する女神です……」
「おお……貴方が……」
バルトーは自身が女神に迎えに来られたことに感動の声を上げる。そんなバルトーに、世界を管理する女神であるルティシアは穏やかに微笑む。そしてルティシアはバルトーに問いを投げかける。
「バルト―……一つ聞かせてください。最後にあなたは青い鎧を着た人物に、何か言いたいことがあったのではありませんか?」
「……」
バルト―はルティシアの言葉に考え込む。
「確かに……ありました。でも、言う必要ないと……そう思いなおしました」
「必要ない?」
ルティシアの問いにバルトーは頷く。
「はい。おそらくあの青い鎧の人物は……アネッサの荷物持ちの少年でしょう?彼は、そしてあのヴェンフェルトという男や、それにかかわる世界の異常に何かしらの関連がある。だから本当は彼に最後に『この世界を守ってくれ、そして私の家族達のことを頼む』と言いたかったのです」
「……では、何故そう言うのをやめたのですか?」
ルティシアの問いにバルトーは少し寂し気に笑う。
「呪いを増やしてはいけない……そう思ったからです」
「呪い?」
ルティシアの疑問の声にバルトーは頷く。
「はい。死んだ人間の託した願いは……一歩間違えれば生きている人間を縛る呪いとなる……。勇者サクラが死んだ後のアネッサと剣を交えて、そう思ったんです」
「……」
「あの少年と私はそんな深い間柄ではありません。まあ、仮に願いを託しただけで呪いになることは無いのかもしれません。それでも私は……これからを生きる人間に、私達に縛られることなく生きて欲しい、そう思えたのです」
「そうですか……」
バルト―の回答にルティシアは穏やかに笑う。
「それに、あの少年に限らず……今生きている奴らはきっと、私の願い等なくとも自分が信じるもののために人々を守るために戦ってくれる……そう思えたのです。だから、私からはこれ以上言うべきことはありませんでした」
ルティシアはバルト―の言葉を聞き、満足げに頷く。
「貴方の想いは分かりました。では、次代の者達が貴方の生きた世界を守ってくれることを祈りつつ、天界に行きましょう。そして、いつか来る転生の時を待ちましょう」
「ええ……」
バルトーは満足げに、そして静かにルティシアの言葉にうなずいた。
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