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同時進行は大体しんどい

(あのスケルトン達はアンデッドドゥーマが使役しているはずだ。懐に潜り込んで本丸を一気に叩くぞ)

(了解!)

 エクスの声にユウが応じ、そしてエクスブレイザーは駆けだし、スケルトンの攻撃を回避しながらアンデッドドゥーマに接近を試みる。しかし、次々に繰り出される斬撃にさらされて思うように前進が出来ない。

(がっ!?)

 しまいには背後からの攻撃を受けてしまう。スケルトンの物理攻撃は一撃一撃は大したダメージではないが、だからと言って繰り返し受けて良いものではない。

(地上が駄目なら……)

 エクスブレイザーは空中に飛び上がり、そのままアンデッドドゥーマに飛び蹴りをかまそうと試みる。

(!?)

 しかし。スケルトン達が組体操の要領で壁を形成し、エクスブレイザーの接近と攻撃を兼ねた一撃を阻む。

(これも駄目か……!)

 エクスブレイザーの視界を通してユウはアンデッドドゥーマを睨む。目の前にいるのに、アンデッドドゥーマが果てしなく遠くにいるように感じられた。

(あのスケルトン、数が大分厄介なことになっていますね……。あの密度、朝の横浜から乗った東海道線東京行き並みですよ!)

 ルティシアが気の抜けたようなボケをかます。

(もうちょいマシなたとえありませんでした!?)

 ユウは回避に必死になりながらもツッコミを入れる。

(いえ、やはり元異世界人的にわかりやすい例えはないかと考えまして……)

(さっき、もう俺はこの世界の人間のユウだって言ったうちから!)

 ユウはツッコミをいれる。今はもう、相手の攻撃を避けるのに必死なのか、ルティシアのボケにツッコむのに必死なのか、ユウは自分でもわからなくなりつつあった。


「くっ……!」

 その頃、一転して攻勢に出たバルト―がアネッサに熾烈な連撃を浴びせる。アネッサの攻撃と比べれば手数は圧倒的に少ないが、一撃一撃の踏み込みが鋭く、動作のつなぎが流麗だった。アネッサはその攻撃を剣で受け、かわし、そして合間に反撃を入れる。しかし、アネッサの反撃は全て届くことなくバルト―の剣に受け止められる。

「バルト―将軍の一撃一撃の重さにアネッサの反撃が遅れが出ている……このまま受けに回り続ければやられるのも時間の問題だぞ、アネッサ……」

 ルークは観戦しながらそう呟く。アネッサもそれを認識しているのだろう。懐に入り込み、相手の攻撃をなるだけ力が乗り切る前に受けようとする。しかし、それを悟ったのかバルトーは間合いを取る。そして、それを受けてアネッサも一旦距離を離す。呼吸を整えながら次の戦術を考えるアネッサにバルトーは声をかける。

「大した腕だ。勇者サクラにこの地に連れてこられたお前に稽古をつけてやった時、ここまで強くなるとは思っていたがな……。だが、あくまで想定の範囲内だ。魔王軍との戦いは、そんな私の想定の範囲に収まるような柔なものであったか?お前は、私の想像を超えてくれるものと期待していたが?」

「……」

 バルト―の言葉にアネッサは下唇を噛む。そんなアネッサの様子を見て、バルトーは小さくため息を漏らし、そして問う。


「アネッサ……お前は今、何のために戦う?」

「……」


「何のために魔物の狂暴化事件を追い、何のためにあの少年と行動を共にした?お前がその剣を以て為したいことは何だ?」

「……」


 アネッサは考える。もはや魔王軍との戦いは終結した。それはもはや自身の戦う理由となり得ない。ならば何故、自身は今も戦っているのか。そんなことを考えている内に、アネッサの思考は過去の記憶を巡っていた。


 それは、一年前に遡る。アネッサは、雨の降る街のなかで手に剣を携えていた。周囲の家々は燃え、周りには魔族達が倒れている。そんな彼女の目の前にいるのは青い装束を纏い、頭にサークレットを付けた一人の少女だった。彼女の後ろにはリーシェルトや、人間の兵士たちが控えている。アネッサは相手を睨みながら小さく漏らす。

「勇者サクラ……まさかこれほどの力だったとはな……」

「あなたも、魔王軍の中で唯一の人間の幹部になることはあるね、アネッサ・バートランド」

 アネッサの言葉にサクラは屈託なく笑う。

「あなた達の襲撃は失敗したわ。ここで引いてくれるなら命は取らないけど」

「ぬかせ。これだけ兵を失ったんだ、何の手柄もなしに引き下がったのでは……こいつらにも顔向けが出来ん」

 アネッサはそう言って構えを取り、周囲の倒れている魔族達を一瞥する。そんなアネッサの言葉にリーシェルトが反論する。

「殺してないわ。今なら連れ帰ればなんとかなる。そうでしょ、サクラ」

 サクラは笑顔で頷く。

「!?」

(これだけの魔族を相手に瞬殺し、なおかつ手加減をしていただと!?)

 サクラの底知れぬ実力にアネッサは驚愕する。これが異世界から来た勇者の力ということなのであろうか。アネッサを驚愕させた当の本人は年相応な無邪気な笑顔をアネッサに向けている。そんなアネッサが静かに口を開く。

「でも、意外だった。魔族領に生まれた人間は差別をされ、生きるのも精一杯で、仮に生き延びていても魔族に対する憎悪を募らせている……なんて聞いたけど、そんな感じでもなさそうだね」

「育ての親に恵まれてな……」

 アネッサは口元に小さく笑みを浮かべる。そんなアネッサをサクラはじっと見つめる。

「……なら、人間は憎んでいる?」

「……いや、そう言うわけではない。我々の国にだって人間は多少はいる。彼らとて私にとっては大切な仲間だ。そして、人間国家に所属する人間にだって恨みがあるわけじゃない。だが……これは戦争なんだ」

 自身に言い聞かせるような物言いをするアネッサを見つめていたサクラは、突如背負っていた剣と盾を床に置き、不意に近づいてくる。

「!?」

 サクラの真意が分からずアネッサは困惑する。そして、目と鼻の先まで来たサクラはアネッサの手を握る。そしてアネッサの目をまっすぐに見据えて力強くいった。

「ねえ、だったら私達は分かり合えると思わない?私と一緒に……人間も、魔族も手を取り合って一緒に生きていける世界を作る……そのために手を結ぶことは出来ない?」


 アネッサは過去を思い出し、自分の想いを確かめる。あの時は一度断ったが、最終的に紆余曲折ありサクラと仲間になり、共に行動することになった。そして、最後まで戦い抜き、魔王軍の中でもタカ派だった魔王を討ち取ることにより人類と魔族の講和を実現した。世界は、まだその道半ばではあれど、サクラが望む世界へと歩み出していた。


「だが……」

 アネッサは一人つぶやく。そんなアネッサの様子をルークやティキは怪訝そうに見つめる。

「そうだ、まだ道半ばだ……あの娘が望んだ未来はまだかなっちゃいない……」

 だが、自身はサクラの願いにただ依存していただけだろうか。

「あの娘が望んだこと……でも、それは私自身が望んだからこそ……」

 否、アネッサ自身が人間でありながら魔王軍として人間と戦うこと、そして人間達に仲間の魔族達が倒されることに苦しんでいたからこそ、平和を望んだ。だからこそ彼女と共に戦うことを決めたのだ。

 自身の胸の内を整理しながら、アネッサは剣を再び構える。

「あの子が生きているというのなら、いつか会えると信じて……それより先にあの子と共に望んだ世界を実現するために進むだけだ……!それで『遅かったな』って笑ってやるだけだ……!」

 そう言って顔を上げる。

「あの子がこの世界にもういないというのなら、それがあの子への手向けになると信じて……目指す世界を実現するために進むだけだ……!」

 アネッサは剣を握る手に軽く力を入れる。

「そうだ……私は進む……!誰よりも早く、誰よりも先に信じた未来のために……!」

 


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