登場時先制キックは有効
「なんだ、あの巨大なスケルトンは……!」
アネッサが驚愕の声を漏らす。
(なるほど、どうやらあんなでかいスケルトン自体がそもそもそうそういないのか)
アネッサのリアクションにユウは一人納得する。
(あれは大量の遺骨を魔術で統合して生み出したスケルトンになります。自然発生ではあんな巨大にそうそうなりません)
(つまり、あのヴェンフェルトって奴が死霊をあやつる魔術か何かで作った……ってことですか?)
ヴェンフェルトが去り際に名乗った肩書きを思い出しながらユウはルティシアに問う。
(そう言うことです)
(そのうえ奴は、その巨大スケルトンをドゥーマ細胞で補強しようとしている。かなり危険な戦いになるだろう)
ルティシアの回答に対するエクスの補足にユウは一人息を呑む。
(とりあえず奴がドゥーマ細胞を纏い、動き出すまで時間がある。急ぐぞ、ユウ!)
(はい!……ですがその前に……)
ユウは勢いよく返事をした後にアネッサ達の方へと目線を送る。その時、アネッサ達は対応について話し合おうとしていた。
「とりあえすこの場にいる者、村の者をみんな避難させるぞ!」
異常事態に平常運転になった村長が周囲の者に呼びかける。
「しかし……ここからどこに逃げます?」
「むう……」
ルークに問われて村長は黙りこくる。
「本来なら、戦があればここが皆の避難場所になります。ですが、そこに直接今回は敵が現れてしまった……!」
「でしたら私が時間を稼ぎます」
「待てっ!あれほどの巨体だ、力は未知数だぞ!?」
リーシェルとが名乗りを上げ、アネッサはそれを止めようとする。
「でも、この場にいる皆んなが混乱している。何でもいいから安全の可能性を示して、皆んなが冷静に行動できるようにするための時間と心の余裕を作らないと……。それに巨大なアンデットと戦うなら……やはり魔術師系以外に適任な職業はいないでしょ?」
リーシェルとの淡々とした回答に反論できず、苦い顔でアネッサは言葉を飲む。
「どちらにせよ、祭りはここまで……と、いうことか」
バルトーは口惜しそうに抜いた剣を鞘に収めようとする。
「将軍……」
そんなバルトーにアネッサはかける言葉が見つからず、ただ表情を曇らせる。
「ちょい待ってください!」
その時、ユウがバルトーを制止する。
「ユウ!?」
バルトーは剣を納める動作を停止し、アネッサは目を見開く。そして二人はユウを見据える。
「待て……とは?」
そう言ってバルトーは興味深げにユウを見つつ、疑問を投げかける。
「アネッサさんとの戦い……続けてくれませんか?」
「何を言ってるんだ、ユウ!?敵は眼前にいる!しかもいつ動き出してもおかしくないんだぞ!?」
アネッサの抗議を意に介さず、バルトーはユウに問う。
「何故、君はそれを私に求める?」
「アネッサさんが自分なりに納得するために必要だと思うからです。貴方に勝つにせよ、負けるにせよ……」
バルトーはユウの目を見つめる。
「なるほど……」
バルトーは自身の髭を軽く撫でる。
「だが、敵は眼前にいる。どうにもならないだろう」
バルトーの言葉にユウは笑う。
「大丈夫ですよ。これから得体が知れなくて、お人好しな……みんなの味方が来ますから」
そういう時ユウはバルトーに背を向けて駆け出す。
「あっ、おい、ユウ!?」
アネッサはユウを制止しようとするが、その時にはユウの姿はグラウンドから消えていた。
――ユウは神殿外の物陰に一瞬で移動する。
(驚いたな。君がああいう行動を取るとは)
(そうですね、自分でも意外でした)
エクスに問われ、ユウは苦笑する。
(では、何故あのような発言を?)
(そうですね……やっぱり、ニ、三日とはいえども一緒に旅した仲間だからですかね?それで俺のことも多少なりとも信じてもらえたみたいだし……。だから、あの人が今苦しんでてそれでも前向こうとしてるなら、ちょっとくらい手伝いしてあげる……ってのも悪くないじゃないですか?)
(…………そうだな)
エクスはユウに同意する。その声はいつもよりユウには優しく聞こえた。
(それに、俺……あの祭り見てて思ったんですよ)
(何をです?)
ぽつぽつと語り出そうとするユウの内心を引き出そうと、ルティシアは相槌を打つ。
(生きている人間は、死んだ人間に対して感情の整理をつけて前に進むって大事なんだなって。だったら、一度死んだ自分も、かつての自分に自分なりに感情の整理をつけて今の人生をちゃんと歩むべきなんじゃないかって)
(ユウさん……)
(だから俺は、今を生きている人間として、今一緒に生きている周りの人間を助ける。そのために……出来ることをしよう!そう思ったんです)
ユウはそう言って拳を握りしめる。
(……そうだな。君は、それでいい)
エクスはユウの言葉を肯定する。
(そうですね。今の貴方は、神代勇じゃなくて、この世界を生きるユウです。この世界で出来た仲間のために戦う……それは大事なことです)
ルティシアやエクスの肯定に、ユウは静かに頷く。
(ありがとうございます。それじゃあ気兼ねなく、全力で戦うとしましょうか)
そう言うとユウは懐から変身ツール『エクストラスター』を取り出し、鍔の下のトリガーを押し、頭上へと掲げた。 直後、神々しく発光するエクストラスターから音声が発せられる。
『エクス・フュージョン!』
(次から融合前の口上とかちょっとつけません?)
(気が抜けること言うなあ……まあ考えときます)
アネッサ達はユウが立ち去った後、一体どうしたものかと互いに顔を見合わせていた。そろそろ、異常事態の連続から冷静になった観客達も、地震に迫りつつある危機を認識し始め、ざわつき出している。
「ねえ、あれ……」
リーシェルとが巨大スケルトンを指差す。今、スケルトンはドゥーマ細胞で全身が覆われており、骨の間から不気味に脈打つ赤黒い肉が浮かび上がっている。もはやその姿は、スケルトンというよりさながら巨大ゾンビのようであった。
「ひっ……」
その不気味さにティキは思わず小さく悲鳴をあげる。
「恐るな、息子よ」
そんなティキをバルトーは嗜める。
「彼は味方が来ると言った。それが何なのかは知らないが、まあ信じて待ってみようではないか」
「う、うん……」
父の言葉にティキは気を持ち直す。
「彼を信じたのですか?」
アネッサは少し驚いた様子でバルトーに問う。一体、この短い時間でユウの何がバルトーを信頼させたと言うのであろうか。
「まあな。なんというか、嘘のつけないとんだお人好しの目をしていたからな。ああいう手合いがいうなら、何かしら根拠があるのだろう」
そう言ってバルト―は笑う。
「見て!あいつが動き出した!」
直後、リーシェルトが巨大ゾンビを指差す。不気味な声を上げながら巨大ゾンビが腕を振り上げ、そして神殿へ叩きつけようとする。周囲の観客達は悲鳴をあげ、リーシェルト達は身構える。
『エクスブレイザー!フリーランサー!』
直後、エクストラスターの形態変化音声を鳴らしながらエクスブレイザーが空中から現れ、巨大ゾンビに飛び蹴りを叩き込んだ。そして、その反動で空中で後ろ一回転をし、勢いよく着地する。大量の土煙が舞い上がり、大地が揺れる。
(よっしゃあ!このまま行きますよ!)
ユウはそう吠えると、敵に対して構えを取った。




